リィナを探して ~そして、恐怖のパフェへ~ <風危>
戻ってきた風危を迎えたのは、リィナではなくオーナーの翔であった。
「あ、お帰り! さっき、リィナが君のこと探してたぜ。たぶん、そう遠くには行っていないだろうから、見つけてきてくれないか?」
どうやら、リィナは、オーベルジュ内で風危のことを探しているらしい。
「分かりました。では、探しに行きますね」
風危はさっそく探しに行こうとして……その足を止めた。
そう、あることが気になったからだ。
「あぁ……そうだ。ついさっき、店長と面影の似た少年に会ったのですが、何かご存知ですか?」
思い出したかのように振り返って。
「え? 俺に似た少年? そんな少年がいるのなら、ぜひとも会ってみたいものだな」
どうやら、翔にはそんな知り合いはいないらしく。
風危はしばらく、頭の中のアキラと目の前にいる翔の顔を見比べていたが、思案げに歩き始めた。
まずは、リィナを探すのが先決。
「厨房……居ないよな。やっぱり。じゃぁ、外だな。うー、先ずはスキー場の有る方にいってみようか。私に用事って何だろう?」
そう呟きながら、駆け足で外に出ようとしたところを。
「風危さん、待って!!」
どうやら、オーベルジュの庭を探していたらしい、リィナが声をかけたのだ。
こうして、二人は無事に合流を果たすことができたのだった。
「もう、あなた、どこに行っていたの? 外に出るときは、お客様への置手紙と、スタッフへの置手紙は忘れずに。心配しちゃうじゃない」
どうやら、少し席を外した風危のことを心配して探していた様子。
「……軽率な事をして申し訳ありませんでした。以後、気をつけます」
自分の行動を反省し、風危は深く頭を下げる。
「ううん、私も言っていなかったし。次から気をつけてくれれば、それでいいから」
そのリィナの言葉に風危はホッとした表情を浮かべた。
だが、リィナの言葉は、それだけではなかった。
「うーんと、今日はこれで終わりなんだけど……実は、翔が新作メニューの手伝い……というか、味見っていうの? それをお願いしたいんだって。いいかしら? ついでにアイデアもあったら、教えてほしいって。どうする?」
そう頼まれた風危は、少し思案しつつ。
「分りました! 引き受けます!」
了承したのだった。
「じゃあ、さっそく厨房に行ってきてね。私はこれで仕事上がりだから」
たぶん、そんなに時間かからないと思うけど……と付け足して、リィナは帰る準備に向かう。
リィナの言葉に誘われるように、風危が厨房へと向かうと、そこには翔が真剣に料理に取り掛かっていた。
作っているのは、新作パフェのようだが……。
風危は、翔とパフェを交互に見つめながら。
(「試食ってパフェ? どうしよう? 私、甘いの苦手だぞ!?」)
苦手なもの相手に、風危はそわそわ。パフェ作りに没頭している翔に、風危は恐る恐る声をかける。
「店長……えっと、リィナさんに頼まれて来たのですが……」
「お、来たか。じゃあ、さっそくで悪いんだけど、これ、味見してくれないか?」
どんっと置かれたのは、フルーツパフェ。
量はやや少なめで、苺とオレンジソースをふんだんに使っている。
また、フレークも入っているので、甘ったるそうではないようだ。
(「これなら何とかなりそうかな?」)
風危はパフェを見て、そう考える。
「分かりました。では、行かせて貰います」
風危は、スプーンでパフェを口に運び入れる。
口の中に入れると、意外や意外。甘さ控えめで冷たく、とても美味しい味が口の中で広がっていく。
「甘いの苦手なお客用に、一つ作ってみたんだ。アレなら、チョコを入れようかと思ってんだけど……どう? 味の方は?」
不安そうに尋ねる翔に、風危は。
「あっ、美味しいです! 私みたいな甘いのが苦手な人でもすんなり食べられる味です!」
そんな嬉しそうな顔に翔も満足げだ。
「でも、チョコ入りってのも捨てがたいですね♪」
風危は、そう付け加えた。実はここだけの話、風危はチョコが好きだった。特に苦めのチョコレートが。
「そうか! じゃあ、二つ入れるか。フルーツとチョコな」
その一声で、どうやら、新たなメニューも加わった様子。
「今日は無理だが、明日、もう一度、ここに来てくれ。チョコパフェ作ってみるから」
「あっ、はい。 じゃぁ、私もそろそろ帰宅の用意をしますね?」
会釈して風危は、帰宅の準備に入る。
こうして、風危の長い一日がようやく終わったのであった。