#308 北の村へ
エイオスに準備を任せて本部の大天幕に入ると、サーシャちゃんとミケランさんがいなくなっている。
「我等が部隊より人数を割くのはやぶさかではないが…。少なくないか?」
ケイモスさんが姉貴に答えているのを聞きながら席に着いた。
地図上を見ると、俺の部隊の後ろに歩兵が付いている。その数100人。編成が変わったから1小隊って事だな。
「…不足ですか?拠点防御ですから、十分な人員と思います。更に先行する戦闘工兵により簡易な砦には出来ると思います。カルナバルとの距離は約100M(15km)、1時間持ちこたえれば救援部隊が駆けつけます。」
「あの時計と言うからくりの長針が一回りする間にか…。それまでの足止めならば可能だろう。」
「カルナバルに即応部隊を2小隊確保しておきます。アルトさんとセリウスさんよろしいですか。」
「第5と第10小隊を待機させる。セリウス、良いな?」
「良いだろう。しかし、この砦の守備兵はどうするのだ?」
「ミケランさんから1小隊、サーシャちゃんから2分隊を借ります。アン姫の分隊とブリューさん達の分隊もいます。約2小隊あれば十分です。」
約200人か…。そしてバリスタが20台。俺達の定位置もここだろうし、リムちゃんの部隊も物資の輸送がない場合はここだから、200~500人の範囲で変動する事になる。テーバイ戦時のジャブロー補給所を考えれば、かなり楽になるのかな。
アン姫が手際よくフィギィアを並べて小さな旗を立てる。小さなバリスタのフィギィアは分隊を表しているようだ。
そんな所にサーシャちゃんとミケランさんが帰って来た。当然副官も一緒に4人程付いて来ている。
2人が着席するのを待って姉貴が主力部隊への指示を始める。
「北の村は、アキトに任せたから、アルトさんとセリウスさんには町の攻撃をお願いするわ。
先ずサーシャちゃんの方だけど、町の西3M(450m)に展開。前衛はミケランさんに一任します。その後1M(150m)まで前進して即席の陣を作って。
アルトさんは、町の南の部隊を強襲後にサーシャちゃんの北に布陣してください。バリスタ部隊の側方援護です。陣は造らず、敵が接近した場合は機動戦で対応して下さい。
セリウスさんは、アルトさんの襲撃が終わって、相手の軍が体制を整える直前に再度襲撃して殲滅してください。殲滅確認が済み次第、サーシャちゃんの南東方向に進出して待機。
ケイモスさんは歩兵3,000人を率いて町の西北10M(1.5km)に待機。サーシャちゃんの攻撃の合図を待って下さい。
サーシャちゃんが町の塀を破壊します。破壊開始後に町に3M(450m)までは接近を許可します。
そして、サーシャちゃんの総攻撃開始の合図でケイモスさん部隊を町に突入させてください。」
姉貴の言葉に従ってアン姫がそれぞれのフィギィアを動かしていく。
その動きを5人がジッと見詰めていた。
「ミケランが即席の陣を作った所まで前進して攻撃すればよいのじゃな?」
サーシャちゃんの問いに姉貴は頷いた。
ミケランさんの部隊は小型の盾と杭を持ってると言っていたな。ある意味、バリスタ部隊専用の戦闘工兵と言えなくもない。
「出発は、アルトさんが夜明けと同時。アルトさんの部隊が全員カルナバルを発ってから、ミケランさんの部隊とします。
30分後にケイモスさん。そして、1時間後にサーシャちゃん。その後にセリウスさんとします。
ケイモスさんの前にはミケランさんがいますから、ケイモスさんと敵部隊の接触は無いでしょう。」
5人が姉貴に頷いた。
「北の村の守備隊に発光式信号器を使える者がおりますか?」
「抜かりない。各小隊に2人以上配置しておる。」
姉貴の思い出したような質問にケイモスさんが答えた。
