ログの在り処 <左京>
「SF本~……どーこだーぁ……」
左京は借りてきた本を、クローバーの1号室で探していた。
と、部屋にセットされていたイス。
その底に、何かが貼り付けられているのを発見した。
袋の上に、ガムテープで止められている。
ただ、ゆるく付けられているのか、すぐに剥がすことができた。
中身を取り出すと、それは黒い表紙の本。
タイトルは、『log』と書かれている。
「なんだ、これ……?」
ぱふぱふと叩きながらも、ずっしりと重い本に驚きつつ、裏も見てみるも何も書かれていない。ただ、表紙に『log』と書かれているのみ。
「ちぃっと開いてみるか」
かぱんと開くと……刳り貫かれたページの中に、USBフラッシュメモリーが入っていた。パソコンにつければ、中に入っているものが見られるだろうが……。
「……USBフラッシュメモリーじゃねーか。いちおうPCにつなげてみっか」
左京があたりを見渡すと、近くにノートパソコンが置いてあるのを見つけた。
すぐさま、そのパソコンを起動し、メモリーを差し込んで中のデータを見てみる。
ディスプレイに映し出されたものは……とある企業の顧客名簿と、いくら計上したかが記されたデータだった。
しかも、名簿には大物有名人の名前がずらりと並んでいる。
と、そこでパスワードを聞かれた。
どうやら、それ以上のデータを見るには、パスワードが必要らしい。
「とりあえず、打ち込んでみるか。『クローバーリーフ』で通るかな?」
試しにそのワードを入れてみると、なんと、解除に成功!
「んなぅ!? で、出ちまった……。ここは、男らしく、勇気を出して……」
驚きながらも続きを見てみると……。
そこにあったのは、現在、超大企業で様々な事業に手を出しているASAGIコーポレーションの内情についての話が書かれている。
現在、取締役についているのは、浅樹頼造であり、彼には15人もの娘がいるが、そのどれもが跡取りに相応しくないと書かれている。
そして、最後にはこう記されていた。
『浅樹頼造に愛人疑惑。子供もいるらしい』と。
「……ってえ? 『浅樹頼造』? 確か、ここのオーナーもそんな名字だったな。……オオィッ!! み、見ちまってよかったのかよ!?」
けれど、自分一人でこれを持つには、荷が重すぎる。
急いでメモリーを取り外し、先ほどの本に入れると、悩んだ末に左京はリィナに助けを求めることにした。
足早にスタッフルームの前に行き、ノックをする。
「おーいリィナ。いいか?」
その声に扉が開き、リィナが現れた。
「あれ? 左京さん、どうかしたんですか?」
どうやら、掃除の途中だったらしく、箒が雑に置かれているのが見える。
「……実はコレのことなんだが、偶然SF本を探してるときにみつけてな。で、中身をあけたらこんなのがはいってたんだ」
手にした本を開き、中のメモリーも見せながら。
「このまま俺が持っててもいいのか? ……そのことで相談にきたんだが……」
正直にそう左京が話すと。
「!! それをどこで!? いえ、それよりも、ここではなくて、私の部屋へ行きましょう」
リィナに連れられ、ここは、リィナの部屋。
白とピンクを基調とした女の子らしい部屋できちんと整理整頓されているようだった。
「さあ、ここに座って。今、飲み物を用意するわね。何が好き? コーヒーとお茶、それにコーラもあるけど……」
部屋の中にあるソファーに勧められ、左京は素直にそれに従った。
が、しかし。
(「……怪しい。いやいやここは……」)
怪しみながらも。
「リィナ、紅茶はなにがあるんだ?」
慎重に言葉を選びながら、そう告げる。
「ダージリンに、アップルティがあるわ。ミルクがあるから、ミルクティにもできるけど、どうする?」
そんな左京に気づいているのかいないのか、リィナは小さなキッチンでお湯を沸かしている。どうやら、今のところ、怪しい動きはない様子。
そっと、左京は持っていた本を目の前のテーブルの上に置く。
「……じゃ、コーヒー。無糖でな。あと苦味はきつめで」
「あら、紅茶でなくていいのね。了解。苦めに入れてあげるわ」
コーヒーが出来るまで、左京の居る部屋には戻って来れなさそうだ。
(「少し待ってるか……」)
静かにリィナが戻ってくるのを待っていると。
「あら、待っててくれたの。ありがとう」
そういって、リィナは和やかにコーヒーを手渡した。飲むと左京の注文通りの美味しいコーヒーだ。
「それじゃあ、それを手に入れた経緯を教えてくれるかしら?」
「あれは確か……SF本を探してたときだな。……あれ? 急に眠気が……」
そのまま左京はがくっと仰向けに倒れ込んでしまった。
「ごめんなさい、少しの間だけ……ねむって……」
意識が遠のく中、そんなリィナの声が聞こえた。