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#309 北の村の戦い

 村の北門の丸太で作った塀を背にショットガンを連射すると、マガジンに弾丸を補給しながら、更に東に移動する。

 ディーがブーメランを水車のように振り回しながら、俺の前を左右に移動しているので接近してくる敵兵がブーメランで叩き飛ばされている。

 時折、投げ付けている爆裂球も兵が固まっている場所を選んでいるようだ。

 敵兵も爆裂球は投げてくるのだが、ディーがブーメランで打ち返している。テニスを始めたら結構上位に行けそうな感じだぞ。

 そんなディーの姿を見ながら、左右から回り込もうとする敵兵をショットガンで倒していると、村の南で大きな炸裂音が連続した。

 ウオォォー…という蛮声も聞える。


 どうやら、エイオスが南門を破って突入して来たようだ。

 敵兵が皆、南を振り返る中に、素早く数個の爆裂球をディーが投げ入れた。

 俺はその隙に弾丸をマガジンに装填する。


 エイオス達の蛮声と爆裂球の炸裂音が近づいてくると敵兵が浮き足立ってきた。

 キョロキョロと南と俺達を見比べて、何人かの敵兵が北門に掛けて行く。それを見た兵隊が更に続く。

 やがて、川のように敵兵が北門に向かって流れて行く。


 もう、俺達に向かって長剣や槍を向けるものはいない。先を争いながら北門に向かうから、転げた兵士は仲間に踏まれ命を落として行く。

 そして、エイオス達が蛮声を上げながら敵兵を追い詰めている。

 家の中にいた敵兵も、ぱらぱらと外に飛び出してきている。仲間がいなくなれば嬲り殺しになると思い込んでいるようだ。

 

 逃げ出す兵は放っておいて、向かって来る敵兵だけを刈り取っていく。しかし、敵兵達は離れた場所にいる俺達に目もくれず、逃走を図る者が圧倒的に多い。


 戦闘工兵は2人1組で戦っているようだ。余りグルカを振るう者はおらず、ガルパスの上から爆裂球付きの矢を敵兵に放っている。


 そんな戦闘工兵の1人と目が合った。

 「アキト様!…直ぐにケリが着きます。もう少し、お待ち下さい!!」

 俺にそう大声で言うと、残った敵を北門から追い出して行った。


 敵兵が北門を出ると、急いで門の修理を始める。

 もともと工兵だから修理はお手の物だ。

 そんな中、辺りが段々と明るくなってきた。


 「負傷兵の手当てを急げ。敵兵は全て追い出せ。軽く手当てをして動けない者を運ばせろ。小隊長は副官を連れてギルドに集合だ。俺達は先に行ってる。」

 エイモスは俺に頷くと近くの副官になにやら指示を与えている。

 後をエイモスの任せて、俺とディーはギルドに向う。


 「ディー。この村を中心とした10km四方の地図を作ってくれないか?…この世界は絵図みたいな地図だから、この村を守るにも作っておいた方が良いと思うんだ。」

 「了解です。」

 そう言うとディーが俺の傍を離れてピョンっと空に飛び上がる。

 数箇所で上空から地形を調べてくるんだろう。調査よりも地図を書く方が時間が掛かるけど、プリンターが無いから仕方が無い。


 ギルドの建物は石造りだ。扉が見当たらないから、後で適当な物を見つける必要があるな。

 ギルドのホールは何処も変り無い。正面のカウンターと掲示板に数個のテーブルと椅子、そして暖炉だ。

 ここをこの村の指揮所にしよう。


 「エイオス隊長よりアキト様を手伝うように命じられてやってきました。」

 不意に後から声を掛けられた。

 振り向くと、数人の若者が立っている。エイオスが気を利かせて送ってくれたのだろう。

 「テーブルを2つほど合わせて、周りに椅子を並べてくれ。それから、このホールの掃除だ。ここを指揮所にしたい。」

 若者が作業に取り掛かる中、カウンターの奥を見に行く。

 いつもならお姉さんが座っているカウンターにも、奥の事務所にも取り留めておくような物は無い。

 掲示板に貼る未使用の依頼書の紙と筆記用具をカウンターに出しておく。

 後は、壊れた椅子を床に叩き付けて薪を作った。

 暖炉に薪を投げ入れて火を点ける。

 窓の戸を開くと朝日がホールに差し込んだ。

 若者達が掃除を終えたようで、腰のバッグからポットを取り出して水筒の水を入れて暖炉に掛けている。もう直ぐお茶が飲めるのが少し嬉しくなった。


 「小隊長達を連れてきました。」

 「そこのテーブルに着いてくれ。」

 エイオス達がやってきたので俺はテーブルを指差した。


 テーブルは2つ合わせても結構小さい。まぁ、ここで次の狩りの打合せをする位のテーブルだ。数個のお茶が乗れば良いと考えていたのだろう。


 「現在、周辺の状況をディーが調査している。俺達は明日、この村を守備隊に明け渡す。その前に彼等の安全を確保する為の措置をする事が俺達の仕事になる。

 第1小隊は村の周囲の塀を補強してくれ。材料は民家を解体しても構わない。

 第2小隊は水脈を調べて新たな井戸を掘ってくれ。1,000人がいたんだから井戸はあるだろうが、立ち去る時に毒や汚物を投げ込んだ可能性もある。使わない方が賢明だ。前の井戸は潰して欲しい。

