第十一階層+α/バカンス日和
「――海だよな?これ」
「海。それもリゾート向きの綺麗な海!」
「……何か若干テンション高いか?」
十階層での一休みを終えて進んだその先。
ここからは前情報の無い未知の領域。
中階層の始まりである〔第十一階層〕。
カイセ達の目の前に広がる階層の景色。
そこには今までのような遺跡の、建造物の面影はどこにもない。
……目の前には広大な海。
地下であるはずの空間に青空が広がり太陽まで照らしている。
カイセ達が今立っているのは白い砂浜。
潮風の匂いが流れるこの場所は確かに、〔海〕と言って問題の無い空間であった。
「まさか海が広がるとは、流石に予想だにしなかったわねぇ」
「……とか言いつつ、何でちゃっかり水着に着替えてるのさ?いつの間に着替えた?そもそも何で水着を持って来てたのさ?」
カイセが目の前の景色に困惑する僅かな間に、天使シロはいつのまにやら水着への着替えを済ませていた。
白いビキニの水着に麦わら帽子。
更にはサングラス、ついでにどう考えても天使には不要であろう浮き輪を右手で抱えている。
どう考えてもダンジョンを想定した準備では無い持ち物だ。
「そもそも私、休暇でこの世界に降りて来てるのよ?このくらいの準備はしてるわよ」
「あぁうん。まぁこれ以上は触れないようにしとくわ。――で、本題戻っていいか?」
「ちなみにどう?似合ってるかしら?」
「ちゃんと似合ってるから本題に戻させてくれ」
「んー…まぁ適当感はあるけど状況が状況だし、嘘言ってる訳じゃないみたいだから解答が出ただけ及第点にしときましょうか。やっぱりこういうのは誰かの感想あってこそ選びがいがあるものねー。それで本題って?」
「ここって遺跡型ダンジョンだったよな?まさか海底にある遺跡を攻めろって話なのか?」
「いいえ違うみたいね。そもそも根本が変わってるのよ、ここ」
「根本?」
「ここはもう〔遺跡型〕じゃない。ダンジョンの形式形態が〔自然領域型ダンジョン〕に替わってるのよ。途中で変わるって言うのは本来はあり得ないんだけど……」
ダンジョンにはいくつかの種類が存在する。
迷路のような構造を探索する〔迷宮型ダンジョン〕。
そしてカイセ達が先程まで挑んでいた構造が〔遺跡型ダンジョン〕。
この二つがこの世界に実際に実装されるダンジョンの形式であり、本来であれば入り口が遺跡型なら最後まで遺跡型で統一され、途中で別の形式に切り替えられる事は無い。
……なのだが、そもそも形式ガン無視のこのダンジョンは、第十階層までは確かに遺跡型だったはずなのに、この第十一階層からは別の形式の、シロ曰く〔自然領域型ダンジョン〕と言うモノになっているのだと言う。
「本来この世界には存在しない形式と言うか……そもそもダンジョンシステムとしては色んな意味で効率が悪いダンジョンだから余所の世界でもそんなに多くはないんだけど」
「とりあえず詳細を希望で」
「本来は地上の、森だの山だの砂漠だの何かしらの自然領域を〔ダンジョン化〕したものが〔自然領域型ダンジョン〕。……さっきまでの遺跡型や迷宮型は、ダンジョンという建造物を、世界の出来る限り邪魔にならない場所に上書きする方式なのに対して、自然領域型は生き物の生息域だろうと何だろうとお構いなしに、ダンジョンの専用プログラムを書き加える。だから自然の地形がそのままダンジョンの探索領域になるんだけど――」
《モンスター陣》も扉あみだくじもない、自然の土地をそのままダンジョン化したダンジョン。
モンスターは放し飼いで自然の生態系を模して生息する一種のサファリパークのような形式。
その元々の土地次第では魔物とモンスターが混在し共存する特異な生態系も成り立つ。
シロ曰くプログラム構築が軽く済むメリットもあるらしいが、生態系への介入は勿論、管理神側の管理負担の割合が他の形式よりも大きいらしく、そもそも管理神の負担軽減を理由に独立したダンジョン管理の部門の存在意義からすれば本末転倒。
更に開発部側としても開発の自由度ががくっと下がる為に『つまらない仕事』として、結局両者から不人気な形態の為に実装例が少ない、特にありがたくない意味での希少さを持つダンジョンらしい。
そんなものが何故か、遺跡型ダンジョンの内側の第十一階層に顕現していた。
「で、攻略法は?」
「道中遭遇するモンスターを相手にしながらとにかく探索。そして宝箱を見つける。この領域の各所に設置された宝箱の中から当たりを見つけ出す」
「当たり?」
「〔ボス部屋の鍵〕ってアイテムが入ってる宝箱が当たり。鍵とは言っても実際は召喚アイテムかしらね?その鍵を使ってボスモンスターを召喚、それを倒せば宝物庫が出現しダンジョンクリアが〔自然領域型ダンジョン〕の基本的な攻略法なんだけど……ここの場合だと召喚されるのはあくまでも中ボスで、倒して出現するのは次の階層への扉ってところかしらね。これも現状は憶測だけど」
「ちなみにここ、今までのダンジョン階層よりもかなり広いんだけど、これでただの一階層分なのか?」
この地平線の存在するだだっ広い空間。
これがダンジョン一階層分だとすればこの先の時間管理も見直さねばならない。
一体この一階層でどれだけの時間が掛かるのやらと…思っていたが、状況は少しだけマシのようだ。
「そこは心配しなくて大丈夫。詳細までは流石に読めなかったけど、大まかな構造は把握したから。細かい仕組みは説明が難しくなるから省略するけど、この領域の広さは本来のダンジョン階層十階分を、つまりは第十一階層から第二十階層までの本来の空間を捻じ曲げて横に繋いでこの広さを確保した空間みたい。だからここを攻略する事はそのまま一気に第二十階層までを纏めて攻略する事と同じよ」
「ならまぁ少しはマシみたいだが……その肝心の宝箱って、これ全部海中だよな?」
「そりゃ九割以上が海の領域だもの。必然宝箱は海中よ」
「めんどくせぇ……」
海中探索のめんどくささ。
魔法のおかげで道具無しでも潜れるの確かには楽だが、それでも人の身には不自由な世界だ。
そしてこの広さの中から唯一の当たりの宝箱を見つけ出す。
結局探索の効率はダダ下がりするだろう。
「……攻略やめてこの浜辺でまったりしたい」
「ビーチチェアとパラソルはあるわよ?予備も込みで二人分。後はスイカ割りにビーチバレーも用意してるわ。砂のお城作りや浜辺で追いかけっことかは道具無しでも出来るわね」
「どれだけ準備万端なんだよ」
「しまったわね…十階層じゃなくこっちで休憩すれば良かったわ」
「結果論言われても……まぁ仕方ない。現実逃避は程々にとっとと行こう」
こうして始まる第十一階層+αの攻略。
カイセとしては前世込みで十数年ぶりの海へと足を踏み入れる事になった。
……ただ、ここで疑問が一つ。
「――ちなみにだけど、このゴーレム達って海中活動は大丈夫なように作ってるの?」