海賊の根城 その5
部屋を追い出された後、出っ歯が涙目で蓮に食って掛かった。
「なにしてんのお前えええええ!?」
ちょっと涙目なのに加えて、なんだか股間を濡らしているのがわかる。
「お頭が怒ったらめちゃくちゃ怖えんだぞ!ちょっと小便漏らしちまったじゃねえか!」
そのお頭と正面切ってにらみ合っていたのがこの蓮なのだが、出っ歯は怒りのあまりそれを忘れているようだ。蓮はなされるがままに首を振り回される。
「悪かった、悪かったよ」
「悪かったで済むかコラああああ!」
「そこまでにしろ、ダツ」
一緒に戻ってきたロロウに言われて、出っ歯は「でもお」と食い下がるものの、何とか手を放してくれた。そして今更ながら、この男の名はダツというらしい。
「とにかく、こいつらを牢に連れて行くぞ」
「へい」
「あ、待った!」
蓮は荷車からメローラを引っ張り出すと、彼女の首の紐を引きちぎった。
「俺の連れなんだ、俺が自由ならこいつが自由でもいいだろ?」
ロロウはしばらく蓮を見て、「勝手にしろ」と踵を返した。蓮たちもとりあえずあてもないので、ロロウたちの仕事についていく。
荷車を押していると、乗っている人たちからの視線が突き刺さってきた。女たちの、恨みのこもった視線だ。
猿轡で声はならないものの、何を言いたいかは目から伝わってくる。
なんでお前らだけ。ずるいじゃないか。私たちも助けろ。
彼女たちも、何の罪もないのだろう。だが、この後、どこか知らない人物のところに売られるかもしれないのだ。二度と家族に会えないかもしれない恐怖は計り知れない。
助けようと思えば、それは簡単だ。だが、結局それは単なる暴力の上塗りに過ぎない。
暴力でしか解決手段を持たない蓮に、彼女たちを救うことはできない。ここで蓮が助けても、また誰かにさらわれるかもしれない。ずっと管理下に置いて助け続ける、なんてことは一人の人間には到底できないのだ。
睨んでくる彼女たちの視線を、蓮が見ることはなかった。
彼女たちが牢に入ったのを見届けると、蓮とメローラは客室に通された。海賊の根城にしてはしっかりしたつくりになっていて、椅子もあれば飲み物もあり、さらには紙とペンまで用意されている。
「海賊って言ったって、結局は商売だからな」
ロロウはそう言って、蓮の手に一枚のメダルを置いた。なかなかの大きさのそのメダルには紐がついており、首にかけられるようになっている。
「そのメダルを持って、見えるようにしておけ。ないと襲われるぞ。人の出入りが多いからな、この島は」
つまり、来客という身分の証明ということか。
「俺の銀のメダルなら、大体のことは聞いてくれるはずだ。どんな質問なら答えてくれるとか、そういうのは俺に聞くなよ。その都度教えてもらえ」
ロロウはそう言うと、部屋から出て行った。蓮はメローラの首にそのメダルをかけると、客室に置いてある椅子に座る。
「……あいつらと連絡は、着かねえか」
地味にエターナルに念を飛ばしてはいたものの、届いている様子はない。探して呉れてはいるが遠くにいるのか、はたまたもう捜索は諦めているのか……。とはいえ、そこそこの距離まで行くことができれば連絡は取れるだろう。
また、自分がいないと何かと危ないのではないか、とも思うが、アイシャが本気で戦えばそこまで問題はない、とも思う。レッドレッドのジャバウォックを基準として考えても、あれ以上の怪物など、島のあたりにはいないだろう。
ネプティエの手がかりの怪しいところもせっかく見つけたのだ。合流前にちょっとくらい調べたって罰は当たらない。
「おい、何かわかったことあるか?」
蓮がメローラに聞くと、メローラは首を横に振った。
『具体的な文字は何にも。でも』
彼女はこの島に来てからか、随分と鼻をひくつかせている。
『気になる匂いはするわ』
「匂い?」
『たぶん、料理の匂い。こっちよ、行きましょう!』
彼女は蓮の手を引いて、客室から出ようとする。やけに積極的だ。
「……お前、帰りたくないんじゃなかったのかよ?」
メローラはその言葉に一瞬固まった。しかしすぐに紙に文字を書き殴り始める。
『べっ…………別に!帰りたいなんてこれっぽっちも思ってないわよお!なんか、宝探ししているみたいで楽しくなってる、なんてこと、本当にないんだから!』
紙を蓮の顔に押し付けながら、自分の顔を真っ赤にしているメローラをうっとうしがりながら、蓮は悟った。
こいつ、家出のこと忘れてやがったな。
ぐいぐいと押し付けていると、「グウウウウウウウウウ」と音がする。メローラの腹が盛大に鳴ったのだ。朝早く老婆に起こされて、水以外のものは口にしていない。
「………とりあえず、その、飯?食いに行くか?」
メローラはお腹を押さえて頷いたが、顔は上げなかった。




