第一章 4月
あの夏は、本当に暑かった。
ハンディファンでは凌げないほど、汗が出た。
でも、あんなことが起きてから夏の暑さなど気にしないくらいになった。
第一章 4月
「明日、入学式なんだから早く寝なさい」
まもなく日をまたごうとする時間に、母が言った。
女で1人で育ててくれた母だった。すごく感謝をしているけど、パチンコがやめられず、いつも小遣いから借りられるクソみたいな母だ。
俺はなんだか浮かれている。
中学のガキの頃は、どうしてもクラスに馴染めず、やんちゃばかり。
クラスメイトといつも喧嘩をしていた。最初は弱かったが、徐々に殴る蹴るを繰り返し、卒業までには強くなっていた。
金のない家、少しでも家を支えるために、高校生だと偽り《いつわり》、アルバイトもしていた。貯金が50を超えた頃、それが担任に見つかり、クラスメイトからは揶揄された。本当につまらない中学だった。
でも、なぜだろう。明日は何か変わる気がして、どうしても寝られなかった。
翌朝、俺は駅に向かい、小田急を待っていた。周りは、俺と同じ制服ばかりがスマホを持ちながら、流行りの動画を見ている。その中で、一際、黒い髪で身長が俺よりも高く、ピアスにネックレスをつけて同じ制服を着ているやつがいる。
一瞬、動揺が走った。
「俺らの学校って、ああいうのありなのか。。。」
すぐさま、校則を確認するも、何も書いていない。
「うわ、マジかよ。俺もあんな感じでイカした兄ちゃんみたいにしてくりゃよかったわ。ブーブー言わせられたのに」
後悔の念が脳裏にへばりつく。
「ヤンチャしていたけど、改心したんだ」と何度も堂々巡りした。
7時45分発の特急がホームについた。
電車内は、スーツを着たサラリーマン、俺らと同じ制服を着た奴ら、ランドセルを背負ったガキで埋め尽くされ、唖然とした。
「お降りになる方を、優先してください」
そう言われながらも、隣で並んでいたデブのおっさんが、ルールを無視して乗車した。
慌てて俺も乗った。
「うわ、このおっさんクセェよ。まじか。地獄。最悪」
この意識がとりつき、イヤホンから流れる歌詞が入ってこなかった。
「まもなく、発車します。荷物ひいて!」駅員が強く怒鳴っていたのが表情で分かった。
すると、おっさんが近づいてきた。おっさんが太っているせいで、何も見えなかったが、誰かが乗車したのだろう。
おっさんの汗臭い匂いが、イブサンローランの甘い香水の匂いでかき消された。
登戸駅に無事に到着した。押し流される勢いで下車したため、いい匂いの主を特定し損なった。
「ちっ。可愛い姉ちゃんだったら、ナンパしてたのにな」
軽い気持ちで思ってしまった。
俺が通っているのは、偏差値50以下。当然MARCH合格者なんて数名しか出てない。至って普通。いや、下か。
貧乏な俺の家で、教育費を抑えるために、この学校に行くように親に言われた。ヤンチャしていたから、説明会なんてだるくて行かなかったし、受験も名前をかけたらほぼ合格みたいな高校だった。
中学からの同級生なんていない。周りはそういう感じの人たちばかり。
緊張の中、俺は1年2組の教室へ向かった。
おいおい。マジかよ。
「ちーっす。なぁ名前なんて言うんだよ。お前」
ワイシャツの下に赤い服を着た大将風のやつが俺に話しかけてきた。
「何いきなり」
「お前、今日から俺の奴隷な。」
「は。意味わかんねぇわ。」
一発殴られた。
「なんだその態度は。」
そう言われると、ネクタイを取られ、教室の壁にぶつけられた。
ほぼ意識がなかった。
「俺がやってたのはこういうことだったのか」
という考えしか浮かばなかった。
チャイムがなるまで、ひたすら殴られた。
そのチャイムが試合終了のゴングに聞こえた。
俺は席についた。顔面が赤く染まり、隣の席の女子はずっと俺を見て笑っている。
教室に来た担任は、俺のことなど気にせず、ずっとしょうもない話をしている。
「マジかよ。もう終わりじゃんか。高校生活。転校する?おいどうする?」自問自答した。答えは即座に出なかった。
その時だった。俺の右斜め前の席が空いているのに気づいた。
「初日から遅刻かよ。いい度胸してんな。どこのどいつだよ」
さっきの大将が教室に響くくらいの声量で、言っている。
チャイムがなる5秒前、1人の男が入室した。
そいつは、電車で見たいい匂いの ヤツ だった。
何も言わず、俺の席の斜め前に座ったのだ。
そいつは、担任の叱責も無視し、俺のことをじっと心配そうに見ている。
「お前、同じ電車にいたやつだな」
「は、、はい。」
「その傷、ひっでぇな。誰にやられたんだよ」
「その。あいつです」 俺はそっと後ろを指差した。
「分かった。まかせろ」
そういうと、突然立ち上がった。
「おい。誰だよ。俺のダチこんな風にしたヤツは」
まるでライオンのようにそいつに威嚇してくれた。
そいつは、怯えて何も言えなかった。
「テメェか。名前なんて言うんだよ。」
「関本です。せ、、せき」
一発殴ってくれた。関本は恐怖に怯えた。
担任の嶋田が、殴ってくれたあいつを叱るも、軽く返事していた。
「お前、名前なんて言うの」
「は、、、はじめです。い、、、一ノ瀬」
「はじめ。よろしく。俺は、西蓮寺 廉」
「西蓮寺って、あの?」
「あぁそう。」
俺には到底及ばない、有名な貴族の苗字だった。
「な。こんなことしていいのかよ。親に怒られるんじゃねぇのかよ」
「シっ」
廉に聞いてもそう返された。ホームルームが終わり、関本はすぐに保健室に間抜けな顔をして向かっていた。
廉 「お前もその怪我ひでぇな。保健室連れて行ってやる」
「え。いいよ。授業遅れるでしょ。1人で行くから。」
廉「まぁまぁ。」そう言うと、俺は廉におんぶされた。
暖かい背中。しばらくされてこなかった、おんぶ。
全てが久しぶりで、なんだかドキドキした。
保健室の先生 「痛くない?大丈夫?」
学生時代にモテてきたであろうスレンダーな先生で、思わず視線に困る。
保健室の先生「喧嘩はほどほどにね。よし、これで完成!」
そう言って、俺の頬に白い絆創膏を貼ってくれた。廉は、俺の顔を見て、ニヤリと笑っている。
廉 「よっしゃー、授業行くで」
俺 「おう!」
そう言って、俺は教室に戻った。
俺にとっては、今年の4月は去年と比べて、はるうららか を感じられた4月だった。
母「はじめー。新しい友達できたの?」
「新しい友達?できたわ。とっくに」
母ちゃんに、そう伝えた4月だった。
次回、7月。平年よりも酷暑日が多い夏。2人の関係に、新たなライバルが。友達も増えて、はじめは大喜び!にもかかわらず、嫉妬したり嫉妬されたり。7月編は、プールに行ったり、、、
この夏はどう展開していくのか!?
お楽しみに!




