#317 王都攻略 2nd
「本当に良いのかな…?」
「ミズキは燃やさねば良いと言っておったぞ。楼門があると封鎖が厄介じゃ。」
俺とアルトさんは西の楼門に近づいていくディーを見ていた。
南の楼門からは爆裂球の炸裂音が聞えるが、矢についている小型のものだから、敵を驚かすのが精一杯だろう。
王都側に落ちた爆裂球で怪我する者がいたとすれば相当に運が悪いと思わなければなるまい。
俺達が望遠鏡で西の楼門を見ていると、突然楼門が吹き飛んだ。ガラガラと石造りの残骸が落ちているのが見えるが、もちろん音等聞えない。
「掛かれ!」
一斉に戦闘工兵が木材を引き摺って楼門に押し寄せていく。
「援護部隊突撃じゃ!」
アルトさんの命令で別の部隊が楼門に向う。
ディーは東の楼門に向ったからしばらくはこっちに来ないだろう。
俺とアルトさんもガルパスに亀乗して王都の西の楼門に向う。
楼門から200m程の所で戦闘工兵の仕事を2人で見守る事にした。
大きな丸太が次々に門を支えるように立て掛けられると横木がカスガイで打ち付けられていく。
組み上げる者、打ち付ける者、運ぶ者と役割分担が出来ているようだ。
アルトさんの部隊が運んでくれた木材も次々と楼門封鎖に使われていく。
そして、敵兵もそんな作業を許すはずも無かった。次々に城壁に上がると戦闘工兵達に矢を射掛ける。
そんな敵兵をアルトさんの部隊がクロスボーで倒していく。
ツアイスの視野はそんな激戦を映し出していた。
何人かの戦闘工兵が矢を浴びて倒れている。
アルトさんの部隊がいち早く回収すると、【サフロ】で治療をしてくれた。
致命傷には至っていない。背中に牛の皮を数枚張り合わせた甲羅のように背負った鎧モドキと屯田兵用の大型ヘルメットが結構役に立っているようだ。
「見かけは悪いが有効ではあるの。」
その光景を見ていたアルトさんが呟いた。
たまに城壁の後で爆裂球が炸裂する。最初はこちらから撃っている爆裂球付きのボルトかと思っていたが、どうやら違うようだ。
城壁の上で爆裂球を持った兵隊が、ボルトを撃たれて城壁から落ちるのを見てようやく理解出来た。
【メルト】も爆裂球も降って来ないのは、率先してそいつ等を倒しているようだ。
時計の進み方が遅く感じるような戦闘がやがて収束する。
楼門の封鎖を完了した戦闘工兵が引き上げると、城壁の上の敵兵も次々と姿を消していく。最後に爆裂球の付いたボルトを城壁内に一斉に放つと、アルトさんの部隊も引き上げてきた。
エイオスが俺の所にやって来る。
「作戦終了しました。西の楼門からの脱出は困難と判断します。戦闘工兵の点呼結果。負傷者は57人。全て軽症で治療は済んでおります。明日以降の作戦に支障はありません。」
「ご苦労さん。今夜はここまでだ。明日は俺達は移動だろうから、部隊を引き上げたらゆっくり休んでくれ。それと本部への報告もだ。」
アルトさんの所にも小隊長が状況報告にやって来る。
フムフムと聞いていたようだが、俺と同じように労を労って部隊の移動を指示していた。
「さて、帰って報告じゃ。東の部隊はディーがおるから大丈夫だとは思うが気になるのう…。」
「大丈夫とは思うけどね。…ミーアちゃんのところの陽動も終ったみたいだな。」
バジュラを本部に進めていくとミーアちゃん達の部隊が本部の方向に移動しているのが見えた。
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本部の天幕に入ると、皆が一斉に俺達を見る。
