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「災い」の調査へ その6

 馬車に乗って平原に向かう途中。

 エターナルはグラブ・アルマの二人と一緒に馬車に乗っていた。

 最初に馬車に乗る時、割と当たり前のように蓮と一緒の馬車に乗ろうとしたのだが。

「ああ、待ってくれ。そっちには私が乗るよ」

「え?」

「いいから」

「いや、でも」

「い  い  か  ら」

「あっ……はい」

 アイシャの妙な気迫もあり、蓮の隣を譲ることとした。

 もう一つの馬車に乗ると、もうすでにグラブとアルマが座っていた。二人とも葉巻を咥えてリラックスしている。

「おう。珍しいな?あの兄ちゃんと一緒に乗るもんだと思ってたぜ」

「え、ええ。たまにはほかの人ともいいかなあ、なんて」

「あらあら。勇者様に彼氏さんとられちゃうわよ?」

「やだなあ、そんなんじゃありませんよあんなの!」

「あら、そう?彼、相当優良なオトコだと思うんだけど」

 アルマは言いながら、口から煙を吹いた。そして、まるで恋する乙女のように、目をうっとりさせる。

「あんな強いオトコ、この世にいるもんじゃないわよお」

「そうだなあ。俺も選別で横目に見ていただけだが、ありゃあバケモンだぜ」

「第一、魔法を素手で弾いている時点でちょっとおかしいわよね」

 そりゃそうだ、と内心エターナルは思う。彼がその気になれば、これから行く平原でやったようにドラゴンだって相手どれるのだ。逆に人間相手の選別の時って、彼はどれくらい手加減していたのだろうか。女神には想像がつかない。


 少なくともこの世界での強さの基準として、どの魔物を倒したか、というのがある。

 先ほどからちょくちょく出てくるドラゴンというのは、この世界での人間の強さを測るバロメーターの中では最高峰だ。その下となると山ほど種類がいるのだが、王国の兵士などの場合は、下級の悪魔を余裕で倒せれば上々だ。

 それより強いとなると、小型のゴーレムやら、大型の動物などとなる。

 この世界での強さを決める基本は、一に種族、二に大きさである。ほとんどの場合はそれで説明がつくのだが、例外として存在したのが、300年前の伝説の「勇者」という存在であったわけだ。

「まあ、いくらあの兄ちゃんでもドラゴンはどうにもならないと思うけどなあ!」

「そ、そうですねえ……」

 グラブの高笑いにエターナルは思わず苦笑いした。この二人、蓮の本当の強さを知ったら一体どんな反応するんだろうか。

「……ところで、勇者様がこっちに乗らないんだったら、もう話してもいいんじゃないの?」

 アルマがグラブに視線を飛ばす。グラブはその言葉にうなずくと、急にまじめな顔をしてエターナルに向き直った。

「なあエターナル。これは、ちょいと相談なんだが……」

 その時の視線に、女神はぞわり、と背筋が凍るのを感じた。

 人間の、明確な「悪意」というものを、初めてはっきりと感じ取ったのだ。


「俺たちと逃げねえか?金を持ってよ」

 話を持ち出したグラブも、こちらを見るアルマも、同様に濁った瞳で笑っていた。

 

