「災い」 その7
女神エターナルの戦闘能力は皆無であった。
自分での戦闘はおろか、戦闘系の魔法はちっとも使えないのだ。
そのため、所属している神の集団の中でも成績は下から3番目だ。
最も、自分と同期の神の全部で3人いる中では3番目だが。
おかげで、直属の上司であるメザイアからはいつもそのことで小言を言われるざまである。自己評価など高いはずもない。
だが、実のところを言えば。
エターナルの所属している神々の集団は、日本でいう大手企業である。
大手企業のドベが優秀でないという保証はどこにもない。
彼女は確かに、補助系・回復系の魔法しか使えない。
だが、彼女を採用したメザイアよりはるかに上位の最高神はそれを踏まえたうえでエターナルを採用している。
攻撃魔法とすぐにテンパる癖がなければ、彼女は非常に優秀な女神なのだ。
異形と化したアルマの攻撃は、壮絶の一言に尽きた。
炎、雷、氷。様々な属性の攻撃が、それも一撃で周囲が吹き飛ぶような破壊力の魔法攻撃が、雨あられのように降り注ぐ。
その中で、勇者アイシャは剣を構え隙を伺っている。普通の人間ならば、複数の属性に対応もできず、また、威力を抑えきれずに、消し飛んでしまうほどの火力の中で、五体満足でろくにケガもしていない。
それはひとえに、彼女に補助をかけているエターナルの功績だった。
どういうわけか、アルマの攻撃はすべてエターナルに向けてのみ飛んで行っている。
自分に飛んでいかなければ、無数の魔法攻撃に合わせて耐性バフをかければいいだけだだ。火なら水、水なら雷、雷なら土。加えて余波によるダメージを抑えるための物理防御強化。躱せるように速度強化。
これらの魔法を的確にアイシャに継続的にかけ続けていたため、アイシャはこの天変地異のような状況でも耐えることができていた。
(すごいな。こちらが受ける攻撃にすべて合わせているのか……)
強化の恩恵を一身に受けているアイシャは驚きを隠せなかった。彼女自身、正直エターナルの実力を見たことがなかったために少し心配していたのだ。仲間選びの時も、蓮の大暴れっぷり(彼女側から見たらそう見えた)の後ろにいただけだと思っていた。
ここまでできるのであれば、自分の仲間であることに申し分ない。
「エターナル!」
「な、何!?」
「このまま彼女の懐に入り込みたい!補助を頼めるか!?」
「………任せてっ!」
エターナルは誰かに任せてもらう、という経験がなかった。自分が得意なことを、思う存分人の役に立てることができる。彼女にとってこれほどうれしいことはない。
アイシャは力強く大地を踏む。彼女の気合に同調するように胸の刻印と聖剣が光り輝いた。
速度強化を受け、もはや縮地となった勇者の踏み込みに、アルマは完全にふいをつかれた。
振りかぶった剣を放つ瞬間に、エターナルの攻撃強化が入る。それにより聖剣の光はさらに強みを増した。
「この聖剣は魔を断つ剣。斬るのは彼女にまとわりつく邪悪のみ!」
放たれた剣閃は横一文字にアルマを切り裂いた。
「ア、アアアアアアアアアアアアアアアア!」
アルマは悶え、絶叫を上げる。切り裂かれた場所は光り輝き、消えずにいる。
「勇者、勇者勇者勇者勇者勇者勇者、メザイアノ勇者アアアアアアアア!」
アイシャが聖剣を鞘に納めると同時に、輝きは光の爆発となった。
蓮がアイシャたちのところに着くと同時に、まばゆい光が草原を包んだ。
「な、何だあ!?」
『聖剣の力じゃ。かつてわしが勇者に授けたものよ』
「また派手なもんだなあ」
グラブを背負いながら、前の馬車の残骸の元までたどりつくと、アイシャと、エターナルと、衣で覆われたアルマがいた。
一番最初に気づいたのはアイシャだった。
「蓮!……それに、グラブ殿!?」
「おう。そっちも大丈夫だったみたいだな」
「……ああ。でも、アルマ殿が襲ってきたんだ」
ここで蓮とアイシャは情報を共有した。先ほど自分を後方へと引っ張ってきたのがグラブだったこと、グラブもアルマと同じように異形と化していたこと。そしてそれを何とか無力化してきたということ。
「……私は聖剣とエターナルの助けがあってようやく何とか出来たんだが。蓮は一体どうやったんだ?」
「あー、それはだな……」
蓮はアイシャに右手の甲を見せる。そこにはくっきり「卍」の刻印が刻まれている。
アイシャは少し固まったものの、どうやら正しく理解してくれたらしい。
「………本物なのか!?それ!」
「まあ、そうなるよな……一応、本物みたいだぞ、これ」
「そ、そうか……。確かに、勇者が一人だけ、ということは予言でも言われていなかったわけだし……」
(本当は一人だけのつもりだったんだけどね、蓮だけって意味だけど)
心の中で複雑な表情を浮かべるエターナルだったが、そこにメザイアの冷たい声が刺さる。
『それでお前は、何をしとったと言うんだ?』
『えっ……?私は、アイシャさんのサポートを……』
『まがい物の勇者のサポートなんぞして何になるというのだ!このドアホ!お前はわしの決めた勇者のサポートをしていればいいんだ!』
アイシャのサポートがうまくいって上がっていたモチベーションは、すっかり下がってしまった。
そんな二人の念話が聞こえていた蓮は、そんな説教は聞きたくないとばかりに話に入り込んだ。
『……ところで、あんたアレになんか心当たりないのかよ?』
『……うむ。それを伝えようと思って、こうして念話をしているのだ。今回のドラゴンの襲撃、そしてお前たちの仲間の変貌、これらについてだが、心当たりがある。それはだな……』
メザイアはしばらく溜めた後、言葉を発した。
『…………カーリー。かつて、三〇〇年前にこの世界を危機に陥れた邪悪なる女神よ』




