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王都叫喚 その4

 巨竜の群れの中に、ジャバウォックはいた。

 いや、「いた」という言い方には語弊がある。正確には「統率している」だ。

 もっとも、彼の意識はまどろみの中にいる。だが、まどろみというほど心地よいものではない。自分の意識を囲んでいるのは胸焼けしそうな憎悪の感情だ。

 憎悪は自分の意識を囲み、今や肉体を動かしている。

 それはメザイア、および人間への憎悪だ。

 そしてこの憎しみは、肉体の主に反して身体を異様な形に進化させてしまっていた。

 おかげでほかのドラゴンを使役する力まで手に入れてしまった。以前まではせいぜい「俺が一番強いんだから言うことを聞け」という威圧程度に過ぎなかったのに。今は完全に洗脳だ。

 ほかのドラゴンたちは、人間への憎悪という感情のままに動く機械のようだ。不要の殺しや蹂躙に快感を覚えるなど、生態系の頂点が行うことではない。


 最も、いくら自分がそう思っていても、身体を支配しているのは全く別のもののため、どうしようもないのだが。


 それにしても。


 最初に人間の集落を襲撃した時より、随分数が減った気がする。

 人間らしきものが後ろに引っ張ってきて邪魔したりはあったが、それよりもしばらくしてから異様に数が減っている。

 

 そして、さっきから空気が異様にひりついている。

 自分はこの感覚を知っている。

 以前、草原で出会った畏ろしいものの感覚。

 奴が近くにいるのだ。

 正直、逃げ出したい気持ちが止まらない。


 だが、それはかなわない。


 この身体はもう、自分のものではないのだから。


 「邪進化」した生物は、どうやらメザイア教の勇者に対し強く反応するらしい。対象が人間であり、その中でも特に勇者は強く狙われるようだ、という結論に至った。

 ボス以外の巨竜は、どうやらボスに操られているようで、勇者を優先するよりも人間をひたすら殺しまわる傾向がある。そっちの方が厄介極まりないのだが。

 ともかく、ボスはおびき寄せることができるのではないか?アイシャたちとの相談の結果、そういうことになった。


 問題は、どうやってボスをおびき寄せている間に人々の被害を減らすかだ。


「………それについては、周りのドラゴンは俺が何とか出来るかもしれねえ」

「それなら、親玉の相手は私がしよう」

「じゃあ、私はアイシャのそばにいるね!」

『いや、だからお前はアイシャじゃなくて、蓮のサポートをしろと……』

「俺にはいらねえから、サポートは頼んだ」

 蓮の言葉に、メザイアは口をつぐんだ。本人がいらないと言っているのだ。第三者がどうこう言えることではない。ざまあ見ろクソジジイ、と蓮は心の中で舌を出した。

「うん、任せて!」

 エターナルはがぜんやる気だ。多少留飲も下がったのだろう。

 

 こうして、ドラゴン撃退作戦は幕を開けた。


 アイシャとエターナルは、王城の屋根に陣取った。そこでアイシャが力を込めて、聖剣に強く光が宿る。

 輝きは徐々に強さを増していくが、飛び回っているドラゴンたちは見向きもせず、近くにいる人間たちを追い回している。


 たった一頭、巨大な二足歩行のドラゴンだけがその光に反応した。


「ユ、勇者……メザイアノ、勇者……!」


 輝きを増すごとに、二足歩行の姿はみるみる王城へと近づいてくる。

 横でエターナルが強化をかけながら、アイシャは両の手で剣を構える。


 狙いはボス一頭ではない。


 自分の視界に映る、すべての巨竜だ。


「い、けえええええええええええええええええええええええええええっ!」


 強化を受けたアイシャの聖剣の光が、横なぎから一気に広がる。


 強烈な光は、王都すべてを包み込んだ。


 王都及び上空にいたドラゴンたちは、強い光に思わず目がくらむ。


 勇者の力は、「邪進化」の力を打ち消す能力がある。


 それは、「邪進化」した巨竜にされた「洗脳」も例外ではない。

 輝きに目がくらんだ竜たちは、一瞬ながら自我を取り戻した。


 意識が妙にはっきりした、と思ったのもつかの間。


 急激に、翼が重くなるのを感じた。

 まるで、巨大な重力圏に入ったかのようだ。王城のおおよそ反対側から感じる、身に覚えのある感覚。しかもこの感覚は、依然感じたものよりもはるかに、はるかに強いものだった。

「……意識なかったんだろうし、お前らが一〇〇パー悪いわけじゃないんだろうが……」

 王城の反対側の壁、そこに何かがいる。

 竜の一体が恐る恐る振り向くと、そこにいるのは小さい人間だ。だが、その後ろに、自分よりもはるかに大きなものが見える。それはこの星すら超えるほどの巨大さにすら見える。

 巨大なものの腕が自分めがけて迫ってくる。それは両手で、自分を押しつぶそうとして来ている。逃げたいのに、逃げ場がない。身体も動かない。どうしようない恐怖、迫りくる死の感覚が竜たちを襲う。

 腕がいよいよ自分たちに迫ってきた時、彼らの精神は限界を迎えた。


「…………今回ばかりは、追い返すだけじゃ済まねえぞ」


 巨竜たちは一斉に気絶し、飛んでいた竜たちは一匹残らず地に落ちた。


 今回の作戦に当たり、蓮はアイシャたちに注意をしていた。

「いいか、ボスを見つけたらそいつに集中しろ、絶対こっちに注意を向けるな」

また、一方で王様ほか無事だった人たち各位には。

「地面に伏せて目を閉じて耳をふさいで、五分くらいじっとしててくれ」

 なぜか、と聞いたら「危ないから」としか言わなかったが。


 実際目の当たりにすると、壮絶の一言に尽きる。


 何しろ、光が治まったかと思えば、次から次へと巨竜が地面に落ちていくではないか。

 燃えている王都の光景も相まって、改めてここは地獄かと見まごうほどだ。

「……というかこれ、地上にいる人もみんな気絶してるんじゃ?」

 エターナルが思わずつぶやいたが、アイシャはそこまで考えないことにした。

 ともかく、目の前にいる二足歩行の巨竜を何とかするのが先だ。

 こいつは「邪進化」の影響か、先ほどの「威圧」の影響を受けていないようだ。こいつの相手はどうしても自分がしないといけないらしい。


 エターナルから十分に強化を受けたアイシャは、再び剣を構える。剣に再び光が集まると、最後の巨竜はアイシャめがけて巨大な腕を振り下ろした。


 王城が破壊され、最終決戦の火蓋が切って落とされた。


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