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勇者邂逅 その2

 牢に押し込められた二人は、何がどうなっているのかさっぱりわからなかった。

「おい、どうしてこうなった?」

「知らないわよ……」

 エターナルにはわめく余裕もなかった。

「あ、あのう……」

 エターナルは恐る恐る、牢の見張りをしている兵士に声をかけた。

「ん?なんだ」

「私たち、なんで投獄されてるんでしょうか?」

「はあ?」

 牢番の兵士は、すっかり頭のおかしいやつを見る目である。

「お前らなあ、国家詐欺罪だろ?王様のおっしゃってた通りだよ。こういう連中、出てくるんだよなあ。一網打尽だよ、まったく」

 兵士が話す中でも、牢屋にはどんどん投獄されていく。蓮の見覚えのある男もいた。野次馬の中にいた連中だ。

「勇者っていえば金がもらえると思って、「我こそ勇者だ」っていう輩が城に押しかけてくるだろうってさ。本物の勇者様が来たら鐘で知らせることになってたんだよ。お前らも間抜けだなあ、鐘が鳴った直後に勇者ですって言ったんだろ?」

「………はい?」

 

つまり、蓮たちが来る前に、王様たちが納得いく「勇者」が現れたということだ。


「おい、お前ら、俺以外にもだれか拉致って来たのか?」

「してないわよそんなこと!私だってわけわかんないんだから!」

 とにかく、勇者は蓮だけであるとエターナルは供述していた。おそらく彼女は本当にそう思っているんだろう。

「おい、あのジジイとは連絡つかねえのか」

「それがだめなのよ。連絡したいって言ったら「余計な事まで報告してくるだろうから嫌だ」って言われて。向こうから一方的に連絡してくるだけなのよ……」

「つくづくブラックな……」

 とにかく、メザイアに連絡がつかない以上、自分たちで何とかするしかないだろう。

「あの、すみません。私たち、いや、こっちの目つき悪い方なんですけど、本当に勇者なんですけど」

「はあ?だから勇者様はもう見つかったって言っただろう」

「し、証拠があるんです!蓮、ほら、刻印!」

蓮が右手に力をこめると、白く光る卍が浮かび上がる。

「そ、それは……!」

「わかってくれました!?」

「よくやるなあ。感心するよ。刻印まで用意するとはなあ」

 残念ながら、兵士の信用を得ることはできなかった。何が「認識してくれる」だ。あのクソジジイ。蓮の眉間にしわが集まる。

「お前さんら、さては生活に困った口だろう。刻印まで魔法で真似して。だが、格好がなあ。本物の勇者様は鎧に、刻印が刻まれた聖剣まで持ってるって話だぞ」

「聖剣?」

 首をかしげたのはエターナルだった。

「……そんなものあったの?」

「とにかく、お前ら国家詐欺罪は重罪だからな。一番罪が軽くて国外追放。重ければ……死刑だろうなあ」

「死刑!?」

 その言葉に焦ったのか、エターナルはすっかりポンコツモードだ。こうなると役に立たない。どうしようもなく、わたわたし始める。

 蓮はため息をつくと、指の骨を鳴らし始めた。これくらいの鉄格子なら、たぶん簡単に壊せるだろう。見張りの兵士は、まあ……気絶させるくらいならわけはないはずだ。なるべく外傷は負わせたくない。

 

