第五話 ギャン中は、はめられます!
「……あで?」
後ろにいたのは、ごく普通の大型漁船。
「なー、サシア」
「はい、なんでしょう。ご主人様」
「なんかさ、普通に船通ってんだけど」
大型漁船は、斜め後ろを悠々と航行している。甲板にいる船員も見えたが、何やら宴会をしているようで楽しそう。酒樽の上で歌って踊ってハッピーって感じ。
「ええそうですね」
「なんかさー、よくよく目をこらしてみるとよ、三時のほうにも中型の商船が見える気がするけど、おれの気のせい?」
「いえ、気のせいではありません。私にもはっきり見えます。ご主人様」
「二時のほうにものんきに釣りしている漁船が見えるんだが、幻覚か」
「いえ、幻覚ではありません。サシアにも見えております。ご主人様」
「あれ、魔獣は?」
「はい、魔獣は?」
「もうすでに撃退されていたりして、な」
ロロの額に汗が噴き出た。
こんな平和な海ならば、ラスコー商会の大船団は来てしまうのではないか。
「いえ、トミー殿はサンリゼとロドスが共同出兵すると仰っていました。サンリゼの騎士団が討伐に向かったのなら、必ず私たちの航路を通るはずです」
「んじゃあ、ロドスだけでやっつけたとか」
「それはありえませんね。ロドス諸島連合は、小国ですのでサンリゼの助力がないと討伐は到底不可能かと」
「ん? んんんん?」
このとき、サシアは気づいた。
「……ま、まさか」
サシアがはっと青ざめる。
「ん? どした、サシア?」
「……魔獣が出没した、というのは……嘘?」
「……え」
ぽかーんと、口を開けるロロ。
そして、気づいてしまった。
「ああああああああっ!」
はっと、口を押さえるロロ。
「あんのやろう! はめやがった!」
ロロは、ようやく気づいた。
この茶番がすべて仕組まれていたということに。
*
一方、その頃、ラスコーでは。
「いやはや、やりましたね。トミーさん」
「な? おれの言った通りだろ?」
”カターリ商会”の一室には、5人の男が酒を持って集結していた。5人に囲まれた机の上には大量の硬貨が積まれている。
うち3人は、ロロが訪れたラスコー商会の周辺の酒場で、貧しい身なりを”していた”男達。
うち1人は、ロロがカターリ商会に訪れた際に、干し肉の買い付けを担当した腰の低い男、ニーケ。
そして、最後の一人は、この計画の立役者。”カターリ商会”のトミーであった。
「まさか仕入れた干し肉がもう数ヶ月しか持たねぇ劣悪品と知ったときには、首が飛ぶと思ってヒヤヒヤしたぜ」
「ぶはははははっ!」
「ぎゃははははっ!」
ニーケもメガネをくいっとあげてニヤリと笑う。
「あの馬鹿が全部買い取ってくれて本当に助かりましたよ。なんせ、このままじゃ大損でしたからね!」
そう、これはすべてカターリ商会員のトミーによる策略だった。
一ヶ月前、トミーは同じ商会仲間の男と協同で仕入れた干し肉が、期限間近の劣悪品であることを知った。安く仕入れられたと思っていたが、仕入れ先がトミーたちを欺いていたのである。この干し肉に値がつくのは、あとわずかの期間。そんな窮地に陥っていたトミーたちのもとに、ある噂話が入ってきた。いわく「気に入った商材であれば、全財産をもって仕入れる博打商人がラスコーに入ってきた」という噂である。
そして、トミーはその博打商人ロロと接触し、さりげなく、ロドス諸島で干し肉が売れること、そして、近頃、ロドス付近で魔獣が現れるということを伝えた。
もちろん、魔獣出現は嘘である。
ロロにロドス諸島での商売に食いつかせるための罠だったのだ。
「しっかし、こんなに上手くいくとはな!」
「ぎゃははははっ! あの日のおれの変装もどうよ。いかにも商会のなかの底辺商人って身なりだろ」
そして、トミーはラスコー商会の付近の酒場に、あえて貧しい格好を着せたカターリ商会の同僚を潜入させ、ロロが情報収集に来るのを待たせた。
結果は、承知の通り。ロロはまんまとひっかかって、「ラスコー商会の人間から、大船団の航路の情報を聞き出せた」と有頂天になって帰って行ったわけである。
さてさて、そんなわけで、現在、ロロは大ピンチなわけである。
ロロは大船団が出ないからこそ、干し肉が高値で売れると思っているが、実際には、大船団は今年も元気に出航予定だ。
「あいつ、どうするんだろな。ラスコー商会は、今年も大船団を出すってのに!」
「ぎゃはははははっ! 破産だぜ! 破産!」
ロドス諸島の人間は、ラスコー商会とのつながりを大切にしている。一年に一度の大量に物資を仕入れられる機会なのである。それには、もちろん干し肉以外にも鉄や銅といった金属、干しパン、衣類、果実、とにかくあらゆるものが含まれる。であるから、当然、ロドス諸島の人間は、ラスコー商会より多少安いという程度ではロロの大量在庫を仕入れることはないだろう。そんなことをすれば、ラスコー商会との関係が悪化し、本当に航路から外される可能性があるのだ。
つまり、博打商人、ロロ・アルノルトに待っているのは……
「破産だな! ぎゃははははっ!」
5人は盛り上がりに盛り上がった。
しかし、メガネの男がふと、こんなことを口にする。
「いやいや、でも、分かりませんよ。私は、聞いたことがあります。なんでも、あの青年、全賭けをしてきた商売では今まで一度も負けがないんだとか」
さてさて、窮地に陥ったロロくん。この大ピンチをどのように切り抜けるのか。次回、お楽しみに!
こんな感じで商人同士のだまし合いを書いていこうと思います。面白かったら、☆評価とブックマークを御願いいたします。めちゃめちゃ喜びます。




