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新感覚『般若心経』 〜蒼龍くん物語スピンオフ〜  作者: 蒼龍 堅明


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第4話:五蘊その1【色(しき)】:宝石とゴキブリ

さて、第4話です。


シャリホが握りしめる「五つの重り」の筆頭、宝石にメスが入ります。

お山での仕事を終え、報酬の宝石を後生大事に抱えるシャリホ。

彼にとっての「至宝」は、カモメの目にはどう映るのでしょうか。

シャリホの荷車が沈んでいる泥沼の傍らに、一つの小箱が落ちていました。

 それは、彼がお山での商談で手に入れた、見事なエメラルドの原石です。

 泥にまみれながらも、それは鈍い光を放っていました。


「ああ! 私の宝石が! お山で必死に玄龍さまに頭を下げて(ふりをして)、ようやく手に入れた私の魂が、こんな汚らわしい泥に! これがなければ、私はオネーチャンたちの前に顔向けできません!」

 シャリホは必死に手を伸ばしますが、泥に足を取られ、宝石に届きません。

 その宝石のすぐ隣を、一匹の大きなゴキブリがカサカサと通り過ぎました。


「ヒッ! ゴ、ゴキブリ! 汚い、不潔です! 私の宝石に触れるな! その薄汚い虫め、私の高貴なエメラルドと同じ空気を吸うことさえ許せません!」


 シャリホは手帳に

(……15時20分。害虫による資産価値の毀損。管理責任を問う……)

と殴り書きします。


 その時、荷車の縁にいたカモメが、スッと地面に降り立ちました。


「やれやれだぜ。おじさん、何と戦ってるんだい?」

「何って、見ればわかるでしょう! 私の命の次に大事な宝石と、その横にいる忌まわしき害虫ですよ!」


 カモメは首をかしげ、水かきのある足で、あろうことかエメラルドを泥の中に蹴飛ばしました。


「なっ、何を……! 何をするんですか、この野蛮な鳥は!」

「価値? そんなもん、あんたが勝手に貼った値札だろ」


 カモメは泥に半ば埋もれたエメラルドと、その横を走るゴキブリを見比べます。

「オレから見れば、どっちもただの“そこにある形”だぜ」

「何を馬鹿な! 宝石は価値があるもので、ゴキブリは価値がないものです!」


 カモメは小さく鼻を鳴らしました。

「……昔のオレも、石ころに値札を貼ってはしゃいでたけどな」


 そう言うと、宝石の横を走るゴキブリを嘴でパクリと捕らえます。

「……ん、こいつはいいタンパク源だ。脂が乗ってて美味いぜ。


 おじさん。あんたのその宝石は、腹が膨れるのかい?」

「……う、うう……。宝石を、ゴキブリと同列に語るなんて……」


「宝石だって泥に沈めば石ころだ。

 ゴキブリだってオレに食われりゃ命のエネルギーだ。

 違うのは、物じゃない。あんたの顔色だけだぜ」

 カモメは喉を鳴らしてゴキブリを飲み込み、首をすくめました。


「形あるもんは、ただそこにあるだけだ。

 泥の上でまで、そんなに肩に力入れなくてもいいんじゃないか?」


 泥の中で、エメラルドは黙って沈みかけていました。

形あるものに、私たちは簡単に値札を貼ります。


高い、安い。

尊い、下品。

必要、不潔。


けれど泥の上では、どちらも同じ重さでした。


次回、第五話。

あの耐え難い「痛み」にシャリホはどう立ち向かうのか!!

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