第十階層/最初の関門
第二階層での初戦闘。
その後の不意打ちミミックを仕留めたカイセ一行は、そのまま次の第三階層へと進んだ。
――そしてその後も、道中情報の擦り合わせなども行いながら、ただただ最短ルートを、ダンジョン調査隊が既に開拓済みである正解ルートのみを選んで進んで行く。
寄り道は一切無し。
行き止まりに出現している可能性のある宝箱も無視。
正解ルート以外の枝葉は全て無視。
カイセ達の目的は最下層にこそある。
情報の無い未踏領域の第十一階層からは当然ながら足が鈍るだろう。
そこからは手当たり次第、だからこそ既知の上層十階層はできる限り手早くこなす。
そうして……
「……この向こうか」
「そう。ここがダンジョン最初の関所。ダンジョン内で十階層毎にある、所謂〔中ボス〕が待ってるボス広間」
スライムであったり、陸に上がった残念な魚であったり、道中各階層での戦闘をさっさと過ぎて辿り着いた第十階層の扉。
この階層、目の前の部屋…もとい〔広間〕には〔中ボス〕と呼ばれる通常よりも少し強めのモンスターが確定で出現する関所の一つ目が存在する。
「私達が事前に得た情報での最終階層。出現するボスは【ビックボア】。脅威レベル4のモンスターね。最初の中ボスにしては少し面倒な相手だけど、カイセくんなら問題無いでしょう」
モンスターは生き物では無く魔物の模造品だ。
ゆえに《鑑定》を使っても細かなステータスが表示されることは無い。
だがその代わりに、モンスターには〔脅威レベル〕と言う文字通りの脅威度を示す別の指標が設定されており、《鑑定》持ちはそれを閲覧する事が出来る。
そしてこれまで、第二階層の〔ワイルドウルフ〕と〔オーク〕がいきなり脅威レベル3。
第三階層のスライムが1、第四階層の魚が1から2と順当に。
その後も大体が1か2であったのに対して、ここでは現状最大のレベル4のモンスターが出現する。
それが一体どれほどの脅威であるのかは正直未だピンと来ていないのだが、先の調査隊が負傷はあれど死者ゼロで乗り切れたのであれば、余程の油断さえしなければカイセや双子ゴーレムが遅れを取る事はないだろう。
「中ボス階層には大きな広間が一つあるだけ。だから次の部屋に繋がるくじ引きのような扉選びはないし、その一度に勝つだけで次の階層への扉が開く。……まぁそれは逆に、中ボスとの戦闘は回避不可能って事でもあるんだけどね。倒さないと〔帰還魔法陣〕にも届かないし」
ダンジョン内での最初の〔帰還魔法陣〕は第十階層にある。
つまり、最低限でも成果を持ち帰りたいなら、ここは絶対に倒さなければならない相手。
最初の中ボスからも逃げると言うことは、一切のセーブが行われていない状態で〔緊急脱出の指輪〕を使用すると言う事。
その結果はノーセーブでの電源オフと同義の、成果ほぼゼロの無駄骨帰還だ。
ペナルティの再攻略の禁止時間を含めればむしろマイナスだ。
つまりはここを越えられるかどうかがダンジョン攻略を目論む冒険者達にとっての線引きになる。
「それで、準備の程は?」
「問題無し」
「それじゃあ、お好きなタイミングでどうぞ。私はいつも通り見学だから」
天使であるシロはカイセの戦闘中に直接的には干渉出来ない。
生物の生き死・殺し合いにはあまり介入するな的な制約があるらしい。
なので、例え戦闘中に不測の事態が起きようとも基本的にシロは黙り続ける。
むしろ口を開いときには、本当にどうでも良い話題か、もしくは余程ひどい状況のみになるだろう。
「それじゃあ行くぞ」
そしてカイセは中ボス広間への扉を開く。
「――広い、そして草原か」
扉の先は、遮蔽物のない一面の草原。
天井も高く、今までの部屋の何倍もの広さの広間。
そしてその中心には、既に見慣れた〔モンスター陣〕が待ち構えていた。
「……入った瞬間にか」
中ボス広間の〔モンスター陣〕は、起動感度が通常よりも高いようで、カイセが近寄らずとも広間に足を踏み入れた瞬間に陣は起動し始めた。
だが…カイセはその光景を見て、今までにない確かな異変に気付いた。
「……ブレてる?いや、二つ?」
本来は一つだけのはずのモンスター陣が、ほぼ同位置に重なるように二つ存在していた。
そして一つ目の陣の起動に少し遅れ、二つの目の陣も起動し始めた。
「……【ビックボア】」
まずは一つ目の陣からモンスターが出現した。
こちらは情報通りの【ビックボア 脅威レベル4】。
予定通りの本来の相手。
「二つ目も来る。二体同時か?」
それから僅かなズレでの数秒後、想定外の二つ目のモンスター陣からもモンスターが姿を現す。
既知の情報に無い展開。
中ボスモンスターの二重召喚。
二体を同時に相手にするのだろうと判断し、カイセ達がその二体目の姿を認識したその瞬間、一体目に出現したビックボアが一瞬で細切れになったのだった。
「共闘じゃない?それに……【グリフォン】?」
二つ目のモンスター陣から出現したモンスター。
鷲と獅子の姿を併せ持つ【グリフォン】。
この世界では"聖獣"とも呼ばれる、上位の魔物の模造品。
「脅威レベル9!?」
思わず言葉を漏らしたシロ。
《鑑定》によりもたらされたのは、このグリフォンが脅威レベル9と言う、本来の設定ではあり得ない数字。
余所の世界がどうかは知らないが、この世界に設置されたダンジョンにおいて確認されたモンスターの最高は脅威レベル7と記録されている。
その記録を余裕で上回る存在の出現。
「レベル4を瞬殺か。しかも次は……」
細切れにされたビックボアは光の粒となって消えて行った。
すると予想通り、目の前の標的を失ったグリフォンの視線がこちらに移る。
双子ゴーレムは既に駆け出し、カイセ自身もグリフォンを見据えて身構えた次の瞬間――
「――はやッ!?」
速く、鋭いシンプルな突進。
その単純に極まった動きに、カイセの反応が遅れる。
グリフォンの属性適性は《風》。
風を存分に纏った申し子の最速の突進。
その矛先がカイセに向けられたのだった。
「ぐッ――!?」
――カイセの体には最速の突進を避けきれず直撃。
その勢いのまま吹き飛ばされ、カイセの体はダンジョンの壁に叩き付けられたのだった。




