15.冒険者達の長い一日 後編
視点が移り変わります。最初はマー坊からです。
懐にある金貨10枚が入った皮袋の重みを感じながら、至って冷静な振りをして冒険者ギルドのロビーまで戻る。後ろをついて歩くガーラとサラに次はどんな魔物を狙おうかとガキの夢物語にも聞こえるような話をしながらウキウキした足取りそのままにギルドから出る。
冒険者ギルドを出てからも顔馴染みと気軽な話をしながらサクサク歩いていく。
市場に寄っていつも買い付けに行く店で一番安い塩を一袋と安くて匂いの強いスパイスをほんの少し買う。野営生活をしているならこれくらいはついでに買って帰らなきゃおかしいからな!
今日は塩壺も皮袋も持って来ていないから、安い割に大きな丸兎の皮袋もついでに買って塩を入れてもらう。
「なんだいマーク、皮袋も買ってくってのか?」
「うん、今ちょっと物が入り用なんだ。実は俺ら街の外で生活しててね、この値段でこの大きさの皮袋は何かと便利なんだ!」
街の外で生活していると聞いて心配そうにした店主に、ワクワクドキドキの冒険譚を語って聞かせるとやれやれって顔してちょっと塩をおまけして入れてもらえた。
「スパイスは紙に包んで一緒に入れておくからな。乱暴に振り回すんじゃねぇぞ?全部混ざっちまうからな」
「はーい!だってさ、サラ!」
受け取った皮袋をそのままサラにパス。お金はポケットから出した小銭入れから支払って、後は街の出口まで一直線!
来る時にからかった門番に声を掛けると、街に入ってすぐまた出ていくのに驚いてた。
店主の時と同じように街の外で生活していることを楽しそうに話してやると、複雑そうな顔をして「そうか」なんて言っていた。街門を出ると後ろから頑張れよーと声を掛けられて、手を振って応えてから小走りで駆け出す。
しばらく走ってから速度を緩めて、近くに人がいないことを確認してガーラとサラに話しかける。
「おう、お疲れさん。もう喋ってもいいぞー」
「ひゃぁ〜喋らないでいるの大変だったっすよ〜」
「そうっすそうっす!ちょっとニヤついただけで腕つねられるんすもん!ひどいっす!」
実のところ、ガーラとサラは身体つきと足の速さはいいのだが、如何せんアホなのだ。
双子の兄はゆるゆるで妹は口うるさい。どちらもいらんことまで話してしまうから、街に向かう間無言でいるように言いつけていた。
街から離れてしまえばもう気にしなくてもいいためワーワーと口を動かしながら小走りすると、すぐにジーク達と落ち合う一本木に到着する。
木陰に座っていたジークはおかえりって言いながら立ち上がる。ザグは木に寄り掛かって目を瞑ったまま無言だ。
サラが持つ皮袋を片手で指差しながら、もう片方の手でお腹の辺りを摩って無事お遣いが終わったことを簡単に報告する。報告が終わって寝ぐらへと出発しようとしていると、ザグが掌を突き出してきた。これはザグが待って欲しい時や静かにして欲しい時の仕草だ。
俺もジークも喧しい双子も黙り込んで固唾を飲んで見守る。そよそよと能天気な風が頬を撫でていく。
「…………来る……20くらい………馬いる……」
街の方を指差してそれだけ言うザグ。
それを聞いた瞬間、皆一斉に駆け出していく。
俺達五人は全力で走って魔の森へと向かったが、馬に乗っている奴らに追いつかれそうになった。寝ぐらのある魔の森まであと少しだったが、ジークはすぐに三手に分かれることを指示した。俺は本気の全速力で最短コース、塩の入った皮袋を持つサラはジークと起伏の激しい方へ、ガーラはザグと平坦な方へと逃げる。
俺は他の四人を置いていくスピードで森の中へと走っていく。後ろをチラッと見ると、追手は一人がサラとジークの方へ向かって、馬を降りた何人かがこっちに、残る大勢は平坦なザグとガーラの方に向かった。
すぐに前へ向き直って、倒木を飛び越えていく。
今度は滑るように潜り抜け、草木で切り傷ができるのも構わずに全力で走る。本気で走ってるのを見た人からは「飛ぶように走るってのはこういうことなんだな」ってよく言われてきた。
すぐに寝ぐらに辿り着くと、ちょうどリーダーのマイルズがいた。一人で帰ってきた切り傷だらけの俺を見て驚くマイルズに、懐から取り出した金貨入りの皮袋を投げて渡す。
「ハァハァ……ッあいつらが追ってきた!あとの四人は二手に分かれて逃げてる!!」
それだけで何が起きてるのかを理解したリーダーは大音量の指笛を吹く。
「お前ら!!急いで戦闘準備だ!ガルメリオんとこの奴らが追って来やがった!!」
バタバタと準備をしているのを横目に、俺は詳しい経緯をリーダーに伝える。
みんな無事でいてくれよ…。
──ジークside──
三手に分かれて走り出してからそろそろ5分……足の速いマークならもう寝ぐらに着いている頃だろう。切り立った崖のような場所をサラと共に走りながら思考を巡らせる。
街へ入った三人の中で分かりやすく荷物を持っているのは塩の入った皮袋を持っているサラだ。恐らくガルメリオの連中もサラを狙ってくるだろうと読んで、馬では入れないルートに進んできた。
急斜面をどんどんと登るように走ってきたため、迎撃するにもこちら側が有利になるはずだ。だから魔法の使える僕がこちらについている。
「少し距離を取れたからちょっとペースを落とそう」
「はいっす!」
サラの方は全然疲れてる様子はないけど、息をつける時がいつ来るとも分からないから休憩は大事だ。
マークやガーラやサラ程スピードもスタミナもない僕としてはもう結構しんどいが、息を整えながらここからの道筋を考える。
少し遠回りしてから寝ぐらに着くようにして、いざとなったらマイルズ達と挟み撃ちにできるような道を……。そう考えてると、やけにテンションの高い声が後ろの方から響いてきた。
「ハッハー!追いかけっこしようぜガキンチョどもー!!」
サラと顔を見合わせて、すぐに走るペースを上げる。聞こえてくる音からして相手は一人。だけど恐ろしく身軽な奴なのだろう。走っているというより木々を飛び移っているという方が近い。追いつかれるのも時間の問題だと考えると道筋は決まった!
無事に合流できるといいが……。
──ザグside──
こっちを追いかけてきてる馬は5頭。段々距離詰められてきたけど、もういつでも森の方に入れる。でもまだダメ。まだ。もう少し。一緒に走ってるガーラに指で森の方を指差す。
一気に道を逸れて森の中に入る。そしてジャンプ。
ガーラもちゃんとついてきてる。よかった、気付かなかったら喋らないといけないとこだった。
「(木の上に隠れてどうするんすかぁ!逃げないんすか!)」
小声にしててもうるさい。
上着の内ポケットからジャーキー取り出してポイッと投げる。
ちょっと先の茂みにいるのは多分ボアの何か。食いつくかな……うん、大丈夫食いつきそう。
ボアが匂いを嗅いで安全を確かめてからジャーキー咥えたら、お尻目掛けて思いっきり石を投げつける。
うん、うまくいった。
びっくりしてジャーキー咥えたまま走ってったボア。ボアを俺達だと勘違いして追いかけて行く連中。馬乗り以外の奴がまだ残ってるから、後は隠れてやりすごそう。
「(ねぇこの後どうするんすか!ザグさん!ザグさぁん!!)」
本当うるさい。ジャーキーでも食っとけ。