早速自分達の席に着くと結果を姉貴に伝える。
「西の楼門封鎖は完了した。ディーが東に回っているから東の首尾はディーから聞く事になる。」
俺の言葉を聞くとアン姫が図面に封鎖した事を示す×印を書き込んだ。
「ご苦労様。では、もう少し待ちましょう。」
姉貴は俺達を労うと、従兵がお茶を運んでくれる。
少し経って、ミーアちゃんとディーが本部に入ってきた。
「東の楼門の封鎖を完了しました。周辺の岩を一緒に積みましたから東からの脱出は不可能です。」
「南の楼門に対する陽動を終了しました。」
「ご苦労様です。ではこれで王都攻略の第1段階は終了です。明日は早朝から第2段階の陣構えをします。
午前中にケイモスさんとサーシャちゃんのバリスタ30台は配置を終えるように願います。王都の北に移動する部隊の出発は午後からでも良いでしょう。今夜はここで、解散です。」
姉貴の宣言で俺達は自分達の天幕に帰っていく。
冬用天幕はここでも役に立つ。嬢ちゃん達は天幕の奥に大きな寝袋に包まって一緒に眠ってしまった。
姉貴も隣の寝袋に入ると直ぐに寝息を立てている。
まだ戦闘の興奮が冷めない俺は、近くの焚火に立ち寄って一服する事にした。
焚火は弓兵達が集まっていた。アン姫の部隊が本部の警備と伝令を務めている。そんなだから今夜の当番はこの焚火を基点に見回りをしているんだろう。
「こんばんは。ちょっと一服させてもらうよ。」
「どうぞ。大変でしたね。無事に済んで良かったです。」
そう言いながら、俺の席を作ってくれた。早速、タバコに火を点けると、弓兵の中にも俺に釣られてパイプを取り出す者がいる。
「本部詰めは大変だね。」
「それ程でもありません。弓自慢が揃っているんですが、使う機会が無いとぼやいてますよ。」
それは良い事じゃないかと俺は思う。
ここが戦闘に巻き込まれるようではお終いだし、姉貴もそんな愚は起こさないだろう。
「俺は平和が一番だと思うけどね。ハンターではあるけど、のんびりと釣りをしながら暮すのが俺には向いてるよ。」
「ははは…。この戦が終れば恩賞は思いのままですよ。私としては、このまま将軍になって王都に屋敷を構えて頂きたいものです。」
「ネウサナトラムのリオン湖に面した小さな石作りの家があるんだ。冬は身長程雪が積もるが、夏は穏やかで過ごし易い。村人も良い人ばかりだし、俺はそこでのんびり暮すよ。」
そう言って立ち上がると、弓兵達に別れを告げて天幕に戻る。ディーが入口から退いてくれたので姉貴の寝袋に潜り込んだ。
少しでも眠っておかねば、…明日は結構やる事が多そうだ。
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足を思い切り蹴飛ばされて俺は目が覚めた。
俺をジッと見ているディーと目が合ってしまった。結構大きな物音を立てたに違いない。
痛む足を擦りながら素早く装備を身に着ける。外はすっかり明るくなって、忙しそうに行きかう兵隊達がディーの後に見えたからだ。
顔を洗おうと外に出ると、遠くから杭を打つ音が聞えてくる。
大きな木桶に【フーター】でお湯を入れるとジャブジャブ顔を洗った。
本部に向いながら杭を打つ音が何かを見ようとしていると、セリウスさんが双子を連れて歩いていた。
「「お兄ちゃん。おはよう!」」
「あぁ、おはよう!…早いね。もう起きたんだ。お姉ちゃん達はまだ寝てるぞ。起こしてきてくれないか?」
双子は元気に頷くと、走っていった。場所は知ってるのかな?