 ひとまず、アイシャには彼らのことは言わないでおくことにした。

 平原までは特に問題なく到着したのだが、平原についた一行はその異様な光景に目を見張ることとなった。

「なんだ、これは……!」

 思わず声を出したのはアイシャだ。彼女の記憶の限りでは、平原は一体緑の草原であったはずだったのだが。

 何があったのか、大地はところどころに穴が開き、茂っていた緑の下にあったであろう岩石が露になっている。

 何か巨大なものがこの平原で暴れたのであろう、とアイシャたちは結論付けた。詳しい調査はまた翌日だ。


 ひとまずその現場付近をキャンプ地とすることにして、勇者パーティは夜営に差し掛かっていた。明日以降の調査の方針会議だ。


「――――おそらく、例の巨竜の群れの仕業、という線は間違いないだろうな」

 キャンプ地で食事をしながら、ひとまずの見解を話し合う。

 推理を働かせたのはアイシャだ。ほかのメンバーも特に異論はないらしく、頷く。

 そのうち約2名は適当に相槌を打ちながらも、別の方法で会話をしていた。

『それで?グラブとアルマが逃げるって話だが、どういうことだよ』

 どうせこの草原の調査の結論など、そもそも自分たちが原因なのだから、わざわざ話をまともに聞くまでもない。

 2人にとっての問題は、水面下で起こっているパーティの空中分解の危機についてだった。

『まあ、もともとそういうつもりで勇者を名乗ってきた人もいるって、お城の人も言ってたし。そういうことなんだと思うけど………』

『で、俺に話を持ってくるのはいつだって?』

『この話が終わって、アイシャさんが寝たら、って話みたい』

 蓮はちらり、と、裏切るつもりの2人を見やる。アイシャの話に対し、ちょうどよいタイミングで「ああ」や「なるほどね」といった相槌を打っている。上手いものだ。


 アイシャはつい先ほど、ピーターという仲間(候補にすぎなかったが)を失ったことを受け入れたばかりだ。そこにいきなり「さらに2人がトンズラこいた」などとなると、彼女のショックは非常に大きい物だろう。「自分が至らないばかりに」などと抱え込みかねない。


(知らせるわけにもいかねえ。だが、黙っててもあいつらは勝手に出て行く、か)

 

 正直なところ、蓮にこの問題に首を突っ込む必要はない。というか、突っ込みたくない。「災い」の謎を解くことは早く元の世界に帰ることにもつながるし、そのために手伝ってくれる人がいるというのならいるに越したことはない。だからこそ、アイシャとわざわざ離れる必要はないのだ。彼女が国に認められている「勇者」である限り、こちらもいろいろと動きやすくなるだろうし。

 だから、グラブたちの誘いに関しては、答えは「NO」だ。そもそも金が目的ではない。

 いなくなるならいなくなるで、別に構わない。だからこそ蓮はピーターがパーティを離れる時も、特に止めようとは思わなかった。


 とはいえ、だ。

 厄介なことに、怒った顔もだが、泣いている顔も見たくはないのだ。泣いた顔も怒った顔も愛にそっくりだから、別人だとわかっていても胸が痛んでしまう。


 だからこそ一刻も早く元の世界に帰って、彼女には謝らなければならないのだ。


 アイシャとエターナルが眠った後、アルマはこっそりと夜営のテントを抜け出した。

 いま、見張り中にグラブが蓮に話を持って行っているはずだ。自分もそこに行き、フォローする。そのために見張り場に向かった。

 エターナルは計画を聞いた時、呆けたような顔をしていた。おそらく、蓮が彼女の主導権を握っているのだろう。ならば、蓮さえ説得すれば彼女も計画に参加するに決まっている。


 アルマもグラブもピーター同様、町の裏側に住む人間だった。ただ、アルマという女の場合は、とある貴族が行きずりの女との間にもうけた子供であり、それを利用してゆすっていた母親のおかげで、そこまでひもじい生活はしていなかった。

 アルマの母親は狡猾だが用心深い女で、父親を強請った金はほとんど使わなかった。金を使うのではなく、集めるのに意味を見出す女だった。そんな母親との生活が嫌で、アルマは勝手に家の金を持ちだして魔法を勉強するために家出した。

 この世界では魔法の勉強には金がかかる。魔導書、杖、体内の魔力を高めるアイテムなど。

 武器などは最悪、その辺の棒や石で敵を殴ればよしんば殺せるが、魔法で敵を殺すとなると、バカでは到底できない。効率の良い魔力の体内生成、放出。さらには特定の事象への変換など、そういった理屈がある程度わかっていないとできないものなのだ。

 そしてアルマは、どんなことをしてでも自分の欲望を満たしたい女だった。その欲望は「見下したい」という欲望だった。そして、そのために親から盗んだ金で魔法を習得したのだった。もっとも、魔法学園に通うも、盗んだ金で通っていたことがばれて破門となってしまったわけだが。

 グラブとは学園を破門になり、町に帰ってきた時に知り合った。彼は裏街の中でもなかなかに腕の立つ男であり、ともに行動することで裏町の連中の前にでかい顔をすることができる。お互い自分の欲求のままに行動し、下手に干渉するようなことはしない。利害の一致のみで行動する間柄であり、「そういう行為」は金銭授受の元行ったこともある。そういう間柄だからこそ、こういう時に裏切ることはないと信頼できる。

 あの相棒がいれば、今回の計画もうまくいくだろう。

 彼女はそう確信していた。

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