不要の部屋
「――キラキラしすぎて目が痛い…」
王城第一宝物庫。
その奥にしまわれた漂流物を目指して踏み込んだ宝箱の領域。
そこで目にした最初の景色は…金銀財宝ザックザクの輝く景色。
「宝物庫っていうよりも、トレジャーハンターが見つけた遺跡の宝部屋って感じだな」
僅かな通路部分を残して部屋を埋め尽くす金銀財宝。
輝く大量の金貨に銀貨。
更には宝石、宝剣の類。
そのどれもが輝く宝として見る者の目を奪う。
「でも…なんでこんなに偽金に埋め尽くされてるんです?」
だがその全てが偽物の財宝。
大量の金貨も、少し混じる銀貨も、宝石類も全部偽物ばかり。
よく見れば本物も混じっているかも知れない。
しかし視界に見える範囲は全て偽りの品々ばかりだった。
「はは、やはり視える方には通じませんな。ご指摘の通り、ここに収められているモノは全て偽物です」
そのカイセの認識をプロスは肯定する。
この場の管理を任された者が、ここにあるのは全て偽物だと断言した。
「これらはいわゆる押収品。詐欺事件などで使用された偽の通貨に宝石や美術品です」
ここにあるのは全て偽物で、犯罪事件において使用された〔騙す為の道具〕だった。
事件捜査の過程で国が押収したそれらは、この場に蓄積されている。
「そういうのって解決後に破棄したりしません?」
「基本的にはその通りですね。違法薬などは特に」
もちろん普通の事件における押収品は、用が済めば破棄するもの。
特に偽金貨などは再度巷に流れれば混乱の元。
にも関わらずここには破棄されずに残される押収品が貯めこまれている。
「この部屋に並ぶ財宝が偽物だという事実は城でも一部のものしか知りません。先ほど門の外にいた兵たちなどは、扉を開く度に見える輝きは全て本物の財宝の輝きだと認識しています。なので他言無用でお願いしますね?」
更にここにある財宝が偽物だという事実も、一部の者だけに知らされた情報。
門番たちも偽物だと知らずに警護しているようだ。
「一応弁明しますと、この先の部屋にある品々はきちんと価値ある本物ばかりですよ?まぁこの第一宝物庫に収められているのはほとんど曰く付きの品物ばかりなので素直に世間的な価値があるかは別ですが、ちゃんと彼らは国の宝を守る役目を与えられたエリートです」
とはいえ彼らは騙されこの役目についているわけではなく、国の宝を守る役目は正しい意味で全うされている。
この最初の部屋に収められた分かりやすい財宝が全部偽物というだけで、この更に奥に眠る品々はちゃんと守るべき価値のある品物であり、彼らの役目にはきちんと意義も誇りもきちんと存在する。
「ここにある品々は二つの理由から破棄されずに保管されています」
そんな偽物だらけの最初の部屋。
そこに置かれ続ける偽物が破棄されない理由をプロスは語る。
「一つに、盗人対策と言えますね。人というものは現金なもので、盗人の達人であろうともこれだけ輝く財宝を見せつけられると本能的に目を奪われてしまうものなのです。それが例え一瞬だろうと相手の手足を遅らせれるなら私どもへの利になる。要するに原始的な足止めトラップの一種ですね」
その一つは盗人対策の罠。
そもそも厳重管理される門をコッソリ越えられる者など殆どいない。
しかし万が一も捨てられない以上は、侵入されてしまった時用の罠は当然仕込んである。
その罠の中であからさまな第一弾こそがこの偽金の山。
目に見えて分かりやすい金銀財宝。
警戒するプロとは比較にならないと思うが、油断しまくりのカイセはしっかりと目を奪われ足を止めた。
その一瞬の硬直こそがこの罠の目的。
置いておくだけで自然と働く防犯。
完全にノーコストとは言わないが、空き部屋に置いておくだけ機能する低コスト罠である。
「そのうえでこれらは緊急時の備蓄資源としても活用されています。使い道があるからここに置いている、というのが破棄されないもう一つの理由ですね」
そしてもう一つの理由。
それは純粋に使い道があるから。
「偽の金貨とはいえ金が微量ながら含まれています。銀貨も同様に微量の銀が含まれています」
偽の金貨とは言え表面には金が使われている。
銀貨も同様で、それらは素材としての使い道がない訳ではない。
いわゆるリサイクルな訳だが、この世界では基本的に魔法頼み、人手頼みなので人件費が結構かかるネックがある。
「これらの金を採取しても人件費で赤字。平時には使われぬ手段ではありますが…過去には金が不足し相場が荒れた例もありますから、もしもの備えですね」
ゆえに普段はここで放置され防犯設備として使われる。
だがその素材がどうしても必要になる有事には、人件費度外視でこれらからチマチマと素材採取のリサイクルが行われる。
もしもの為の備えとして、破棄されずに保管され続けているようだ。
「ちなみに…この罠と備えが活用されたことってあるんですか?」
「一度もないですね、どちらも」
そんな理由で存在し続けるこの偽財宝のお部屋。
しかしその二つの役目を、発揮したことは今まで一度もないそうだ。
「むしろたった一瞬の足止め目的の為に、日々出入りする私どもの目が毎度痛まされるのでデメリットのほうが大きいのでは?と現場は常に思っています。資源素材としても全然使われないので溜まる一方でだんだん通路も狭くなって来てますし…正直邪魔です」
宝物庫の番人視点からすると、この防犯と備蓄を兼ねたルールは迷惑この上ないそうだ。
もしもの備えが大事なのは理解しつつ、その為に今の不便を強いられる現場の立場からすると愚痴もこぼれる。
「なので身内の間では非公式に"不要の部屋"と呼んでいます」
「どことなく聞き覚えのあるような無いようなネーミング…」
その効果のほどが全く発揮されない、現状デメリットしか発揮されていない〔不要なモノ〕がたまり続けるこの部屋。
知る人々には"不要の部屋"と呼ばれる。
それがこの第一宝物庫内最初の部屋であった。
「それでは次のお部屋へ、この先はきちんとした品物ばかりが収められている為、色々とお気をつけてお進みください」