「おはようございます。」
「おはよう。お前も早起きだな。」
そう言って俺を見る顔は笑いを堪えている。
「まぁ、色々あるんです。…所で、早ければ今夜ですよ。」
「俺も、そう思う。まだ、朝食前だな。俺の部隊に来い。」
セリウスさんに引き摺られるように行った先では、大鍋のスープを皆に分けている最中だった。
2人で並んで順番を待つと、深皿に入った具沢山のスープに黒パンを渡された。
こっちだ。と俺を招くセリウスさんに連れられて焚火の輪の中に納まる。
「俺の部隊だ。半分はアルト様に指揮を任せているが、残りの5小隊を率いる小隊長とその副官達だ。」
「アキトです。よろしく。」
俺の言葉に、少し座がざわめいた。
「お前達にはハンターと言うよりは、うどん2号店の店長の師匠と言った方が判り易いだろう。」
「その噂は本当なんですか?…あれだけ王都で賑わっていたら、さぞかし1号店は凄い店構えなんでしょうね。」
若い副官が目を輝かせている。
俺とセリウスさんはそんな男の表情に思わず笑い出した。
「元祖うどん1号店は屋台なんだよ。しかも、1年で1回20日だけ営業するんだ。」
俺の答えに全員が吃驚している。
「本当だ。アキトが最初にうどんを作った。3年前になるか…。狩猟期に訪れた客の口コミで広がり、年齢的にハンターから足を洗おうとした男達に、その作り方を教えたんだ。」
「ハンターは全て自己責任。廃業するハンターが次にする仕事はそれ程無いですからね。彼等は成功者なんでしょうね。」
「あぁ、ハンターとしてはそれ程腕が立つ訳では無かったようだ。今は安楽な暮らしが危険を伴わずに出来る訳だ。」
セリウスさんが相槌を打ちながら答えた。
「それ程流行ってるんですから、1号店も常時続ければ良いでしょうに?」
「それは無理。好きなことをたまにするのは苦痛じゃないけど、毎日なら大変だよ。それに、客商売は俺には狩猟期が限度だな。」
そう言ったら、一同に笑われた。
「何でも、一生続けるとなれば楽なものは無い。たまにやるから面白く出来るのだ。…どれ、そろそろ本部に顔を出すか。今日は移動がある。戦闘は早ければ今夜からだ。武器の手入れを忘れるなよ。」
セリウスさんと一緒に焚火を離れて本部へと歩き出す。
さっきまで聞えていた杭を打つ音が何時の間にか無くなった。
本部に入ると朝食の最中だった。ディーも座ってスープを飲んでいる。
従兵に俺達は済ませた事を告げて席に着くと、お茶を出してくれた。
大体揃ってるのかな?とテーブルの顔ぶれを眺めると、ミク達がいない。
「ミケランさん。ミクちゃん達は?」
「通信兵達と一緒にゃ。…最近言う事を聞かなくなってきたから、このまま預けたいにゃ。」
まだ、4つになって無いぞ。それって育児放棄じゃないか。
「甘えてるんですよ。俺達の言う事はちゃんと聞いてますから。」
「でも、貴重な人材に変りはありません。このまま部隊にいてくれると助かります。」
アン姫がミケランさんに言ってるけど、ネコの子を貰う訳じゃないから、たぶんダメだぞ。
「まだ少しは王都にいられるだろう。だが、それはネウサナトラムのギルドを預ける者がいるからだ。彼女が嫁に行く前には帰らねばなるまい。」
「シャロンさんでしたか…。お姉様はご結婚して王都にいるんですよね。」
「確か、旦那はケイモスの軍にいるはずだ。分隊長を務めている。」
そんな事を話しながら姉貴達は食事を終えると、テーブルを片付けて王都の図面を広げた。
「さて、王都攻略の第2段階です。現在、ケイモスさん達が鶴翼陣を盾で作っているところです。
サーシャちゃんは打ち合わせ通り70台のバリスタを王都の北1M(150m)に布陣してください。矢が届くようなら100D(30m)位下がってね。
サーシャちゃんの布陣の援護は、北をミケランさん。南はアルトさんにお願いします。
ミーアちゃんとリムちゃんはケイモスさんの陣の出口から続く大きな柵を作ってください。大きい方が良いわ。王都の民衆が押し寄せてきても入れるくらいにね。…そうね。カルナバルより大きな柵を作って。杭を打ってロープを上と真中に結ぶ位の柵で良いわ。
アキトとセリウスさんの部隊はここで待機。
ケイモスさんの部隊の1,000人は北に行ってバリスタの警護をしてもらいましょう。
携帯食料は3日分持って行ってください。作戦途中で補給は出来ません。」
姉貴の指示が終ると、早速皆が出かけていく。
俺とセリウスさんは居残りだ。




