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#319 王都攻略 4th

 


 焚火を前に日が落ちるのを待っていた俺にセリウスさんが近づいて来た。

 どっかと俺の隣に座ると、焚火を囲む小隊長達をチラリと見渡す。


 「準備は良いようだな。…俺の部隊が王宮内の敵を駆逐する。お前達は王宮の破壊を頼む。頃合を見て伝令を送る。それを合図に突入してくれ。」

 「了解です。王宮内の敵がセリウスさんの予想より多ければ直ぐに伝令を送ってください。俺達も名前の通り戦闘に参加できますから。」

 セリウスさんは俺の肩を叩くと、頼りにしてるぞ。と小さくつぶやいた。

 そして、俺達から離れていく。


 「同時突入ではなかったのですか?」

 「状況で作戦は変えることが必要だ。俺達が残る理由は2つある。1つは俺達の装備がセリウスさんの部隊から比べて貧弱だ。強襲部隊は鎧だけど俺達は革鎧だ。敵の猛攻の中を進めば負傷者続出を危惧した。

 もう1つは、貴族街の攻撃を行うバリスタの侵入口を急造する為だ。ガルパスが城壁内に入れるように入口を広げるか、入口に斜路を作らねばならない。これは城壁に作る穴を見てからでないと分らないけどね。」


 「分りました。1小隊を直ぐに工事が出来るように手配しておきます。」

 エイオスはナリスにその工事の準備を指示する。直ぐにナリスは自分の小隊に駆けて行った。


 俺はジッと日暮れの迫る空を見ている。

 夕焼け空が東の方からどんどんと暗くなっていく。もう直ぐ日没だ。

 「ディー。そろそろだ。準備にかかろう。…エイオス、日が沈んだら知らせてくれ。」


 そう告げて、王都の北の城壁に向かう。

 そこには、セリウスさん達500人の奇襲部隊がガルパスを下りて投槍を片手に勢揃いしている。


 「セリウスさん。準備は良いですか?」

 「何時でも良いぞ。」

 「サーシャちゃんがバリスタ40台の一斉射撃をしてくれますから、その隙にディーがレールガンを放ちます。…上手く1撃で穴が空かないようなら、2撃を放ちます。突入のタイミングはセリウスさんにお任せしますよ。」


 「了解した。…聞いたな。穴が開くまでは動くな。突入は俺の合図だ!」

 俺に答えると後ろに控えている小隊長に指示する。

 彼等が頷くのを頼もしそうにセリウスさんが見ていた。


 「アキト様。日が沈みました。」

 「サーシャちゃんに連絡だ。…ディー、バリスタ攻撃に続いて城壁を破壊しろ!」

 ディーが俺の傍を離れて城壁の30m程手前に位置する。そして右手を上げてレールガンの発射体制についた。


 俺達の真上でドォン!と小さな炸裂音がした。見上げた空を黒い物体が沢山王宮目掛けて飛んでいく。

 そして、炸裂音と短い閃光が城壁の向こうから響いてきた。

 時を同じく轟音と共に城壁に直径4m程の穴が空く。粘土を拳で殴ったような窪みが出来ているが、貫通には至っていない。


 素早く、ディーが体制を変えて2撃目を発射する。

 濛々と舞い上がる土煙の向こうから炎上する王宮が見えた。

 

 「突撃ー!!」

 大声でせっリウスさんが怒鳴り声を上げて城壁の開口部を目指す。

 「「「ウオオォォー!!」」

 蛮声を上げながら強襲部隊の小隊が後に続いた。

 次々と小隊毎に開口部に突入していく。

 

 「エイオス。本部に連絡。…第4段階を開始した。以上だ。」

 エイオスは急いで自分の小隊の通信兵の所に走って行った。

 「ナリス。強襲部隊が入ったら直ぐに工事を始めろ。ガルパスが入れて、バリスタがつかえなければ良い。」

 「了解です。既に待機しています。」


 見ている内に、セリウスさん配下の5小隊が開口部から入って行った。

 直ぐにナリス達が、ガルパスが通れるように斜路を作り始める。

 

