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第14話 ラパン再び!

小学校の昼休みの時間帯に、白衣を着た女が買い物に来た・・・


文房具屋の店主が「南部小の保健の先生かな」と思うのも無理はない。

そして、その勘はおそらく正しかった。


その証拠に、和彦の言葉に小川は青ざめた。


「そ、そんな!それが私だなんて・・・証拠は!?」

「ない」

「だったら・・・!」

「ま、あのとぼけた文房具屋の店主があんたの顔を見て、思い出してくれることを期待してるよ。

それと・・・えーっと、あんた、加山先生だっけ?」

「は、はい!」


和彦に突然名前を呼ばれ、加山は姿勢を正した。


「あんた、この小川って人に『ラパンは山村遼かもしれない』って話したんじゃないか?」

「え?」


三山の表情が強張る。


「加山さん、本当ですか?先日はそんなこと一言も・・・」


加山はうなだれた。


「はい。小川先生に相談しました。小川先生は、僕達若い教師のいい相談相手ですので」


南部小の母、と言う異名を持つくらいだ。

加山が信用して山村遼のことを相談したのも頷ける。


だが、その南部小の母の顔は、いまや「母」とは程遠い物になっていた。


「どうして話してくれなかったのですか?」

「すみません。小川先生には何の関係もないことですから、巻き込むのは悪いと思って。

小川先生にも『カードのことは忘れなさい』と言われていましたし」


和彦が小川の方へ歩きながら言った。


「あんたは文房具屋の店主から渡されたカードのことなんて忘れていたけど、

加山先生から山村遼のことを聞き、世間で話題になっているラパンの正体と、

自分がそのカードを偶然1枚持っていることに気づいた。

で、原七海を殺すことを思いついた。今なら、カードを使えばラパンのせいにできるかもしれない、と」

「なんですって!?」


声を上げたのは小川ではない。

尾高校長だ。


「ラパンのせい、ということは、山村君のせいにしようと思ったということですか!?

生徒に殺人の罪を着せようとした、と?そんな馬鹿な!小川先生はそんなこと絶対しません!」


尾高校長は肩で息をした。


「ああ。そんなことは考えてないよな?小川先生」


和彦の声に小川が身を硬くした。

握り締められた両手がわなわなと震えている。


「ラパンの正体は、加山先生も知っている、しかも小学生だ、すぐに警察にもバレるに違いない・・・

小川先生はそれでもラパンに罪を着せて原七海を殺した。こっからは俺の推測だけど、

小川先生、あんた、原七海を殺すと同時に、山村家を滅茶苦茶にしたかったんじゃないか?」

「・・・」

「『ラパンの正体は山村遼だ。しかも、もしかしたら殺人までしているかもしれない。

いやいや、小学5年生にそれは無理だろ。周りの大人がカードを盗んで原七海を殺したんじゃないか?

そういえば、山村昇平は原七海と浮気してたらしいな。じゃあ山村昇平が犯人か?

