#320 王都攻略 5th
王宮の残骸は今だ燻ぶり続けている。東の建物は白い煙が上がっているが、どうにか燃えるものは燃えてしまったようだ。
ディーの生体探知には王宮の残骸の中に6人程反応があるらしいが、極めて小さい反応だと言っていた。後1時間もすれば全ての反応は消えるだろう。
それでも、彼等が持っている爆裂球は脅威だ。まだ、時折残骸の中で炸裂して灰を巻き上げている。
「どうやら、西の建物を制圧出来たようだ。観測班を屋根に上げているから、もう少しで貴族街の様子が見えてくるぞ。」
「先行して30台を運んでおる。観測射撃が可能じゃ。」
「貴族街の破壊には、王宮前広場を開放しなければなりません。そして王宮前広場に矢が届く範囲の建物を破壊しなければバリスタが良い的になります。」
俺の言葉にセリウスさんとサーシャちゃんが頷く。
そんな所に屋根の上から発光式信号器の連絡が入った。
「準備完了のようじゃな。…距離200D(60m)。方位1時、11時、12時。部隊規模各3小隊…以上。
少し短いが、10台ずつ割り振れば良いじゃろう。バリスタ部隊の分隊と直接交信さえ出来れば3射でケリが付く。」
サーシャちゃんがそう言って立ち上がると、自分で信号器で屋根の上の観測班に信号を送った。そして、後ろに向かって同じように信号を送っているのはバリスタ部隊へ連絡しているのだろう。
「直ぐに始まるぞ。」
焚火の傍に座りなおすと俺達に言った。
直ぐに王宮の残骸の反対側にある広場から炸裂音が連続して聞こえてくる。
そして観測班の信号器が瞬いて見える。
間が空いて2度目の炸裂音が聞こえてきた時の観測班の報告は、敵の遁走を知らせるものだった。
「逃げたのか?」
怪訝そうな顔をしてセリウスさんが俺を見る。
「貴族街に篭ったと考えるべきでしょうね。
このまま、広場に面した建物をバリスタで破壊しながら、その隙に広場に陣地を構築しましょう。残りのバリスタを王宮内に呼ばねばなりません。」
「では、引き続き広場に面した建物を攻撃するぞ。」
サーシャちゃんは、立ち上がると屋根の上に信号を送る。
俺は、エイオスを呼んで第2小隊と第3小隊に王宮前広場の陣地設営を指示した。
少し間をおいて大きな炸裂音が聞こえてくる。続いて小さな炸裂音が聞こえた。
すると、王宮の残骸の向こう側が明るくなってきた。
「早速火事を起こせたのじゃ。火炎弾は有効なのじゃ。」
そう言いながらサーシャちゃんが屋根の上の観測班と信号を遣り取りしている。
「どうやら、広場に近い貴族の館を火事に出来たようじゃ。広場に斬り込む事は無理のようじゃぞ。」
「エイオス!」
「了解です。」
エイオスが焚火を離れて後方に駆けて行く。
「広場に陣を張るのか?」
「はい。そしてバリスタの移動を行います。」
空が段々と白み出した。
どうやら夜が明けるらしい。次々と東から星が消えていく。
今日も良く晴れそうだな。そして、晴れるならば…。
「ディー。貴族街にレールガンを水平発射。広場からなら民家に被害は無いだろう。」
「了解しました。破壊規模が推定できませんので、8割出力で4発放ってみます。」
そう言って、ピョンっと跳ねるように燻ぶり続ける王宮を越えていった。
今度は炸裂音に石が崩れる音が混じって聞えて来た。
そして、ピョンとディーが王宮の残骸を飛び越えて来る。
「東西の貴族街に2発ずつ発射しました。数軒は貫通したものと思います。広場に面した建物はその後のバリスタの攻撃を受けて倒壊しました。」
さっきの崩れる音はその音だったんだな。
だが、これで王宮前広場の陣を作るのを邪魔する奴はいないはずだ。
そんな事を考えている時に、ナリスの部隊から伝令が走ってきた。
「王宮前広場の陣の設営終了。戦闘工兵は陣に展開中。以上です。」
