せなと翔 ~談話室でのひととき~ <せな>
「談話室にいますねー」
そう言って、せなは談話室へと向かう。
談話室には座り心地のよいソファーと応接テーブル、小さい本棚が置かれており、本棚には、一通りの雑誌と推理小説とかサスペンス小説も入っていた。
ついでに談話室からだと、翔が料理をしている「音」だけだが楽しめたりする。
実はそれを狙って、せなはこの場所を陣取ったとでも過言ではない。
時折聞こえる口笛。
とても楽しげに調理をしている音が聞こえてきた。
耳を澄ませば。
「よっしゃー!!」
なんていう声も聞こえる。
「なんか、眠いなー……。昨日あんまり寝れてへんからやろか……?」
けれど、壁越しの音は小さく、せなは次第に、夢の世界へと旅立っていく。
「あれ? せなちゃん?」
道具を持った翔が、その談話室を通りかかる。
「せなちゃん、ここで寝たら風邪引くよ」
そう言って、翔は側にあったタオルケットを、そっとせなにかけてやると、また仕事に戻っていった……。
「あーうっうー……」
実は狸寝入りしていたせな。
起きられもせず、翔を寝た振りで見送っていた。
彼の優しさに触れ、せなの心は、ほんのり暖かったのであった。
しばらくすると、リィナがせなを呼びにやってきた。
「せなさん、食事の用意ができましたよ。レストランに来ていただけませんか?」
リィナの話によると部屋で食べることも可能だし、レストランでみんなと共に食べることも可能だそうだ。
「みんなってだれとなんですか?」
思わず、その言葉に方言が入ってしまうが、リィナは気づかない素振りで。
「ああ、他にもお客様がいるので、その方と一緒になりますよ。合い席にはなりませんが、一人で食べるのが嫌でしたら、ぜひレストランへ。もし、一人で、ということでしたら、部屋食をオススメしています。あ、今日は翔が……いえ、オーナーが直々に食事を運んでくれますよ」
と説明してくれる。
「え? あぁ、うん。お部屋でお願いします……」
せなは、そういってぼうっとしたまま、部屋へと戻っていったのであった。
その胸に、先ほどの翔の暖かい優しさを宿して。