18.決意
毎日投稿を続けるために急いで書き上げたので、誤字脱字また読みにくい所などあるかもしれませんが、楽しんで頂けたらと思います。
花畑ダンジョンのマスターハルが魔王軍に攫われたという情報が、冒険者ギルドの上層部からソルアンブリード王国首都アンブレインへと届けられたのはすぐのことだった。
そのダンジョンはまだ一部地域以外には認知されていなかったため、一般には伏せられ王国及びギルドの上層部、それと関係者のみがその情報を知ることとなった。
当然、首都アンブレインの冒険者ギルドにいたその男の耳にも入った。
「(……魔王軍だぁ?あいつ下手こきやがってクソが…)」
「ホルスト顔怖いけどどしたの?腹でも壊した??」
「るせぇな。面白くねぇことがあったんだよ」
「……キレない。やっぱり変なものでも食べたんじゃないの?」
「こらこら、折角静かなのだから喧嘩を売らないの」
深紅のローブに身を包んだ男に軽口を叩く小柄な男の子、彼らを嗜めるのは白衣を纏った美しい女性。
いつもであれば小柄な男の子の売り文句にも、白衣の女性の含みを持たせた罵倒にも噛み付く男であったが、今は入ってきた情報を整理するのに容量を割いている様子。
普段とは違うその様子に、二人はほんの少し心配するように顔を覗き込んだ。
瞬間バッ!と顔を上げた男の熱い視線とぶつかり息を呑む。
「…お前らに頼みがある」
王国一の暴れ者、万年A級の狂犬と呼ばれていたその男の真剣な眼差しに、二人は顔を見合わせてニタァ〜と微笑む。
「パーティのお誘いがあった時から何か面白そうなことが起きると確信していましたのよ」
「勿論OKだよ!ドラゴンでも倒す!?巨人でもいいよ!」
快諾されるとは思っていなかった男は気の抜けた顔をしてため息を漏らす。
「あぁ、よろしく頼むぜ。……魔王城に行きてぇんだ」
─────
ハルが魔王軍の悪魔に攫われたらしい。
俺達はアイツの世話になりっぱなしだって言うのに、ハルが街に行く時も、ダンジョンに悪魔が来た時も、蚊帳の外だった。
頼って欲しかった。
力になりたかった。
所詮スラム育ちの俺達に何ができるんだって、頭の中には何度もその声が響いた。
何度も何度も、言葉を叩きつけるように、心をへし折るように、響き渡るのは俺の声だ。
ガァンッ!!
頭の中の声を掻き消すように訓練用のカカシに木剣を叩きつける。
噛み締めた唇からは血が溢れて落ちる。
血が滲む程キツく握り締めた手の平の痛さは、もう忘れてしまったようだ。
ガァンッ!!ガァンッ!!
助けに行きたい。
行けるものなら魔王城でも地獄の果てでも。
力が欲しい。守られるのではなく、誰かを守れるような……力が欲しい。
──それでは、あなたに力を授けましょう──
絶え間なく木剣が振るわれ続け、激しい打撃音が響いていた訓練場に静寂が訪れる。
勢いのあまり床に深く突き刺さっているのは眩ゆい光に覆われた…ただの木剣。
木剣を手離して掌を見つめると、血が滲む程に擦り切れていた傷はすっかり治っていて、赤く脈動する紋様が浮かび上がっていた。
──さぁ立ち上がるのです。勇者よ──
そう聞こえると、脈動する紋様は剣と若木を示す形へと変わり手に刻み付いた。
赤く輝く光は段々とその勢いを静めていき、光が収まった場所にいるのは傷一つ無い少年。
グッグッと手を握り開く少年に声を掛ける二人の少年。
「ハルちゃんを助けに行くんだろ?僕達も行くよ」
「……ついてく……」
「…うん、ありがとう」
旅立ちを決意した三人は訓練場を出て歩き始めた。
─────
ソルアンブリード王城内では魔王軍が動き出したことについて動揺を隠すことができず騒ついていた。
攫われたという件のダンジョンマスターは人族に対して積極的な交流を図ろうとしており、人類史上でも前例の無い出来事であった。
しかし、王国は第三王子と元宰相を視察団としてダンジョンへ派遣し重要性を示す姿勢であった。
ダンジョンでの会談は無事に進み、王国はダンジョンを保護し交易を行う事と引き換えに、魔の森に向かう最前線基地兼補給地として利用することを取り付けた。
これによりポーションの質量共に以前よりも向上し、猛毒や麻痺毒の解毒ポーションなども充実した。薬品の流通が安定したことで魔物の討伐率や冒険者の死傷率に大きな影響が現れた。
主クラスの魔物グラップリングベアが出没したという情報で近隣に衝撃が走り、大規模な討伐隊が組まれる流れとなったが、そのグラップリングベアさえも花畑ダンジョンの上客になったと言う話だ。
王国首脳部は魔王軍が動き出したことの他にも、国内に大きな影響をもたらした花畑ダンジョンとの関係が崩れることにも危機感を募らせていた。
ダンジョンの代理管理者たるアルラウネからの今後の方針を聞いた首脳部は大きくため息を吐く。
完全に敵側に回る可能性は低いとは言え、ポーションの供給量が下がることは想像に難くない。協力関係にあったこれまでは街から近いことは喜ばしいことであったが、今となっては諸刃の剣。敵方の情報を得る機会にもなればこちらの情報が流れる危機にもなり得る。
進退窮まる状況に長い沈黙が降りる会議室。
「国王陛下ッ!!神殿より緊急の要件です!」
息を切らせ大神官の紋章を掲げた伝令が部屋に駆け込む。伝令の無礼を咎める間もなく続けて要件が叫ばれた。
「勇者が現れました!繰り返します、勇者が現れました!!」
倒れ込む伝令を近衛兵に介抱させ、届けられた情報についての議論をしていると会議室に大神官が現れる。
「大神官よ、して勇者とは何処の何者なのだ」
皆が固唾を飲んで大神官の言葉を待つ。
「ダンジョンに住まう冒険者、名をマイルズと言います」
何の因果かダンジョンと縁の深い勇者が、ソルアンブリード王国に現れたのだ。
これにて二章本編は完!となります。
後日幕間が投稿されますので、そちらもご覧頂けたら幸いです。
第三章が始まるまで、また一月程の書き溜めを行いますので、暑くなった頃に皆様とまたお会いできるのを楽しみにしております。




