せなと翔 ~森の中で~ <せな>
「翔……さん……」
優しく微笑み、せなは翔を見送ると、さっそく部屋の中へと入っていく。
ベッドに小さなテーブル。イスが二つにドレッサー。テレビも完備。
バスルームは小さいながらも、トイレとは別になっているうえ、シャワーもばっちり取り付けられている。
洗面所には、タオルとドライヤー、それに持ち帰り可能なアメニティも置かれていた。
せなはさっそく、大きな窓を開けると、外の美しい景色を眺めた。
「はー……」
自然にあふれる、森林がせなの瞳に飛び込んでいく。
そして、日の光に照らされて、湖がキラキラと輝いていた。
「はー……」
二度目のため息を零して。
「これって“良く言えば空気がおいしい”で、“悪く言えばド田舎で辺鄙”……だよね。翔さんはこんなのが好きなのかな。まぁ、僕も嫌いじゃないけどさ」
ふと、視線を下に向けると……見知った人影が歩いていく姿が飛び込んできた。
「どこ行くんだろ……」
よく見ると翔は籠を持って森の中へと進んでいく。しきりに携帯を弄っているようだが……。
「おーい、翔さーん?」
だが、遠いせいか、せなの声は翔の元へと届いていないらしく。翔はずんずんと森の中へ進んでいく。
「返事がなーい!」
せなは勢い良く、ドアを跳ね除け、ダッシュで階段を駆け下り、猛突進!!
そして、取り出したのは、メガホン。
「あ、えと……しょ、翔さんっ」
「えっ!? せなちゃん!?」
せなの声に驚いたのか、それともその手に握られたメガホンに驚いたのか。
けれど、気を取り直して、翔は尋ねる。
「あれ、どうしてここに? ……もしかして」
翔はそこまで言うと、ニヤッと微笑み。
「俺を見つけて追いかけてくれた、とか?」
せなは、そんな様子に驚きあたふた。
「え? いや……怪しげな姿が見えたものだから、つい……。べ、別に! 追ってきたとかじゃないですかられぇ~!」
思わず噛んでしまったり。
翔は思わず、くすりと笑いながらも。
「わざわざ来てくれたんだ。ありがとう、せなちゃん。俺、これから近くの菜園に行くんだ。自家菜園ってやつ? せなちゃんも来るかい?」
どうやら、翔の持つ籠は、その菜園から新鮮な材料を取ってくるためのものらしい。
「い、いいい、行く。行きます!」
ぐーにした両手をじたばたさせながらも、せなは同意。
「では、こちらにどうぞ、せなちゃん。足場がちょっと悪いから、気をつけて」
翔は手を差し伸べて、せなをエスコート。
「あにゃあっ……あ、りがと……」
どきどきする鼓動が、翔まで聞こえてないだろうか?
動揺しつつも、せなは翔の手を取って、歩き始めたのであった。
何事もなく、二人は小さな菜園に到着した。
小さい規模ながらも、様々な種類の野菜が手入れ良く、栽培されていた。
翔は、その一つ、トマトをもぎ取ると。
「今日はトマトを使った料理を作ろうと思ってるんだけど……せなちゃんは、トマト好き?」
そう差し出すものの。
「うん、好きだよ~っ。でもね、ぬるいのは嫌いかなぁ。冷えてるトマトか、煮てあるトマトなら好き!」
満面の笑みを見せ、にゃはっと付け足した。
「ん、了解。今からだったら……そうだな、冷たいのは無理だから、温かくしてやるか。楽しみにしておいてくれよ」
ぱちんとウインクして、翔は微笑み、差し出したトマトは、そのまま籠に入れた。
「わぁい、やったぁ!」
にゃはにゃは言いながら、せなは収穫する翔の側で、その終わりを待っている。
「さてっと、ここでの食材は確保できたし、そろそろ帰りますか」
立ち上がり、泥を払って。
「さて、せな姫、お手を」
翔はまた、手を差し伸べる。
「はぁ~い♪」
せなは積極的に、手をぎゅっと握り、微笑み返す。にこにこと、にこにこと。
「え? あ……ちょっと……びっくりしちゃったな。せなちゃんて、積極的、なんだ」
ちょっと小悪魔的な微笑を浮かべて、翔は続ける。
「じゃあ、この先をやるっていったら、どうする?」
「はにゃぁ! そ、そそそ、そんなの言うことじゃないよ翔さん! へ、変態出た! 変態出没注意!」
オドオドオロオロしながらも、心の中は実はうはうはだったり?
驚いたせなは、握った手を上下に激しく揺さぶった。
そんなせなに、そっと近づき。
「冗談だよ」
耳元でそう囁いて笑ってみせる。
「さて、そろそろクローバーリーフに戻るか」
もう一度、手を差し伸べようとしたのだが。
「はっ……! えいっ」
せなは照れ隠しに草を掴むと、根っこごと引き抜けてしまった。
「ぷくくっ!!」
そんなせなの面白い行動が翔の笑いのツボに入ったらしく、大爆笑。
「面白いね、せなちゃんって! 見ていて飽きないよ」
こうして、二人はゆっくりとクローバーリーフに戻っていったのであった。




