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握れないもの

胡桃なら割れる。


スチール缶も潰せる。


腕相撲では相手の骨を折ってしまったことすらある。


駅構内を歩いていても、前から来た人間がモーセの十戒のように勝手に道を開ける。


そんな筋肉ダルマの俺だが、どうしても潰せないものがある。


人間の手だ。力の入っていない手だけ潰せない。


相手が本気で握ってくれれば、話は違う。


相手が全力で握手してきたのなら…


たぶんその気になれば、相手の手を粉砕骨折ぐらい出来てしまうと思う


だが、相手が脱力しているとダメだ。


どんなに力を入れても、全然潰せない。


女性の手は柔らかい潰せない?


違う。


男の、ごつい手でも、力が入っていないと潰せない…


何故だ?


「え?ちゃんと握ってる?」


と聞かれる。


握っている。


超マジメに握っている。


だが、いくら腕に力を入れても、手に力が伝わらない。


潰れない。


「ほらもっと本気出せよ!」


「いや、出してる」


「ウソつけ!」


「うぉぉぉ!」


「おーい!どうした?」


「いやマジだって!」


友人たちにも笑われるが、何故か力が入らない…


胡桃は割れる。


スチール缶も潰せる。


だが、力の抜けた手だけは潰せない。


本当に意味が分からない。


「……なんで?」


本当に不思議である。


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