7.魔境へ至る道
マイルズ視点です。
ウェアウルフ率いるフォレストウルフの群れを討伐した翌日。
何の憂いもなく眠りに就ける喜びから、村人ほぼ全員が寝坊し昼前になって漸く動き出した。
村長を始め村の人々はフォレストウルフ討伐を祝して豪華な昼食にすると意気込んだ。鳴り響く腹の虫を静めながら着々と準備が整っていくのを眺める。
広場のベンチで座っていると、ホルスト達も起きてきたのが見えた。モニカさんの後ろではぐったりしたウェアウルフがよろよろと歩いている。
「おう、おはようさん」
「おはようございます。…ところで、その人狼はどうするんですか?」
「この子ですか?私が飼うんですよ。ふふふ」
ヒィッ!って声が聞こえた方を見ると、青を通り越して最早白と言ってもいいような顔色をした人狼が耳を垂れさせてプルプルと首を振っている。
「あ、あの、昨日の夜は大丈夫だったんですか?寝込みを襲われたりは…」
「えぇ、この通り。全く問題ありませんよ!眠る前に戒めの楔を手足に打ち込んだので、一歩も動けなかったようですから」
人狼の危険性について話を振ったつもりが、モニカさんの何かに火をつけてしまったみたいで、聞いていないことまで話し始めた。
人狼に横抱きにされて連れ去られたモニカさんは、人狼が寝ぐらとして使っている洞窟に降ろされ、すぐにでも乱暴しようとしていた人狼を掴んで投げ飛ばしたらしい。
人狼が目を白黒させている隙に、太ももに仕込んだアイテムポーチからモニカさん愛用のバイオレンスな鞭の数々を取り出して調教が始まったそうな。
手も足も出ない人狼はすぐに逃げ出そうとするが、洞窟の入り口と奥へ続く道には光の剣が連なって刺さり逃げられなくなっていた。
最初は逃げるのを諦めて立ち向かっていた人狼も、段々と抵抗を止め服従させられていったとのこと。熱心に躾をしていたらホルストが馬を連れて迎えに来たので、逃げられないよう縄で腕を縛ってユニコーンの前を走らせた。殺気立ったユニコーンから必死に逃げるが村の近くで躓いてしまって引き摺られて村に着いたらしい。
村についてからも身体の傷を治してもらえたと思いきや手足を光で貫いて罪を苛み続ける魔法をかけられ、一睡もできなかったとげっそりした顔の人狼が話してくれた。
モニカさんはどこか凄みのある人だと思っていたが、ここまで怖い人だとは思わなかった。パーティの回復役であるはずの僧侶がソロでA級になれたという時点で十分すぎるくらいヤバいということなんだろう。
ニコニコのモニカさんと死にそうな人狼の話を聞いていたら昼食の準備ができたらしく、村長に呼ばれた。
村の広場にはテーブルが用意され、豪華な食事が用意された。パンにサラダに具沢山のスープ、メインディッシュは山羊肉のローストで香ばしいソースがかけられている。
村長の音頭で食事が始まり、陽の高い内からお酒も提供されドンチャン騒ぎになった。
昼から始まった宴は夜まで続き、俺達が部屋に戻ってからも静かに酒をやり合う酒豪が何人もいたそうだ。
村長には翌朝早くに村を出ることは伝えていたので、部屋に戻る時は別れの挨拶も一緒にしていた。
部屋に戻り、村長の奥さんに用意してもらったお湯でタオルを絞り身体を拭いていると、ホルスト達も部屋へ戻ってきた。ホルストはテーブルに地図を広げて話し始める。
「明日の朝にこの村を出発することに変わりはない…が、予定を少し変更する。日の出前に出発するぞ」
「立ち寄る予定の村を一つ多く飛ばすのか?」
「いや、それは予定通りに進める。恐らくこの先の村も魔物に絡んだ問題が起きていることだろう。どのルートを通るかは既に冒険者ギルドに伝わっているし、勇者様御一行が問題の起きている村を避けて行く訳にもいかない」
確かにそうだ。今回はたまたま早く解決したから一日遅れでの出発になったが、すぐに解決しない可能性も大いにあり得る。
「そこで、だ。なるべく早く魔境へ向かうために、お前らには村に着き次第問題の解決に全力で当たってもらう。レベルアップのいい機会だと思って頑張ってくれたまえよ」
なんだか良いように使われている気もしなくはないが、まだ俺達がホルストよりも弱いのは事実だ。やってやろうじゃねぇか!
意気込みを新たにしたところで、明日に備えてさっさと寝る!