「サーシャちゃん。残りのバリスタを王宮前広場へ移動だ。」
「了解じゃ。40台を移動後に残りのバリスタも移動する。そして、一斉射撃じゃ。」
部隊に戻る伝令を見送りながら俺とサーシャちゃんで次の準備を始める。
「俺達の出番は?」
「バリスタを全弾撃ち尽くしてからになります。…城壁の上に観測班を移動しましょう。あの屋根良いですが、やはり近接した観測も必要です。」
「そうだな。東西の城壁に1分隊を送ろう。城壁も戦闘になる可能性がある。」
「やって来たぞ。我等も広場に移動するのじゃ。」
サーシャちゃんの提案で、俺達は目の前の制圧した建物を通って王宮広場に出た。
王宮から貴族街の最初の建物までは1M(150m)以上離れている。200mはあるだろう。その東西の大きな建物が崩れて、次の建物も1階の壁に大きな穴が開いている。そこから盛んに炎が噴出しているから、崩れ落ちるのは時間の問題のような気がするな。
北の城壁際から発射される爆裂球付きのボルトは炎上している建物の更にもう1つ先に着弾して炸裂している。
俺は近くに転がっていた机を起こしてディーが作った図面を広げた。飛ばされないように広場に散らかっている石材の破片を周囲に乗せる。
「大小の違いはありますが、東西の楼門から伸びる大通りのこちら側に4列に建物があるようです。」
「今攻撃しているのは、2列目か…。残り2列だな。」
「そして、それはここから叩く。…バリスタを集合させるので、一旦攻撃を中断するぞ。」
俺達の話にサーシャちゃんが加わる。
そして、後を向くとサーシャちゃんは屋根の観測班に通信を送った。
「良し。中継完了じゃ。直ぐにここに集まってくるぞ。」
そう言って、バリスタ隊に整列を命じている。
しばらくすると建物の脇を通ってぞろぞろとバリスタ部隊がやって来た。そして、広場の中央に50台2段の構えを取った。
発射準備が整った分隊が次々とサーシャちゃんの旗を上げるんだけど、あの旗はどう見ても赤十字なんだよな。なんか矛盾を感じてしまう。
「アキト。一斉射撃の成果を見るのじゃ。…用意!…テェ!!」
サーシャちゃんが俺達を振り返ると右手を上げる。…声と共にその手を下ろすと、一斉に100本のボルトが発射された。
数秒後に貴族街の東半分が大音響を上げて吹き飛んだ。そして火災が発生する。
「凄いな。【メルダム】を10人が一斉に放ったようだ。…これは各国が黙ってはおるまい。」
「部隊の運用は揉めるでしょうね。今はサーシャちゃんが使ってますが、使い方は意外に難しいですよ。」
「どうしてだ。あれだけの破壊力があるのだぞ。」
「しかし脆弱です。ミケランさんの部隊があって始めて野外運用ができるのです。直援部隊を持たないバリスタ等歩兵以下ですよ。」
「迅速な機動運用が出来る指揮官と別働隊がいる。ということか?…確かに、分散して攻撃された場合は直ぐに殲滅されるな。」
「それが分かれば、セリウスさんも運用できますよ。攻撃力は桁外れ、でも脆弱。この特性を理解した上で運用すれば問題ありません。」
「そんな、ややこしい運用をする指揮官がおらぬのが問題だな…。という事で、サーシャ様がそのまま部隊を率いる事になるのだな。」
セリウスさんは、最後に時代は変るものだ。なんて呟いていた。
確かに、機動戦ではいかに柔軟な思考を持つかに掛かっている。戦場が動いているのだ。ジッと構えていては直ぐに敵に取り囲まれるだろう。全軍を自分の手足のように使える人物でなくてはならない。作戦能力も必要だが、カリスマ性も要求されるのだ。
カナトール戦でサーシャちゃんを知らぬ者はいなくなるだろう。また新しい2つ名が付くかも知れないな。爆弾姫じゃ可哀相だぞ。
