#318 王都攻略 3rd
俺と、セリウスさんは本部に作られた物見台に上ってケイモスさんの陣構えの中にサーシャちゃんがバリスタ30台を率いて静々と進んでいくのを見ていた。
ここは、大型の盾を3段に重ねた簡易型の物見台だけど、数人が乗れる位の広さがある。本来はミク達の仕事場なんだけど、眺めが良いからちょっと間借りしている。
「30台で破れるのだろうか?」
「姉貴は、十分だと言ってましたよ。ダメだったら、ディーに集束爆裂球を投げて貰います。」
「国境紛争に使用した奴か…。まだ残っていたのか?」
「爆裂球を革袋に沢山入れて投げるだけですからね。簡単に作れます。王宮破壊用に何個か作ってましたよ。」
「威力はメルダムを超えるからな…。」
王都の南楼門から2M(300m)程離れた鶴翼陣の中に、サーシャちゃんは2段の列を作ってバリスタを背負ったガルパスを整列させた。
「そろそろ、通信が頻発すると思います。ここを引き上げてミクちゃん達に譲りましょう。」
「そうだな。俺達はもう少し近くに行ってみよう。」
俺達が物見台を下りると、直ぐにミクちゃん達と弓兵が取って代わる。
バジュラとグスタフを笛で呼び寄せ、俺とセリウスさんは邪魔にならないように、4M(600m)程離れた南西に場所を取る。
ここなら楼門が良く見えるし、南の楼門付近に展開した部隊の邪魔にはなるまい。
展開した部隊から光の瞬きが見える。
何度か瞬きが繰り返された次の瞬間、一斉にバリスタから爆裂球付きのボルトが発射された。
1…2…と秒数を数え5秒に達した時、楼門の扉に突き立ったボルトが一斉に炸裂した。
もうもうと土煙が立ち込める。炸裂の衝撃波で付近の土砂が舞い上がったようだ。
バリスタ部隊は直ぐに次の発射体制を整え始めている。
そして、土煙が収まってきた瞬間、再度バリスタが発射された。
「どうだ。俺には良く見えんが、確か望遠鏡を持っていたな。」
セリウスさんの言葉に、急いでツアイスを取り出すと楼門にピントを合わせる。
土煙の中に堂々と門が立っている。表面は大分破損しているようだが、貫通した場所はまだ見当たらない。
「ちょっと重いですが、これを使えばセリウスさんも見えますよ。」
俺はkar98を取り出すと、セリウスさんに渡して使い方を簡単に説明する。
「良く見えるな。これで狙撃するのか…。」
そう言いながらスコープ越しに楼門の扉を見ている。
「あれなら、後数回と言うところだろう。ボルトが深く刺さればそれだけ破壊が進行するはずだ。」
「そうですね。…3回目の発射が始まりますよ。」
楼門をスコープ越しに見る俺達は、楼門に30本のボルトが突き立つ瞬間を見ることが出来た。
そして次の瞬間土煙で何も見えなくなる。
「広域制圧用として、バリスタを見ていたのだが拠点攻撃にも有効なのだな。」
「はい。集中運用すれば、あの台数で【メルダム】数発分に匹敵します。しかも相手の矢が届かない距離ですから脅威ですね。」
「敵が打って出る事は…、アルト様が控えているな。」
「その可能性があるからこそ、サーシャちゃんの部隊には直援部隊がいるんです。今回は北に回りましたけどね。」
「アキト…一部に穴が空いたようだぞ。」
3回目の一斉射撃の成果を見ていたセリウスさんが呟いた。
急いで楼門の扉を見ると、確かに隙間が空いている。それ程大きくはない。どちらかと言うとひび割れのようにも見える。
だが、これで、弾みは付く筈だ。今頃サーシャちゃんはニヤリって笑ってるんじゃないかな。あのニヤリは止めて欲しいけどね。
俺達がスコープを覗いていると、そのひび割れに沿って数本のボルトが突き立った。次の瞬間、土埃で何も見えなくなる。
そして、土埃が収まると…楼門の扉に大きな穴が空いている。
たぶんサーシャちゃんは高笑いをしているな。