翌朝、数名の見送りの元、夜明け前にビーシュ村を発つ。
馬の体力があるため、休憩もそこそこに走り続けて予定よりも随分早く宿泊予定の村に到着した。
この村もビーシュ村同様陰鬱とした雰囲気があるが、桶や布を持って走り回る村人の姿が見えた。なんでもオーガの群れが村を襲い、村の男手と冒険者とで辛くも退けることはできたが被害が大きいそうだ。
トントン拍子に村長の頼みを聞き、オーガの群れを討伐しに出発。
ザグのスキルでオーガの村落を見つけたはいいが、想定していたよりも大規模で時折モニカさんに回復してもらいながらも戦闘は俺とジークとザグ、それに人狼のクゥちゃんの四人で100体を超すオーガの群れを朝まで倒し続けた。
ヘトヘトになりながら村に帰り、泥のように眠って食事時に起きエネルギーを補給してからまた眠りに就く。
気がつけば次の村に着いていて、今度は強力な結界魔術陣のある村で直接的な魔物の被害がなかったが、地下から畑の作物を食い荒らすグラトニーモールの大群に中々対応できなくて困っていた。
一体一体は大したことがないのだが、地中を素早く動くモールに手こずっていると、ザグが村の人から借りた鍬で的確に掘り起こして引き摺り出してくれたから芋でも収穫するかのように作業をこなしていった。
畑に大打撃のあった村にはグラトニーモールの調理の仕方をジークが伝え、馬車に載せていた野菜も提供する。
ゆっくり休んでから次の村へ行くと、村の周りに蜘蛛の巣が張り巡らされていて中に入ることができなかった。
ロビンさんがザグを連れていき、蜘蛛の巣を巻き取って解除してなんとか村の中に入れるようになった。
村の中では閉じ込められてから相当経っていたのか起き上がることのできない者もいたため、早急な解決のためにホルストが火炎魔術で蜘蛛の巣を焼き払い、総力を挙げて巨大な女王率いるホームパーティスパイダーの一家を討伐した。
馬車の食料を使って村人に炊き出しを行い、同時に今後の村の食料のために毒を持たないホームパーティスパイダーの後処理と加工も行なった。
流石にこの村は問題を解決してすぐに出発する訳にはいかず、簡易通信魔導具で冒険者ギルドとのやりとりをして、応援がくるまで三日滞在して看病や警備を行うことになった。
他にも魔吸蟲という珍しい魔物が結界魔術陣に取りついて魔力を枯渇させてしまった村では、ホルストとモニカさんとジークと俺で一日中代わる代わる魔力を注ぎ続けることになったり、動く山と呼ばれる超大型魔物の進路上にある村では魔物の向きをほんの少しずらすために全力の攻撃を加えたり、魔術陣を用いた大規模魔術の構築をしたりと、トラブルの尽きることない過酷な旅が続いた。
魔境に近付く度に魔物の被害は大きくなり、十分な蓄えとして持参していた食料も少なくなった。
贅沢を言うこともできない状況となり、討伐した魔物の肉や食べられる野草を採取しながら食い繋いでいった。ジークのスキル【魔物知識】が大いに役立ち、なんとか食料が尽きる前に魔境へ辿り着くことができた。
「本当に曇ってて暗いんだな。こりゃますます食べるもんなんてねぇぞ」
「雲の暑い地域に入ったってことは魔王城までもうすぐなんだろ?あと少しだ」
「そうだな。さっさとハルの嬢ちゃんとっ捕まえて魔王ボコして帰んべ」
「…賛成…」
「帰りの分まで持たないよ、これ…」
「早くお風呂に入りたいものですわね」
「ソウデスネ、マスター」
いつの間にかホルストとも普通に喋るようになってて、なんだかんだ魔法のことや戦闘のことについて教えてくれるアイツのことを悪くないと思うようになっている。
こんな過酷な旅になるとは思っていなかったし、ホルストとモニカさんとロビンさんが居なかったらここまで辿り着くこともできなかったかもしれない。
あと少しだ。どうか無事で居てくれよハル……。
戒めの楔はその者が犯した罪を呵責する烈光が手足を地面に縫いとめ苛み続けるという魔法です。つまり懺悔のための杭です。杭(悔い)改めなさいなんつって。
ちなみに楔はウェッジですが、光自体は杭のような形をしており、それを打ちつけることで動けなくする魔法であるため表記は楔で読みをパイルにしています。決してダジャレが言いたかったからではありません!決して!!
モニカ愛用の鞭は正式にはロザリオです。どんな使用目的にでも耐えられる強度さを持った代物で、磨かれた宝珠が連なる物や、特別な浄化の儀式を経た皮革に等間隔で宝珠を埋め込んだ物など、どのタイプでもモニカの祈祷力が瞬時に行き渡る優れ物です。しっかり祈りの際に使うこともできるハイグレードタイプ。
人狼の名前は通称クゥちゃんです。正式名称はまだ決めてません。