2斉射を行なった所で、サーシャちゃんが俺達の所にやって来た。
「観測班の報告はまだか?」
セリウスさんが副官に命じて、攻撃成果と次の攻撃目標の確認を行なわせる。
「すまん。攻撃力の大きさに驚いて、手が止まってしまった。今、急いで確認中だ。」
「まぁ、良かろう。じゃが連携は密にせねばならぬ。バリスタには目が無い。観測班が頼りじゃ。」
「ところで、サーシャちゃん。ボルトは後何本あるの?」
「後4本じゃな。その後は、ここを守る心算じゃ。アキト達の囲みを抜けて北に逃げる輩もおるじゃろう。」
「貴族街の2列目、3列目が炎上中との事です。大通りの付近は無事との報告でした。」
「なら、150D(45m)伸ばして次の発射をするのじゃ。」
そう言ってサーシャちゃんは部隊に戻って行った。
「我々も、破壊の準備をしますか?」
「火災が鎮火したら直ぐに始めるか…。なら、ケイモスを呼ばねばなるまい。そして、北壁の貫通部の防備はミケランに換える必要がある。」
直ぐに副官を呼ぶと伝令を走らせる。
そんな事をしている内に、サーシャちゃんの次の攻撃が始まった。
更に火災の勢いが増す。俺達のいる広場にも風向きで火の粉や灰が降ってくる。
更に、もう一度ボルトが発射された。
大きな炸裂音が響く中、ケイモスさんが俺達の所にやって来た。
「派手にやっておるな。北の壁の向こうにいたので音と煙は見えたがこれほどの事になっているとは思わなかった。
南の楼門からは民衆が脱出しているようだ。ここでどうやら7分と言うところだな。」
俺達の顔色を見ながらケイモスさんが言った。
「はい。そんなところだと思います。でも、残り3分が一番厳しく疲れる仕事になります。」
「それが分ければ大した者だ。この状態で勝ったと思い込む者が多いのだ。」
最後まで手を抜くな。と言ってるんだろうな。
古来、途中までは上手く行って、最後で逆転された戦は数知れず…。俺は、その愚だけはおかしたくない。
従兵が椅子を何処からか調達してきた。俺達の分もあるんだが焦げてるし、形も不揃いだ。だが、これで少し楽になる。
俺達が椅子に座ると、お茶が出て来た。
どこかで焚火をしてるんだな。
俺がタバコを取り出すとセリウスさんもパイプを出す。サーシャちゃんの部隊も後1撃が残すのみだが、貴族街は一面の火の海だ。これではもうしばらく俺達の出番は無いだろう。
そして、最後のボルトをサーシャちゃんの部隊が放つ。
雷鳴のような炸裂音が届くと、サーシャちゃん達はガルパスを広場の一角につれて行った。
そして広場の一角に部隊を展開させると、俺達の所にやって来た。
「後は、アキト達の番じゃな。我はここで様子を見る事にするのじゃ。」
そう言って俺達に胸を張ったが、何時の間にか大きくなったな。
「流石、サーシャ様だ。良くぞ、このように作戦通りに破壊が出来たと感心するばかり。エントラムズの将来、…お任せ致します。」
ケイモスさんは機嫌が良い。将来のエントラムズ王妃になるかも知れ無いからね。その作戦遂行能力が極めて高いと判断したようだ。
「マスター、エナジー充電完了です。」
そう言ってディーが帰ってきた。もう直ぐ昼近くになるようだ。ディーはどこかで羽根を伸ばしてたのかな。
「破壊が完了していない建物の破壊が次の仕事だな。」
「それは、ディーに先行してもらいましょう。
ディー、城壁の上から、レールガンでまだ立っている建屋を攻撃して欲しい。…斜めの射撃だから、被害は民家に及ばないだろう。」
直ぐに、ディーは西の城壁に上って行った。
昼間だからエナジー切れを起こすことも無いだろうし、残材に金属が焼け残っているから弾丸不足にもならないだろう。
さっき、城壁に行く前に片手剣を2本程拾っていたから、それを弾丸に加工するつもりだな。