5回目の一斉射撃が始まった。
更に穴が大きくなり、楼門の扉はその用を成す事は出来ないだろう。
今度の一斉射撃は扉の付根を狙ったようだ。
半数程が王都内に着弾したが、これは敵兵が楼門に障害物を設ける作業の牽制にもなる。
「いよいよ次の番だな。これは返しておく。」
「そうですね。本部に戻りましょう。」
セリウスさんから銃を受取ると俺達は本部へと駆け出した。
本部には姉貴とアン姫それにブリューさん姉妹とミーアちゃんにリムちゃんがいた。ディーも
「どうやら、第3段階は上手く行ってるようね?」
俺達がテーブルに着いた事を確認して姉貴が聞いてきた。
2人で様子を見ていたのはバレバレだったかな。
「あぁ、南楼門の扉は破壊された。サーシャちゃんはバリスタの射撃を継続していたけどね。」
「敵兵が障害物を作ろうとするのを阻止する為と、敵兵が打って出るのを防ぐ為だと思うわ。アルトさん達の部隊もバリスタ用のボルトを運んでいたから、しばらくは続けられるはずよ。」
伝令が本部に駆け込んでくる。
「サーシャ様からです。…第3段階の前半終了。北に移動。準備出来次第連絡。…以上です。」
南楼門への攻撃が終了したので北へ移動するのか。次は王宮への攻撃だな。
「第3段階後半の目的は王宮に火災を起こすのが目的ですが、第4段階の牽制の意味が大きいものです。…よって、夕暮れを以って第3段階後半を終了します。
そして、第4段階を開始します。」
「部隊の移動は終了しているのか?」
「アキトとセリウスさんの部隊が移動すれば完了です。他の部隊は既に北に移動完了しました。サーシャちゃんの攻撃が始まってから移動すれば良いでしょう。」
いよいよ王都に入り込む事になるな。
「第4段階の開始はこちらで判断して良いんだよね。」
「日が沈んでから、という条件を守って頂戴。突入部隊数は敵の数より少ないから、それが悟られないようにしたいの。」
「了解だ。なるべく派手に突入すれば良い。」
セリウスさんの言葉に姉貴がニコリと微笑む。我が意を得たりといったところかな。
そこに伝令が駆け込んでくる。
「サーシャ様の王宮攻撃が始まりました。」
「どれ、俺達も出かけようか。」
「そうですね。」
そう言って立ち上がると、ディーも一緒に立ち上がる。
いよいよ第4段階王都の破壊が数時間後には始まるのだ。
本部を出ると亀兵隊がガルパスに亀乗して本部の囲いの外に集合している。
俺とセリウスさんはそれぞれの部隊に手を振って別れた。
「全て準備は整っております。」
エイオスはバジュラに乗る俺とディーを見て報告してきた。
「良し。王都北側に移動だ。…そこで早目の夕食を取りながら日暮を待つ。移動の指揮はエイオスに任せる。直ぐに移動を開始してくれ!」
了解。と短い返事をすると早速部隊の前に進み出て号令を掛けた。
一斉に300亀が移動するのを真近で見るのは迫力があるな。
少し遅れてセリウスさんの部隊が移動を開始した。
俺は王都の城壁から2M(300m)程のところをゆっくり移動してディーに中の様子を探って貰う。
「大分、右往左往しているようです。…南の楼門内の広場は500人程で扇型に陣を組んでいます。
西の楼門内の広場には100人程がおりますが、北に移動しています。
貴族街と王宮は人の出入が激しいですね。2,000人以上が動いています。」
たぶん、王宮への攻撃で物資の移動や財宝の移動なんかをしているのだろう。
俺の目には、10分程度の間隔をおいて一斉に放たれる爆裂球つきのボルトが炸裂する土埃が王宮付近に見えるだけだ。
俺達が北の部隊と合流する頃には、王宮からと思われる火災の煙が上がりだした。
十数枚の盾を横に並べただけの簡単な指揮所にサーシャちゃんの姿が見える。
俺達がそこに行くと、ケイモスさんの部隊が丸太を数本抱き合わせたような物見台を作っていた。