 やるか、と鉄格子に手をかけた時だった。


「……おい、お前ら、外に出ろ!」

 牢番に言われて、手に込めた力を緩める。 

「……は?」

「勇者を名乗ったもの全員だ。ついてこい」


 牢番から入れ替わって蓮たちを牢の外へと連れて行ったのは、ほかの兵士よりも少し年を食った男だった。兵士長と呼ばれていたので、少し偉いのだろう。

 牢から連れ出されたのは蓮を含めておよそ100人。逆に言えば、それほどの人数が勇者を名乗り城へ押しかけたのだ。そりゃあ国側もうんざりだろう。

 連れて行かれたのは兵士の訓練場だった。なかなかの広さで囲いがあり、上の方には物見のスペースがある。

 そこには偉いであろう人がちらほらと顔をのぞかせている。あるものは訝し気に、またある者は威厳に満ちた目で、こちらを見つめていた。


「お前たちは、「勇者」を名乗った。そうだな?」

 兵士長が声を張り上げたので、そちらに向き直る。

「だが、本物の勇者様は既に王様へと謁見を済ませておられる。……見ろ!」

 兵士長は剣を物見の方へと向ける。

 どうやらあそこにいるのがこの国の王様たちらしい。威厳のある目をしているのはどうやら王様のようだ。よく見ると王冠もかぶっている。

 そして、王様の後ろから、人影が出てきた。

 蓮はその顔を見て、ぎょっとした。勇者の顔は見覚えのある顔だった。

「こちらが信託を受けし勇者、アイシャ=レヴンヘイム殿である!」


 昨日の隣の部屋の女性だ。夜の寝間着姿と異なり、今は長い髪を束ね、鎧を身に纏っている。そして、その手には鞘に納められた長剣が握られていた。

 唖然としている蓮のことは目もくれず、アイシャ、と呼ばれた彼女は声を張り上げる。


「ここにいる者は「勇者」を名乗った!つまり、世界を救う気概に満ち溢れている者が集まってくれたと、私は思っています!」

 彼女の言葉に、訓練場にいた囚人たちがどよめきだす。小声で、「俺らは金さえもらえれば……」という声まで聞こえてきた。あまりそういう気概のある者はいないようだ。

「そこでだ。諸君の気概に私も応え、諸君の中から私の仲間として、ともに「災い」に立ち向かう者を選定したい!仲間となった者は、もちろん無罪放免となる」

 無罪放免、という言葉に会場がざわめきだす。彼女の言葉に続くように、兵士長が咳ばらいをした。

「つまりだ。ここで勇者様の仲間となる者を決めるわけだ。そこで」

 兵士長が兵士たちに促すと、兵士たちが木の剣やら棒やら、武器になりそうなものを大量に持ってくる。

「ここにいる皆で戦ってもらう。最後まで立っていた者が、勇者様の仲間となる者だ。武器はそこにあるものを使うがよい」

 ざわめきがさらに大きくなる中、一人のごろつきが声を上げた。

「なあ、戦うのはいい。殺しは?」

「……なお、この戦いで落選したものは、国家詐欺罪に問われることとなる」

 兵士長のこの言葉に、ごろつきどもは雄たけびを上げる。国家詐欺罪は重ければ死刑だ。ここで生き残れなかったものは、死刑を執行されたと同義である。そういう風に彼らは受け取ったのだろう。

 対照的に、怯え切っている者もいる。やせ細った若者だった。彼はおそらく、本当に生活に困って偽勇者を名乗ったのだろう。可能性は限りなく低いだろうに、縋らずにいられなかったのだろうか。

 ごろつきどもは嬉々として武器を取り始めた。思い思いに自分の好む獲物を見定めている。

「れ、蓮はどうするの?」

 エターナルと蓮は、集団から少し離れたところにいた。周りを見ると、何人か武器を取らずに待っている者もいる。素手で戦う方が慣れているのだろう。蓮も、武器なんか使ったことはなかった。

 そして、蓮はごろつきどものことなど眼中になかった。

 アイシャは物見の奥に引っ込んでしまったのか、姿が見えなかった。彼女の方に気が言ってしまって、エターナルの言葉も聞いていなかった。

 一体どういうことなのか。寄りにもよって、彼女が勇者を偽っているのだろうか?嘘をつくようには見えなかったが。それも、一度会っただけで大層な思い込みだが。それを聞き出したくてたまらない。


 そんなことを考えている間に、どうやら武器選びの時間は終わったらしい。結局、蓮は兵士長たちの話をほとんど聞いていなかった。

「そこまで!各々、準備はよいな?」

 囚人たちは、一斉に構えだした。


「………始めよおっ!」


 銅鑼の音とともに、怒号が飛び交い、男たちが一斉に武器を持って訓練場の中心に集まり始めた。


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