63話 もっとすごいおねだり、聞いてほしいな?
「おい、さすがに3人は狭いって……」
「え~そうか?」
「……おれは別に、狭くない」
ハルトとハジメが俺の家に泊まりに来て、2人の宿題を手伝ってメシを食い、それからゲームにドライブ、銭湯……3人で色々と楽しんで、気付いたら現在午前1時半。
中学生が寝る時間にしてはちょっと遅すぎるかもしれないが、こういう時はテンションも上がっていて寝れないだろうし、まあ大目に見てやろう。
ただ、それはそれとして俺のベッドで3人一緒に寝るのはどうかと思う。
「俺はソファ行くから、お前らでベッド使えよ」
「それじゃあ意味ないじゃん!」
「……一緒に寝るって約束したでしょ」
「う……」
そんな約束したっけな……いや、した気がするなあ。
「……ほら、先生の上にこうやって乗れば狭くない」
「乗っかってる時点で狭いだろ」
一応、俺の身長に合わせて普通のシングルよりは大きめサイズのベッドを使ってはいるのだが、それでも3人だとギュウギュウだ。
つまり、現在どういう状況かというと……前回のお泊り同様、俺の腕枕で2人を抱きしめるような形になってしまっていた。
「八雲、でっかくてクジラの抱き枕みてー」
「クジラの抱き枕ってなんだよ……」
「……先生のパジャマ、いい匂いがする」
「それ、お前の母ちゃんから貰った柔軟剤使ってるぞ」
「あー、だからなんか安心する匂いなのか」
ったく、こんな真夏の熱帯夜に男3人でギュウギュウになって寝るとか意味わからんだろ。
「なあ、八雲……宿題やってるとき、ハルトとキスしたのか?」
「は? な、なんのことだ」
「だって、オレがトイレ行ってる隙に菓子食いながらなんかやってただろ」
「あれは未遂だ。俺は無実だ」
正直ちょっと触れたような、触れなかったような……いや、触れてないだろさすがに。
「……先生は、おれとキスするの、嫌?」
「ハルト、なに言って……」
「なあ八雲、ほっぺならしてもいいか?」
「ハジメまで……」
ここに来て、2人の甘えっぷりが加速している……耳元で囁く2人の吐息が熱を吐き出して、俺までクラクラしてしまう。
「キスが良いとか悪いとかじゃなくて、家庭教師と教え子はそういうことしちゃダメなんだよ」
「なんだよ、それ」
「……先生のいじわる」
俺の両腕をギュッと握り、胸元に顔をうずめるハルトとハジメ。
泊まりに来て変なテンションになっているところに、眠気が追い打ちをかけて理性的な思考を鈍らせているのか、2人は俺に対して甘苦い感情を隠さずにぶつけてくる。
でも、この雰囲気はさすがに……ちょっと誤魔化すしかないな。
「あー……なんかこういうのって修学旅行の夜みたいだよな」
「ええ?」
「……まあ、そうかも」
「やっぱこういう時って、男同士でもコイバナとかするもんだよな」
「「…………」」
う、返事がないな……これはどういう反応なんだ?
まあでも、話してればその内眠くなって……
「ふ、2人はほら、中学に好きな人とかいねーの? あ、双子だから同じ相手を好きになっ」
――ちゅっ。
「た、り……っ!?」
両頬に、生温かくて柔らかい感触のナニカが触れる。
「お、おまえら……っ」
「へへっ、油断したな八雲」
「せんせいに、キスしちゃった」
慌てて身体を起こし、まだ感触が残る頬を抑えながら両脇にいる悪ガキどもを必死に睨みつける。
……そんな俺の様子を見て、頬を上気させながらニヤニヤとこちらを見つめる双子たち。
「……おれたちが好きな相手、だれか分かった?」
「たしかに、双子だと同じ相手を好きになったりしちゃうんだよな~」
「いや、今の話は冗談で……」
「先生が言ったんだから、逃げちゃダメだよ」
「まあ、今日のところはほっぺで許してやるか~」
まるでイタズラが成功した子供のように、無邪気に笑いながら俺に抱き着くハルトとハジメ。
「……ねえ、先生。おれたち、先生のためにもっとがんばるから」
「もっと勉強がんばって、今よりもっと良い成績取ったらさ……」
「「もっとすごいおねだり、聞いてほしいな?」」
何かが吹っ切れたような、熱の篭った眼差しでこちらを見上げるハルトとハジメ。
「ったく……期待してるからな。ちゃんと勉強、がんばれよ?」
俺は双子たちの頭をクシャリと撫でて、額に優しくキスをした。