「では軍議を終了します。…アキトそろそろだよ。」
「あぁ。…そうだね。ディー行くぞ。…ケイモスさん、明日待ってますよ。」
「心得た。明日、早朝に出発させる。」
ケイモスさんが地図を睨んだまま俺に応えた。
俺はディーを連れて天幕を出ると、戦闘工兵がガルパスに跨って待機している。
「そろそろですか?」
「あぁ、林すれすれに進む。ミーアちゃんが派手に動くから俺達はそれに乗じて接近し、敵のど真ん中を突いて北上する。
爆裂球投射器は使用しないで弓だけ使え。ただし、矢は爆裂球付きを使用すること。
第3小隊第5分隊が殿だな。…追ってくるようなら、爆裂球を落として付いて来い。以上だ!」
俺の周りに集まってきた、2人の小隊長とエイモスに告げる。
「先頭は俺とディーが行く。では、着いて来い!」
「出発~つ!!」
俺の言葉にエイモスが高らかに号令を掛ける。
バジュラの鞍の後にディーが乗っているけどそれ程重くないのか何時もの速度でバジュラは動き出した。
南門を警備する兵隊達に片手を上げて挨拶して、先ずは南に向う。
カルナバルの周囲には乱杭があり、それには地雷が仕掛けられている。500m程進んだ所で北東に向かってバジュラを進める。
各小隊には何人かのネコ族の兵隊がいるから俺の後を追いかけるのは容易だろう。だが念のために時速20km以下で、林の傍を北に向った。
「カルナバルがミーア様にマスターの出発を告げています。」
振り返ると、カルナバルからチカチカと光が見える。
「後、どれ位だ?」
「1.2km程です。」
「500mまで接近して待機する。後続に連絡してくれ。」
ディーの発光器官は額にある。額が割れて目蓋が開くようにレンズが現れた時には吃驚したけどね。
「連絡終了です。…後、300mで待機指定箇所です。」
俺はバジュラの進む速度を少しずつ落としていく。
「後50…30…待機指定点です。周囲確認。林に個体数1,000。ミーア様東から敵集結地点に突入しています。後、200…100…。」
前方に連続して炸裂光が見え、遅れてドドドォォーンっという炸裂音が聞えてくる。
「敵反撃に出ます。…個体数900…860…830。」
炸裂光と炸裂音が鳴り止まない。連続した炸裂音がドロドロと聞えてくる。
大分、派手に夜襲を仕掛けたみたいだ。
ミーアちゃんを追い掛けたは良いが、置き土産に後ろに投げられた爆裂球の餌食になってるみたいだな。
次の北からの攻撃でミーアちゃん達の攻撃は終了する。
腰のバッグからショットガンを取り出して待つ。ディーは大型のバッグにたっぷりと入った爆裂球を2個取り出して両手に持っている。
「ミーア様探知範囲よりロスト。敵兵は追撃を中止して林に戻りつつあります。現在の敵兵810。」
大分刈り取ったな。次の攻撃で700前後になるだろう。
「ミーア様、北方より進撃中。あと300…100…。」
またしても、前方に光が乱舞して炸裂音が木霊する。
しかも、林の中にも炸裂光が見える。投石具で爆裂球を投げたようだ。ザーっというガルパスが走る爪音が大きく聞えたかと思うと俺の数十m先を東にカーブして去って行った。
林の中で燃える炎が見える。どうやら野宿場所に何個か爆裂球が落ちたようだ。
俺はバジュラを少し前に進めると、片手を高く上げた。
「突撃!!」
怒鳴るように声を上げ片手を下ろすと、バジュラを最大速度で北に向ける。
「「「ウオオォォー!!」」」
蛮声が後から聞え、ザァーっという爪が土を蹴る音が大きく聞えてくる。
1本の矢のように俺達は敵の野営地の脇を通り過ぎる。そして、近くの敵には爆裂球を遠くの敵には爆裂球付きの矢を射掛ける。
炸裂音が轟き、土埃で周りが見えない。
