13.冒険者達の長い一日 前編
別視点となっております。
なんだなんだ!何が起きた!!
何かが飛んできて爆発したのか…?
地面に倒れてる感覚はあるのに視界はチカチカするし周りの音が何も聞こえない!
視界は安定しないが、とりあえず周りを確認することはできる。周りで転げ回ってる奴らを叩き起こして寝ぐらの方向を指差して撤退の合図を出す。
寝ぐら周辺の制圧をしていた時に見つけたトレントと、そいつらを庇ったドライアドを捕まえようと森の奥へ追いかけていたが、いきなり視界が開けて花畑に出た。そこで遠目にトレント達が見えたと思ったら、次の瞬間にはいなくなっちまった!
「おいジーク!さっきのなんだか分かるか」
「転移魔法があんなに早く唱えられるわけがない。……あそこはきっとダンジョンだ」
ダンジョンだと!?最近新しいダンジョンが見つかることが多くてダンジョン活性期だと言われちゃいるが、まさか俺達が見つけるとはな。
これは運が回ってきたんじゃねぇか?
新ダンジョンの報告をすりゃあ結構な報酬金がもらえる。金が払えなくなって街を出るしかなかった俺達だが、その金を元手にまた街に戻れるんじゃ…。よし!そうなりゃやることは決まりだな。
「いいかお前ら!今の花畑は新ダンジョンみてぇだ!マー坊、若いの何人か連れてギルドで報告してこい。しっかり報酬金もぎ取ってこいよ!」
「もちろん!交渉なら任してよ」
「ジークとザグはマー坊達の行き帰りを守ってやってくれ。ガキが大金を手に入れたと知られたら碌なことがねぇ」
「あぁ、分かったよ」
「後の奴はダンジョンに向かう準備をしておけ!」
「「おう!!」」
一度寝ぐらにしている洞窟に戻ってからマー坊達は川で水浴びして街へ向かった。魔法の使えるジークと探知能力の高いザグがいたら道中は問題ないだろう。
俺達は魔の森近くに栄える街イグナシオのスラムで育った孤児だった。
今では一応冒険者という肩書きがあるが、一目見ただけでスラム出身かどうかなんて分かっちまう。住む場所もなく薄汚れた孤児に対して良い顔をする奴はいないが、かと言って生きていけない程に酷でもなかった。
資源豊富な魔の森の傍に立つ街には勿論冒険者が多く集まる。
いつ死ぬとも知れないその日暮らしの冒険者にも子ができる。子ができても冒険者以外の仕事などできるわけもなく、子を残して死んでしまうこともよくある。
そんな孤児も五つになる頃には立派な働き手として冒険者ギルドに登録することができる。
俺達はほとんどがそうして孤児になって、冒険者に登録してからは街中の雑用やゴミ処理、薬草採取などのクエストをこなして生きてきた。勿論知識も技術もないガキがいい仕事をできるはずがなくてクエスト報酬を満額貰えることなんてほとんどなかった。冒険者稼業の傍ら残飯漁りもしないと生きてはこられなかった。
街の連中も最底辺のクエストを担うガキどもにいなくなられては困るから、ヤバイゴミとヤバくないゴミを分けて置いておくくらいには寛容だ。
同じ地区で育った孤児達が、飢えや寒さをみんなで凌いでいる内に仲間意識が芽生えて、いつの間にかチームを組んで仕事に当たるようになった。まだ仕事ができないガキの面倒を見ながらも少しずつ金が溜まって、ボロボロの長屋を借りて、やっとまともな生活ができるってそう思ってたんだ。
なんでか知らねぇがクエストの失敗が続いて、違約金の支払いで首が回らなくなった。
それでもなんとか切り詰めてやっていけそうだったところに、借りてる長屋を退いて欲しいってお願いされちまった。
アイツらに楯突くわけにもいかねぇが元手がなきゃ生活してはいけない。スラムの路上は孤児達の縄張りがあって今更戻るわけにもいかない。仕方なく街の外で野営生活をすることにした。
幸いにも、俺達のグループにはギフト持ちがいたから野営でもなんとかなる手立てはあった。
無口なザグはとびきり耳が良くて、寝ぐらに使えそうな洞窟とか水場の在り処を見つけ出したり、魔物の探知をすることができる。なんでも潜んでても息をする音が聞こえるんだとか。
物知りのジークは少しだけ魔法を使うことができる。こいつは冒険者の子っていうわけじゃない。まともな勉強をしたこともあるが親を一遍に亡くして孤児になってしまったんだとか。たまたま俺達の縄張りで途方に暮れてたところを拾ってからの付き合いだ。
俺はギフトなんて持っちゃいないが、体がデカくてなんとなくガキ大将みたいな位置にいてそのままグループのリーダーしてるってだけだ。
「マイルズ、俺達は何をすればいいんだ?」
「俺達は食料調達だな。ダンジョンの調査をしに行くとしても一日やそこらじゃきかねぇはずだ」
「おう!分かった!」
俺が街に行けりゃいいんだがアイツらに目をつけられてるからな。無事に帰ってくるのを待つしかねぇ。
─────
おっかない花畑から寝ぐらの辺りまで戻ったら、まずは洞窟近くに流れる小川で服を洗ってから身体も洗う。今の季節なら川岸の岩に絞った服を広げておけば、カンカンに照りつける太陽がすぐに乾くだろう。
ついこないだ街を出てきたばっかりなのに、なんだかすげぇ久しぶりな気がしてくる。俺達だけで住処探したのも魔物狩りしたのも探検みたいでワクワクしたんだ。街ん中で雑用してた頃とは大違いだ!