確かに、ここからでは中の様子がまるで分らない。
物見台が出来ると、歩兵がスルスルと上に上っていく。
そして直ぐに知らせが届いた。
「王宮内の2箇所に火の手が上がっております。」
「もう少し、派手に破壊したいが石造りは丈夫じゃのう…。」
「南の楼門で使おうと思っていた集束爆裂球が2個ありますが、投げてみますか?」
ディーの提案にサーシャちゃんが振り向いた。
「城壁の南100D(30m)に投げられるか?」
ディーは大きく頷いて、バッグから袋を取り出して俺の横に爆裂球を並べ始めた。
集束爆裂球が2個、それに林の火攻めに使うはずだった油を染み込ませた布で包んだ爆裂球、通称火炎弾だな。革袋に油が染み出してるぞ。
「面白いのを持っておるな。これは我等の部隊にも応用できるのじゃ。」
そう言って隣の副官になにやら告げている。
「時間稼ぎに、その4つを間隔を空けて投げ込んで欲しいのじゃ。」
早速ディーが2つの集束爆裂球を持ってバリスタの前に立った。
「バリスタのボルトが足りぬ。ここからは一斉射撃を止めて20台ずつ発射していく。リムに搬送を頼んだのじゃが…。」
移動式のバリスタはボルトをそれ程積んでいない。バリスタに3本、補助兵の乗るガルパスに6本位だ。もう5回程一斉射撃をしているから半数を切ってる訳だな。
王都の中から【メルダム】のような炸裂音が聞えて来た。
ディーが集束爆裂球を投げたのだろう。王都内の生体反応が集中している箇所をねらったはずだから、敵の被害は甚大な筈だ。
しばらくして、再度大きな炸裂音が聞えてくると、俺達の所にディーが戻ってきて、今度は火炎弾を持って出かけていく。
そして、ここからでも分る火炎が炸裂音と共に王都から上がった。
「新たな火災が発生している模様です。」
伝令が俺達に内部の様子を伝えに来た。
続いて、もう一度火の手が王都に上がる。
「準備完了です。」
「では手筈通りに20台づつ発射するのじゃ。」
報告に来た副官にそう指示すると、王都を見てニヤリと口元で笑う。
「投擲終了です。夜間突撃に備えエナジーの充電に入ります。」
「ご苦労さん。日暮前に戻って欲しい。」
俺の言葉に小さく頷くとディーは指揮所を去って行った。
そして再びバリスタの攻撃が始まるが、今度は20台づつだからさっきまでの迫力はない…。しかし、炸裂と同時に火の手が上がる。
「先程の火炎弾を参考にしたのじゃ。爆裂球を布で包み油を掛ければ、即席の火炎弾じゃ。」
伝令が走ってくる。
「王宮が燃えています。敵兵が王宮をどんどん離れていきます。」
「本部にも知らせるのじゃ。王宮炎上の知らせはミズキが待っておろう。」
伝令は直ぐにどこかに走っていく。通信所があるんだろうな。
「王宮は凄い事になっているぞ。窓から火炎が噴出している。」
セリウスさんが俺達の所に来るなりそう言った。
「ひょっとして、あれに上って見て来たんですか?」
「次は王宮の破壊だからな。状況と全体の作りを知るのは指揮官の勤めだ。」
指揮所の皆はセリウスさんを感心して見ているけど、俺は単なる好奇心からだと思うぞ。
間隔をおいて発射されるバリスタの即席火炎弾は王宮に猛威を振るっているようだ。
城壁の外まで燃え盛る炎が見える。
「さて、第3段階は終了じゃ。バリスタ部隊は横に移動する。次の出番は第5段階じゃから、ミケランと城壁の近くでボルトの補給をするのじゃ。」
そう俺達に告げると、さっさと副官共々指揮所を離れて行った。
「いよいよですね。姉貴は突入時期はこちらに任せると言っていましたが、条件付です。」
「あぁ、日が落ちてからだったな。今の内に食事を済ませておこう。突入したらしばらくは何も食えない。」
俺達は夕暮れに集まる事を約束して部隊に戻る事にした。