5 ケーキの並んだお夕飯
駆け足に部屋へ入る。
「アリコスです。遅くなりました」
「大丈夫よ」
「アリーお姉様、ケーキ、上手くいった?」
「そうなの!今日は上出来よ!ハワード様にもふたつ返事で合格をいただいたわ。そうだ、お母様!今日、ケーキと餃子とクレープとパンケーキ。これまで私が頑張って作っていた成果をお見せしますね!」
「よかったわね。そうとう上手くいったのね」
「はい!」
ギーーーー
扉が開いて、シャツにベストにズボンという、以前の私の要望にあった服装でお父様が来る。
「お父様!ケーキと餃子とクレープとパンケーキ、上手くいったんです!」
「おーどれどれ?」
急ぎ足なのにどことなくゆっくりとした歩みで、お父様は席に着いた。
「いただきます」
「「「いただきます」」」
合わせた手を下ろすと、アリコスは簡単な説明を始める。
ハワードの気遣いだろうか。アリコスの料理が、アリコスの目の前の一角にまとまっていて説明しやすい。
リドレイも夢中になってアリコスの話を聞く。
「これがパンケーキ。これがケーキ。これが餃子です。えっと…クレープはまだですね。飾り付けがおわったら来ると思います」
リドレイは早速スポンジケーキをよそって、味見をしている。
途端に顔が困ったような顔になって、すぐ笑った。
「アリーお姉様。これ、甘いよ?」
「デザートだからね」
「美味しいね!」
リドレイは高い声で大喜びだ。
主な料理のパン類には目を向けず、またケーキをよそっている。
よほど気に入ったらしい。
「くれえぷというのもデザートなのか?」
「はい。デザート以外にもできますが、まだみんな、飾り付けが苦手で…」
困ったように笑ってみせる。でも正直、メイト達と工夫していくのは楽しい。
貧乏性たるもの、料理は昼食代を浮かせるためのものと割り切っている。
だがこんなに美味しそうに食べてくれる人がいると、好きになってしまうようだ。
「こっちのけえきとこれもデザートか?」
お父様はひとまとまりにされた餃子と、重ねて盛られたパンケーキを指す。
「いいえ。パンケーキは砂糖を入れていますが、主食にもなります。餃子はおかずです」
「では、これからいただこうかな?」
「はいっ」
ハワードの時ほどの緊張はない。
アリコスも餃子に手を伸ばす。
(ああ。安くて美味しいって正義っ)
料理は確かに美味しい。でも自分で作ってなんだが、正直、自分の料理が一番美味しいと思う。
(でも人件費さえ抑えられたらな。そしたらこっちでも正真正銘安いのに)
しかし言ったところで絶対、料理なんてさせてもらえないだろう。
美味しい美味しいと餃子をほうばっているお父様を、チラリと見る。
「どうした?」
「いえ。なんでも」
「アリー、これも美味しいわね」
なんとお母様もパンケーキを食べている。
しかも何もかけずにだ。
ジャムやメープルシロップはこの世界にあるかさえ知らないが、バターや生クリームはこの場にない。
仕方がないので、アリコスは朗らかに応える。
「喜んでもらえてなによりです」
ギーーーー
またもや扉が開く。
今度はハワードが直々にワゴンを運んできた。
銀の皿に乗せられたクレープは、上手く巻かれている。大した練習の成果だ。
「アリコスお嬢様特製のクレープです」
特製なんて言われると、少々恥ずかしい。
実際作ったのはメイト達で、アリコスは作業を見せていただけなのだ。
「ひとつもらおう」
お父様は赤い紙のを取ったので、きっとイチゴが入っているやつだ。
「私にも」
「はい」
お母様は黄色。…バナナか?
「リドはベリーズとキナナどっちがいい?」
「キナナ!」
「じゃあ私は赤いのをもらうわ」
クレープには持ちやすいよう、紙が付いている。
特にリドレイなんかはこれの食べ方をわからないかもしれない。お手本が必要と思ったのか、みんな待ってくれている。
「紙は食べれないので、破りながら、中身だけを食べます。あと、具をこぼさないように。あんまり力を入れすぎると、上から下から生地が破れてしまいますから」
こう説明しただけで、みんな無事に紙を外しきるところまで到達した。ただし、恵方巻きを食べるみたいにみんな静かに食べている。
「美味しかったですか?」
早々に食べきったお父様に声をかける。
「ああ。不思議な食べ方だな」
「見栄えを良くするために、色々と工夫をしたんです」
…リアルな地球の人が。
そういえばこの世界では、世界は丸い天体の上にあるなんて誰も唱えていない。かといって、海からの水産物はあるくせに、だれも航海をしようなんてしない。
さすがはクリエイター。シナリオに関係ないとこにそこまで考えないよな、普通。