ひんやりと冷たい川から上がってブルブルして水気を飛ばしたら、そのまま服着てほんの少しの荷物を持って出発だ!
歳下の双子ガーラとサラと早足で街に向かう。スタミナもあって足も速い俺達なら三時間もあれば帰って来れるはず。
水気があった服がカラッカラに乾く頃には街門が見えて、見覚えのある門番が話しかけてきた。
「おう、マークじゃねぇか、クエスト帰りか?」
「うん、そんなとこ!ちょっとお遣いを頼まれて先に帰ってきたんだ」
「へへっおつかいか。よくできまちたねぇ」
門番のおっちゃんがからかってくるから、彼女の一人でも捕まえてみやがれってからかい返して街の中に入る。そのまま冒険者ギルドに真っ直ぐ向かう。
真昼間なのにガヤガヤと聞こえてくる木造の大きな建物。その開いたままになった大きな扉から中に入る。
この時間は受付に並んでる人も少ないから、落ち着いた雰囲気の女の人が受付をしているところに行く。
「いらっしゃい、なんの御用かしら?」
「お姉さん、ちょっと秘密のお話がしたいんだけど、びっくりしないでくれる?」
「あら、何かしら?」
大丈夫よなんて微笑んでるお姉さんに少しだけ近付いて、両手を口元に添えながら言う。
「僕達ね、新しいダンジョン見つけちゃった」
目を大きく見開いたお姉さんに向かってシーっと指を立てながらにっこり笑いかけてやると、ゴクリと唾を飲み込んでから俺達を素早く観察し始めた。
今まで可愛こぶった演技をしていたけどもういいだろ。ニヤッと片方だけ口元を上げて見返してやると、お姉さんもニヤッとしてから演技し始めた。
「もう、お姉さんを揶揄ったわね〜?でも口説くにはまだ早過ぎると思うわ。坊や魔物図鑑が見たいのでしょう?案内してあげる。ちょっと私ここ離れますね」
「あら、随分と若い子に手を出すのね」
「もう!違うわよ!さぁ行きましょ」
さっきまで無邪気な演技をしていたけど、実は結構歳を食っているんだ。生まれつき身体が小さくて、大人になった今も子どもみたいに見えるらしい。歳下のガーラとサラの方が大きいくらいだからな。
お姉さんが案内してくれたのは書架じゃなく副ギルドマスターの執務室だった。
「失礼いたします。火急の用件なのですが、よろしいでしょうか?」
どうぞと聞こえて中に入ると、執務机には銀縁のメガネを掛けた長身の若い男が座っていた。
「新ダンジョン発見の報告がありました」
「ほう、そこの子達が見つけたのかい?」
値踏みするようにじっくりと見つめられる。
「あぁ。訳あって街の外にいてダンジョンと思われる花畑を見つけた。俺達はその報せを運ぶ使いっ走りだ」
「見た目よりも随分弁が立つようじゃないか。それで、その新ダンジョンの場所はどこなんだい?」
「その前に報酬が幾らか聞かせてくれよ」
手元の書類を脇に置いて地図を広げていた副ギルドマスターは動きを一旦止めて一本指を立てた。
「金貨10枚だ。ギルドに同一の情報がなければ神誓書に署名してから渡すことになっている」
「それだけ?」
男は疑われたことが心外だとでもいうような顔で神誓書の準備をしている。
「それだけって、神誓書だぞ?内容に嘘偽りがあった場合には必ず神罰が下されるんだからな」
「そりゃあ俺だって知ってるが、そこじゃない。命を掛ける神誓書とは言え、それじゃ代筆できちまうじゃねぇか。つまりその金貨10枚ってのは前金みたいなもんだろ?」
今度こそ副ギルドマスターの驚く顔が見れた。ふっと気を緩めてから話すそいつは思いの外気さくだった。
「君見かけによらず意外とやるねぇ。馬鹿な冒険者の使い走りなら節約できると思ったのに」
「へっ俺はこう見えても大人だからな。それで?幾らになるんだ?」
「確認できたら20枚追加で合計金貨30枚だよ」
ヒュ〜金貨30枚!俺達じゃ見たことも聞いたこともない額だ!これなら値上げ交渉はしなくてもいいだろ。
用意された神誓書に、まずは副ギルマスが「新ダンジョンの発見報告に対して金貨10枚、それが新ダンジョンと確認された後に報酬として更に金貨20枚を支払う」と記してから署名をする。俺はそれをしっかり確認してからダンジョンがあった花畑の位置を地図に指し示す。地形や何があったかを説明して、それが新ダンジョンであることを確認してから「新ダンジョン発見の報告に嘘偽りがないことをここに誓う」と記し署名する。署名し終わると、神誓書が光を発してインクが焼きついて二枚に分かれた!
「これで神誓完了だね。まずは金貨10枚だよ、確認しておくれ」
「いち、にぃ、さん、しぃ……うん、10枚ある」
ウヒョォ〜金貨重てぇ〜!これはヤバイな。興奮して演技できなくなっちまいそうだ。
ニヤけてるガーラとサラに気合入れて、みんなのとこまで帰るぞ!
「あの子達は確か地上げ屋のチンピラに目を付けられてたグループでしたよねぇ……」
「副ギルドマスター…?何か良くないことを考えていませんか?」
はてさて、何のことか分かりかねますが、前途有望な若者には試練が付き物だと思いませんか?




