異世界とドラゴン その5
「女神特権で深層心理に入って直接お願いしようともしたけど、深い眠りに入ってるからそもそも夢見てないし、かといって時間かかると上からどやされるし……召喚したらしたで怒られるし、最悪よもう……。転生がだめになるっていうときも、めちゃめちゃ怒られたし……」
エターナルは涙ですっかり顔がくしゃくしゃになっていた。そして、それを聞いていた蓮は複雑な気分になっていた。怒るに怒れない状態になってしまったのだ。
結局のところ、これはどっちが悪いのだろうか?やはり深夜なんかにいきなり来て、挙句の果てに異世界への拉致を敢行したこの女神か?やっぱりこいつが悪いのは間違いない。
というか、ここ一週間自分を殺そうとしていたという、かなり聞き捨てならない話を聞いてしまったのだが。
言われてみれば身に覚えがあった。トラックが青信号なのにいきなり突っ込んできてぶつかってきたり、いきなり上から鉄骨が落ちてきたり。どちらも大したことはなかったが、強盗までこいつの仕業とは。運が悪い、くらいにしか感じていなかったのだが、こいつが原因だったのか。まあ、それに関しては終わったことだし、特に被害を被ったわけでもなかったので、ほかの人にはあんまりやってほしくないなあ、くらいの感想しか持たなかった。
やはり一番の問題は、寝ていたからとはいえ勝手に異世界に拉致したことだろう。
だが、自分が女の子との喧嘩でふて寝していなければ、いつもそのくらいの時間には大体起きている。いくらタイミングが悪かったとはいえ、若干のこちらの申し訳なさもあった。
ひとまず、この目の前でグズグズしている女神はどうすれば落ち着くか。
これしかないな、と蓮はため息をついた。もはやこれは諦めだ。長男ゆえ、慣れている部分もある。
「わかった、わかったよ。俺も悪かったから、手伝うよ」
結局、自分が折れて謝ってしまうのが一番早いのだ。
「……ほんと?」
「その代わり、さっさと終わらせてすぐ帰るからな。学校だってあるし、バイトも……」
バイト、というとあの表情がちらつく。正直ビンタなんかよりもあんな目で見られる方が、蓮にとっては百倍つらかった。
「あー、まあ、いろいろやることはあるからよ。で、何すりゃいいんだ、俺は」
召喚された身としては、至極当たり前の質問だ。蓮も内心「どうせ魔王を倒すんだろうな」だのそういうことだろうと思っていた。
だが、返答は、逆に女神が首をかしげるという信じられないリアクションだった。
「……おい、ちょっと待て」
「いや、その、だから、なんかこの世界の危機が迫ってるんだけど、ただ、ふわっとヤバイ見たいな感じだから、その調査も手伝ってほしい――――みたいな?」
血管が切れかけた。
「今すぐ帰っていいか?というか帰らせろ」
「ええっ、なんでよお!」
「せめて原因突き止めてからにしろよ!なんでそんな状態で拉致してんだ!」
「だって、調査の段階で荒事とかになったらどうするのよお!だからとにかく強い人に来てもらった方がいいと思って……」
なんてこった。蓮は頭を抱えた。これではいつ帰れるかもわかったものではない。
「あ、情報収集については安心して。この世界に来た時に、チートで『この世界の言葉や文字は全部理解できる』ようにしてあるから!」
「それ、異世界に行くんなら大前提じゃねえの?」
「何言ってんの!文字が読めるって、この世界だと結構な文化人なんだからね!」
それからしばらくの間ぎゃあぎゃあともめる二人だったが、この後互いに腹が減って飯をどうするのかで再び口論が始まる。早くも一時間無駄になった。