 第3小隊は半数を門の警備と巡回警備を担当してくれ。慌てて北門を出て行ったから、敵兵はそんなに遠くへは行っていないと思う。反撃されたら厄介だ。残りの部隊は宿泊場所の確保と薪作り、それに俺達の昼食の準備だ。

 朝は、携帯食だが、昼食は少しマシな物が食べたいぞ。」


 最後の俺の言葉に場が和む。そして次々と出て行こうとするところで、エイオスを呼び止める。

 「何でしょうか?」

 「この村の一番高い建物に見張り台を作りたい。発光式信号器で南方に連絡がとれるような場所が良いんだが…。」

 「何とかしましょう。それと、2人残しておきます。従者として使ってください。」

 そう言うとエイオスは若者2人を残して去って行った。


 「まぁ、立っていないで座ったら?…俺とそれ程歳も違わないだろうし、気楽にしなよ。」

 彼等は椅子を持ってきてテーブルの端の方に座った。

 「アキト様はテーバイ戦の英雄だとエイオス隊長に聞いています。たった一人で数千人が押し寄せてくる城門を守ったと聞きました。セリウス将軍からはグライザム亜種を殴り殺したとも聞いています。アン姫様からはレグナスすら片手で倒したと聞き及んでいます。月姫様達が持つグルカの柄はその時の牙を加工した物だとも…。」


 話が話を作ってるような気がするぞ。

 「半分はそうだと思ってくれ。全て俺一人ではないよ。俺はそんな化け物じゃない。皆、周りに頼りになる連中がいたからだ。1人ではそれ程の事は無理だよ。

 テーバイ戦の時も俺とディーは確かに通りにいたが周囲の民家の屋根には亀兵隊が張り付いて援護してくれたんだ。そこから飛び出してきた敵兵を俺とディーで刈り取ったのが実状だよ。」


 「それも聞きました。だから俺達は亀兵隊に志願したんです。戦場を自由に走り回り敵を翻弄する。今までの正規軍とはまるで違うと感じました。」

 「だけど、配属されたのが工兵と聞いてガッカリした…。と言うんだろ。」

 俺の言葉に2人は小さく頷いた。


 「しかし、亀兵隊本体の先鋒なのには驚きました。工兵って、軍の後から付いてくるとばかり思ってましたから。」 

 もう1人の若者もうんうんと頷いている。


 「俺達は工兵だけど、その前に戦闘と言う文字が入る。戦場に一番乗りして後に来る部隊の陣地を設営するんだ。場合によっては敵のど真ん中にだって作らねばならない時がある。こんな任務を専門にするのが俺達だ。工兵は今でもいる。だが彼等は戦う事は滅多に無い。俺達は戦う事が出来る工兵なんだ。」

 俺の言葉に、2人が力強く頷いた。


 「マスター、ただいま戻りました。北東5km付近に400程の敵兵が集合しています。他には敵の存在はありません。」

 「ご苦労様。では、地図を頼めるかな。」

 「了解しました。」

 

 ディーはカウンターに積んである大きめの依頼用紙に筆記用具で地図を描き出した。

 グリッドサイズは2M(300m)だな。A3程度の用紙にたちまち地図をえがきだして簡単な目印と文字を書き添えている。

 地図を受取って、ディーと一緒に昼食を取る。

 従兵が新たに焼いた黒パンは膨らんでなくて、少し焦げた後があるけど作りたてはやはり美味い。野菜スープとも良く合っている。


 「ディー。俺の方の手伝いは地図作りで終わりだ。カルナバルに帰って姉貴の手伝いを頼む。そして…もし、帰る途中で林の敵兵がまだ残っているようなら、数発の爆裂球を投げ込んでくれないか。それだけでも明日来るこの村の守備隊の通過が楽になる。」

 「爆裂球は残り6個です。直ぐに出発します。」

 

 俺が頷くとディーはギルドを出て行った。

 確か、町の攻撃に主力部隊がカルナバルを離れているはずだ。砦が大きい割には守備兵が少ないからディーが十分役にたってくれると思う。


 夕刻になると、小隊長達が集まってくる。

 テーブルに着くと、従兵が入れたお茶を美味しそうに飲みながら状況を報告を始めた。


 「第1小隊による村周囲の塀の修理は終了しました。北門、南門共に復旧終了です。」

 「第2小隊による井戸掘りは2箇所終了です。守備兵の規模が3倍になっても大丈夫です。」

 「第3小隊による警備は継続中です。状態の良い民家に張り紙をしてあります。そこなら居住可能です。」

 「見張り台は北門と南門をそのまま使えます。通信兵用にこのギルドの屋根に場所を設えました。夜間ならカルナバルとの交信が行なえる可能性もあります。今夜試してみます。」


 「という事は、これで俺達の最初の仕事は、明日の守備隊との引継ぎが残っているだけだな。」

 「何とか無事に済みましたね。そして、この部隊がどんな任務を行なうか、部隊の連中にも理解出来たと思います。」

 エイオスの言葉に皆が頷いた。

 たぶん最初だから、姉貴も比較的楽な任務を与えてくれたんだと思う。

 俺達が任務を理解する。それがこの村を奪回する目的の1つに違いない。


 その夜の発光式信号器の試験では、約15km先のカルナバルとの通信ができる事が判った。緊急事態に連絡の手段が夜間だけでもあれば、守備隊はさぞや心強い事だろう。

 俺達はガルパスを広場に集め、見張りを配置してそれぞれ民家に泊まった。


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