土埃の中から飛び出してくる敵兵をショットガンで狙い撃つ。
500m位走り抜けた所で、小隊長を集めて点呼を指示する。
エイオスたちが隊に戻って行くのを見て、ディーに訪ねた。
「敵の残数はどの位だ?」
「約500強です。戦闘能力としては未知数ですが…。」
生存者が500でも、それには負傷者が含まれるという事だな。もう一度叩きたいが、俺達は先を急ぐ。ここは再度、ミーアちゃんに頼むか…。
「ディー、ミーアちゃんに連絡。残数500、再度の攻撃を頼む。以上だ。」
「了解です。」
早速ディーが南に向かってチカチカと信号を放つ。
姉貴は2撃で帰還を指示していたが、明後日の歩兵の進撃には少し不安がある。
そして、遥か彼方から光が瞬いた。
「本部に確認すると言っています。」
これで良し。後は俺達の目標に移動するだけだ。
「落伍者、負傷者共にありません。」
エイオスが俺に近寄って報告する。
「次は少し面倒だぞ。4M(450m)まで接近したら、ゆっくりと200D(60m)まで移動して盾で簡易な壁を作れ。盾の色は目立つから、4Mの地点で土を塗っておくんだ。」
「了解です。」
「では、出発する。」
俺はゆっくりとバジュラを進めて少しずつ速度を速める。
少しすると後で爆裂球の炸裂する音が小さく聞えてくる。どうやら、姉貴の許可が下りたようだ。
最初の攻撃が俺達を通す為の陽動だと思っていた筈だ。俺達が通れば今夜は襲撃が無いと安心している筈。さぞや被害が広がっている事だと思う。
「マスター。そろそろ村に近づきます。村から450m地点まで、後600…400…。」
一旦戦闘工兵の部隊が停止する。
そして、俺の周りに小隊長が集まってくる。
「陽動を掛ける。村の門は北と南。俺とディーが北の門を破る。その隙に門の手前200D(60m)に盾で壁を作れ。そこから爆裂球投射器の一斉発射で門を破壊。一気に雪崩れ込め。第1小隊は村の左を制圧。第2小隊は右側だ。そして第1小隊はそのまま通りを進んで敵の背後を突け。」
俺の話をジッと聞いていた3人は大きく頷いた。
「敵は村内の建屋に分散しています。見張りは村の門に各10人が待機しています。」
「突入のタイミングはエイオスに任せる。」
「了解です。」
俺はエイモスの肩を叩いてディーと共に北の門を目指した。
北の門手前300mでバジュラを止めてディーに告げる。
「レールガンを浅い角度で北門に当てられるか?」
「東北東から発射すれば戦闘工兵部隊に直撃しません。」
「ディーが北門を破壊したら俺が直ぐに突入する。ディーも援護を頼む。そして敵を倒しながら北門をなるべく離れる。
其の頃にはエイオスが突入してくるから、北門が敵の逃げ道になる。俺達は殲滅が目的ではなく、この村の奪回が目的だ。」
話しながらもショットガンに弾丸を装填する。ガシャっとポンピングをして発射状態にして更に1発をマガジンに入れ込む。銃身に銃剣を取り付け俺の準備は完了した。
振り返ってディーに頷くと、ディーはバジュラを下りて腰のバッグから剛剣を取り出して背中に背負った。更に戦闘用ブーメランまで取り出す。
そして、ゆっくりと東に歩いて行った。
手に持っていたブーメランを地面に突き刺す。
俺はショットガンを両手でしっかりと掴んだ。
ディーが右腕を門に向けると、見る見る腕が砲身に変化して行く。
右腕が一瞬光ったかと思うと、北門が轟音と共に吹き飛んだ。
すかさずバジュラを駆って北門に向かう。
北門を潜ると直ぐに横に移動して北側の壁に取り付く。バラバラと様子を見に駆け寄ってくる敵兵に爆裂球を投げ付けた。
ドォーンっと言う爆裂音と一緒に敵兵が吹き飛んだ。そこにディーがブーメランを片手に持って突入してきた。