 「エイオス。誰かに中の様子を見させて適宜、俺達に知らせるようにしてくれ。」

 「そうですね。3人程偵察に出しましょう。」

 そんな話をしていると、サーシャちゃんとミケランさんが俺達のいる焚火にやって来た。


 「どうじゃ。セリウスは突入したようじゃな。」

 「いま、偵察を出したから、中の様子がもう少しで分ると思う。」

 俺の話を聞くと2人で、焚火の傍に座り込んだ。ここで状況を聞きながら自分達の出番を待つ気らしい。


 従兵が皆に配ってくれたお茶を飲んでいると、偵察員が王宮の状況を伝えに戻ってきた。

 「報告します。王宮の約半分は火勢が強く近寄れません。強襲部隊が鎮火した区域と燃え残った建屋の掃討を実施中です。敵軍の抵抗は極めて激しく予断を許しません。」

 そう、俺達に報告すると直ぐに開口部を潜って王都に入って行った。


 「エイオス。予定が早まるかも知れないぞ。」

 「全員準備出来てます。爆裂球投射器を第1小隊が装備してますから、セリウス将軍の援護依頼に即応出来ます。」


 「我等のバリスタも良いが、目標が見えぬと少し不安じゃ。」

 「サーシャちゃんは第5段階までは休んでいて大丈夫だ。」

 そう言って、頭をクシャクシャと撫でると、くすぐったそうにしているが、嫌がりはしない。でも、随分と成長したから余りこんな事をすると嫌がられるかな。


 しかし、敵兵の抵抗は予想以上か…。やはり洗脳を疑うべきだな。姉貴の言うように手心を加える訳にはいかないか。

 

 そんなところへ、鎧を着た兵士が駆け寄ってきた。

 「セリウス将軍より要請です。…敵の陣を吹き飛ばしてくれ。以上です。」

 

 「エイオス。第1小隊を突入させる。第2小隊は王宮側の斜路を作らせろ。」

 「了解です。」

 そう言ってエイオスは自分の小隊に駆けて行く。

 「情報は、適宜にな。本部にも知らせておく。」

 「分った。…ディー、行くぞ!」

 

 俺はショットガンを手に、ディーと開口部に向った。エイオスはその前に小隊を率いている。


 「行くぞ。俺に続け!」

 俺はトンネルのような開口部を通って王都に入った。紅蓮の炎を上げて燃える王宮が周囲を明るく照らし出す。


 素早くセリウスさんの姿を探す。何処にもいない。

 炎の治まった宮殿の付属建屋に向かって歩いて行くと、…いた。大声で指示を出しながら、自らも敵を叩き切っている。


 炎の中から飛び出してきた敵兵にショットガンを撃ち込み、セリウスさんの傍に近寄った。

 「来ましたよ。叩く場所を教えてください。」

 「来てくれたか…。奴等は俺達が近寄ると襲ってくる。怪しい場所は爆裂球で破壊しながら進むしかない。その上、爆裂球を抱いて自爆攻撃を仕掛けてくる。」

 

 「爆裂球投射器を持った兵が1小隊来てます。1分隊に2人ずつ付ければ破壊しながら進めます。」

 「それで行くか!…ジェクス直ぐにアキトの部隊のエイオスと話し合って部隊に破壊の専門家を付けろ!」

 

 ジェクスと呼ばれた亀兵隊は直ぐに俺の後に、エイオス!っと叫びながら駆けて行った。

 

 「どうやら、掃討した後で破壊しようと思ったが、同時にせねばならないな。」

 「しかし、自爆ですか…。やはり、完全に洗脳されているようですね。」

 「あぁ、家族を守る為なら、それも分る。だが、奴等の攻撃がそんなものではない。ただの有効な攻撃手段として使っているのだ。」


 「怪我人は?」

 「かなり出ている。北西の城壁の角に集めているのだが、生憎と【サフロ】使いしかおらぬ。先程、本部に連絡はしておいた。」

  