もしかしたら、浮気に怒った妻の山村静香が真犯人かもしれないな』

ってな風に、世間は山村家を見る訳だ。山村昇平が原七海と浮気してるって手紙も、

小川が送ったんだろ」

「和彦。警察を舐めるな。警察は簡単にそんな目で山村夫妻を見たりしない」

「警察はな。それに調べれば山村夫妻が犯人じゃないことなんてすぐに分かる。

第一、息子に罪を着せてどうするんだ。でも、真犯人が捕まらない限りは、

世間ってのは山村家をどことなく胡散臭い目で見るもんだ」


今度は山村夫妻が青ざめた。

世間の目に最も晒される芸能人が、しかもトップアイドルの和彦がそう言うのだから。


「あのー・・・」


ようやく寿々菜が口を開いた。


「小川先生が犯人だとして、原七海さんを殺したり、山村家を滅茶苦茶にしたり、って、

目的はなんなんでしょうか?」


寿々菜らしい率直な意見だ。

そんなことして何の意味があるのか寿々菜には分からない。

人間関係のもつれ・・・のようなことには、寿々菜は無縁だから。


しかしそういう理由で殺人を犯す人間もいる。

小川のように。


小川は言い逃れできないと思ったのか、突然声を荒げた。


「その女が悪いのよ!」


視線の先は・・・村山静香である。

しかし、本人は訳がわからないようで、動揺している。


「あの、私が何か?」

「1学期の日曜参観の日、あんた私に『残念ですね』って言ったでしょ!?」

「は?」


要領を得ない。

しかし小川は怒りで真っ赤だ。


「私が『遼君はかわいいですね。私には子供がいないから羨ましいです』って言ったら、あんた、

『お子さんがいらっしゃらないんですか?それは残念ですね』って言ったでしょ!!!」

「・・・言った・・・でしょうか?」


村山静香は首を傾げた。


「私が子供を産めない身体だと知っていて、そう言ったのよ!」

「そんな!私、そんなこと知りません!」


だが、小川は聞き入れず、今度は和彦に向かって叫んだ。


「原先生だって・・・!私の前で、嫌味っぽく『高齢出産は嫌だから、早く結婚して子供産みたいわ』

なんて言うから!それで!それで、私は・・・」


小川の言うことは事実だろう。

おそらく村山静香も原七海もそう言ったのだろう。


確かに二人とも配慮に欠ける点はある。

しかし、そこに悪意があったとは思えない。

だが言われた本人は、底知れぬ悪意を感じたのだろう。

特に、こういう問題はデリケートである。


「それで、二人を恨んでた。ラパンのカードを利用して、

原七海と村山静香に一気に仕返ししようと思ったんだな?」

「・・・」


校長室の中に重苦しい沈黙が流れた。








「ギャラは?感謝状は?」

「出る訳ないだろ」

「ケチだな、警察ってのは」


和彦はネクタイを緩めた。



ここはテレビ局内のスタジオ。

先日第5弾が放送されたばかりだと言うのに、早くも「御園探偵 第6弾」がクランクインしたのだ。

理由は言わずもがな。現実のラパン事件の反響だ。

しかも、門野社長がまた強引に「アイドル探偵」の特番を組み、

「現実のラパンも、御園英志が捕まえた!」と言う触れ込みで大々的に宣伝したものだから、

御園探偵ファンから「早く第6弾を見たい!」との要望が殺到した。


こんな高視聴率を取れる機会をテレビ局が逃すはずもなく。

和彦はたださえでもいっぱいいっぱいのスケジュールを割いて、こうしてスタジオにいるのだ。



「これでまた稼げるんだから、警察からの礼なんぞいらんだろ」

「あ~あ、頑張ったのに」

「ラパンを捕まえるのは御園英志の仕事だ」

「・・・」


どうしてここに武上がいるのか。

ラパン事件解決の礼を言いにきたのだ。

ただし、和彦にではなく、寿々菜に。


では、どうして寿々菜がここにいるのかと言うと・・・


「和彦さん!武上さん!」


寿々菜がセットの中から飛び出してきた。


「・・・寿々菜、なんだその格好」

「どうですか!?」


寿々菜は二人の前でクルッと回ってみせる。

黒いミニのワンピースに黒いストッキング、白いエプロン。


どう見ても、メイド喫茶のメイドさんだ。


「かわいいです!寿々菜さん」


武上は本気で言った。


「ありがとうございます!」

「寿々菜。お前の役はメイドじゃないだろ?」

「はい!御園英志の助手です!」


寿々菜は、2度に渡り和彦と共に殺人事件を解決した、と言うことで、

「逆に現実の人間をドラマのキャラにしてしまえ」とばかりに、

なんと「御園探偵」で本当に御園英志の助手役に抜擢されたのだ。


衣装がメイドさんなのはさて置き、大出世である!!!



「でも、私、今回のラパン事件は全然お手伝いしてないのに・・・」

「そんなことありません!寿々菜さんの『違和感』があったからこそ・・・」

「おい。それを言うなら、俺の方が頑張ったぞ」

「うるさい」

「それに寿々菜。お前、第4弾で死体役で出てたのに、なんでいきなり助手役で復活してるんだ」

「別の役ですから」


それはそうだろう。


その時。


「スゥちゃん」

「あ!宮下さん!」


寿々菜は、微笑みながら寿々菜に近づいてきた人物に手を振ると、

武上を振り返った。


「武上さん。この人が、」

「本物のラパン、ですね?」


紹介されなくてもわかる。

右目にトレードマークの眼帯をしているのだから。


「宮下さん。この武上さんが、こないだのラパンを逮捕したんです」


ややこしい。今寿々菜が言っているのは、山村遼のラパンのことだ。


「そうですか。でも、前の特番だと、実際解決したのはKAZUとスゥちゃんだって言ってたけど?」

「あ。和彦さんと武上さんが二人で協力して」


協力なんてしてない!


「へえ。凄いね。でも、」


宮下は寿々菜に微笑みかけた。


「僕は、スゥちゃんに逮捕されたいね」


おい!


和彦と武上は、寒くなりながらも宮下を睨んだ。



宮下真みやしたまことは和彦ほど有名ではないが、今やすっかり「本物の怪盗ラパン」として、

メディアに引っ張りだこだ。

しかも、ルックスのほうは和彦に負けていない。


和彦と同じく中性的な顔立ち。

体系は、和彦より細く、背は武上より高い、といった感じで全体的にスラッとした印象だ。


そんな宮下にニコニコと笑いかけられて、

寿々菜は真っ赤である。



寿々菜さん!

あんな寒い奴に照れちゃダメですよ!



おい、寿々菜。

お前、俺のファンじゃなかったのかよ?



和彦と武上は・・・

珍しく意気投合し(?)、ため息をついた。






――― 「アイドル探偵2 餃子の恨みはしつこい編」 完―――





最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

性懲りもなく作った第2弾ですが、いかがだったでしょうか・・・凄く不安です。

このシリーズは、できればあといくつか書きたいと思ってます。


今後とも、よろしくお願いいたします。

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