41話:あーん
「リン、起きたか?」
頭に触れるやさしい手の感触に意識を浮上させ、重い瞼を持ち上げると目の前にアーサーの顔があった。
「...あーさー?」
「おう!俺だぜ!」
「あ、リンくん!目が覚めたのね!良かった!」
「急に倒れるからびっくりしたぜ!まあでもいちばん驚いたのはお前が倒れそうになった瞬間いちばん重症だったアーサーが飛んでって受け止めたことだけどな!肋が折れてんのに無茶するぜ!」
傍にはシリネとゼクトがそれぞれ座ってこちらを見下ろしていた。どうやら俺はあの後意識を失ってしまったらしい。体力のステータスが減少している中で戦闘時にユニークスキルなどで体力を酷使した上、最後にこの"地下室''を作ったことで体力を使い切ったことが原因のようだ。
ユニークスキルは魔力の消費は0にしてくれるが体力は普通に動けば動くほど減る。つまり極度の疲労でぶっ倒れたというわけだ。体力も10分の1になっているとはいえ我ながら情けない。
「おーい、リン、ぼーっとして大丈夫か?まだしんどい?」
アーサーが上から顔を覗き込みながら聞いてくる。
「いや、それよりアーサーこそ大丈夫?」
ぱっと見た感じ顔色も良いし今俺を膝枕しているくらいだから怪我は治してもらったんだろう。
「おう!シリネさんが治してくれたからもうどこも痛くないぜ!」
俺の目にかかっている前髪を優しくかき分けながらいつもの屈託のない笑顔で答える。
「リンくんあれから3時間くらい寝てたのよ。ごめんね、戦闘もほとんどリンくん頼みになっちゃってるから負担が大きいわよね。」
「見張りは俺たちのパーティが交代でやるからお前らはゆっくり寝とけ。って言ってもリンがこの部屋を作ってくれたおかげでほとんどやることはないんだけどな!」
まだ体がだる重いので頭だけ動かして辺りを見渡すと、教室くらいの大きさの部屋で各々が思い思いの場所でくつろいでおり、クリスだけが俺が天井に作った通気口の下で外の様子を警戒している。今はクリスが見張り番のようだ。
「リンくん、起きたんだね。良かった。体起こせる?もう1回寝る前にご飯だけ食べとこう。」
「ああ、そうだな!食べないと力出ないししっかり食っとけ!この先生の飯はマジで絶品だぞ!!」
アーサーが永遠に頭を撫でてくるのでまたウトウトとしているとミホーク先生が食事を持ってきてくれた。ゼクトの言葉から察するにまた持ち前の食材や調理器具で食事を作ってくれたらしい。匂いからしてもう美味しい。
先生が持ってきてくれたのはひよこ豆と白菜ベーコンのミルクスープに先生特製のタレをかけて焼いた焼き鳥だ。
ものすごく食べたい、食べたいが身体がダルすぎて上手く起き上がれない。アーサーの膝から頭を少し浮かすので精一杯だ。
(体力が0になるとこんな状態になるのか...。)
四苦八苦しているとアーサーがゆっくりと俺の肩を支えて抱き起こしてくれた。
「やっぱまだしんどいんだろ?俺も前訓練してる時にリンと同じ状態になったことあるからわかるんだよ。だから今日は任しとけ!」
そういうとアーサーは俺を肩に持たれかけさせたままミホーク先生から器を受け取り、スプーンでスープをすくって...
「ほら、あーん。」
「あらあら、まあまあ。」
「ヒュー」
「ふふっ」
スプーンを口元に差し出してきた。仮面で顔の大半が隠れているとはいえこれは恥ずかしい。しかもシリネ、ゼクト、ミホーク先生がそれぞれ生暖かい目で見てくるしほかのメンバーもこちらに意識を向け始めている。
「...あーさー、自分で食えむぐっ」
「無理すんなって!しんどい時は甘えとけ!」
自分で食べると言おうと口を開いた瞬間にアーサーにスプーンを突っ込まれた。恥ずかしさやらなんやらでアーサーをジトっと見るが仮面で俺の顔が認識しずらくなってることもありアーサーは気づいてないようだ。
「ほら、もう一口あーん。」
ずっと唇を閉ざしていたがアーサーがスプーンを永遠に唇に押し付けてくるので観念して口を開けた。
「やーん、可愛い!」
「こうしてみると〜兄弟みたいだね〜」
「アーサーくん、リンくんを支えながらはやりずらいでしょう。どれ代わりに私がリンくんを支えましょうか。」
いつの間にかローズやハクも近くによってきており俺たちの様子を面白後って見ている。
「いえいえ!今の体勢で安定してるので大丈夫ですよ!ほら、リン、次肉食うか?」
ハクの提案をアーサーがサラッと断ったことでハクはションボリと肩を落としている。それでも何か言い募ろうとバッと顔を上げたハクの首根っこをディクトルが素早く掴んで「こいつのことは気にせんでくれ」と引きずっていった。
あの人はもはやハクの回収係と化している。抵抗するハクをまた拳一撃で沈めてしまった。
シュベールはクリスの次に見張り番をするようで今は仮眠をとっている。
こんな感じでアーサーの介助のもと、何とか食事を終え(半ば無心で食べていた)、お腹が膨れて眠気がピークとなったことでそのままアーサーの腕の中で意識を手放した。
その後のみんなの揶揄する会話やアーサーの得意げな顔は知らぬまま夢を見ることもなく朝までぐっすりだった。