 重傷者も多いという事だな。

 「ところで、この建屋。3階建てですが制圧はどこまで?」

 「2階の途中で反撃にあった。」

 そんな会話をする俺達の横を、爆裂球投射器を持った戦闘工兵と強襲兵が駆け抜けていく。


 しばらくすると建屋の中から炸裂音が聞えて来た。

 炸裂音が移動しているから、制圧が進んでいるように思える。

 

 「上手く行っているようですね。この建屋の脇から王宮前の広場に出られますか?」

 「行かぬ方が良い。1,000人近い弓兵が広場を挟んで対峙している。たちまち矢が飛んでくるぞ。」

 

 王宮の東側の建屋は炎上中だ。これは、焼け落ちない限り広場には出られないぞ。

 「あちらの炎上中の建屋は破壊しても大丈夫ですよね。」

 「あぁ、たまに敵兵が自爆攻撃を仕掛けてくるから、早めに破壊したいのだが…。」


 「王宮の宝は持ち去られているでしょう。ディーのレールガンで破壊します。」

 セリウスさんにそう言って、ディーと燃え盛る王宮の柱の列を確認していく。

 30mも近づくと炎の熱が俺達を襲う。


 「どうだ。一番構造的に弱い場所は分かった?」

 「2撃で崩れるはずです。」

 「その後のエナジー残量は?」 

 「55%です。戦闘行動に支障はありません。」

 

 ディーの応えに頷くと、俺は王宮の破壊を命じた。

 慎重に右腕を突き出して狙いを定めると甲高い音を立ててレールガンが発射された。

 燃え盛る王宮を支える石の列柱が吹き飛ばされて、一瞬王宮の反対側が見えた。

 30m程ディーは移動すると、再度レールガンを発射する。

 そして急いでその場から離れると俺の傍まで走ってくる。


 「離れろ!!王宮が崩れるぞ!!」

 俺の大声に、傍にいた強襲兵が急いで王宮から離れていく。

 

 ミシリと石の横梁に亀裂が入るとドォンっと床に落ちた。それが崩壊の始まりだ。

 たちまちガラガラと音を立てて王宮全体が積み木細工のように崩れ落ちた。

 ズズズゥーンっという地響きを立てて辺りに火の粉と埃それに石屑を撒き散らして王宮だったものは、ただの石材の山に変わり果てる。

そして、再びその残材に火が点く。石造建築物ではあるが木材も多用している。その木材が燃えているのだ。


 「マスター。東の建物も崩れ落ちます。」

 ディーの声に東の燃え盛る建物を見ると、王宮の崩壊の振動が伝わったのだろう。見る間に炎上しながら崩れ落ちた。


 崩れ落ちた王宮の残骸の中から時折炸裂音が聞える。

 「王宮内に生体反応が多数あります。彼等の持つ爆裂球が炎に焼かれて炸裂したのでしょう。」

 「どの位あの中にいるんだ?」

 「50人はまだ生存していますが、時間の問題です。炎が収まりませんから、爆裂球が何時炸裂するかは分りません。救助は不可能と判断します。」


 生きながら焼かれるのか…。幾ら洗脳されていても少し可哀相な気するな…。

 そんな事を考えながら、セリウスさんの所に戻った。


 「王宮と東の建物は破壊しましたが、こっちはどうなってます?」

 「今3階を制圧中だ。この建屋を使えば貴族街の破壊が楽だぞ。良い観測所に使える。」

 「本部との連絡は着きましたか?」

 「あぁ、ブリュー様が水魔法の使い手を10人運んでくれた。数人は亡くなったが、その他の負傷者は至って元気だ。」


 「アキト様。開口部の斜路が完成しました。現在、サーシャ様の部隊が通過中です。」

 ナリスの部隊の兵隊が俺にそう伝えた。

 「直ぐにサーシャちゃんを呼んでくれ。」

 そう兵隊に伝えると、セリウスさんに向き直った。


 「セリウスさん。広場に展開する敵弓兵の除去をサーシャちゃんに頼みましょう。」

 「そうだな。だが、この建屋の制圧が終ってからだ。この建屋の屋根から観測しながら目標の修正をすればボルトの消費を抑えられる。」


 そう言って、炸裂音が聞える建物の3階をセリウスさんは睨んだ。

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