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貧乏性の公爵令嬢  作者: あまみや瑛理
おいしいお料理いただきます
76/121

4 小さな試食会


「ハワード様はいないのね」

「夕食のセッティングだと思いますよ」

「なるほど」

「アリコスお嬢様、そういえばなんでハワード様・なんですか?」

「それは、彼が紳士だからよ」

「ふーん」


エティが面白くなさそうにしている。

何故だろうと思っていたが、そうか、とアリコスは納得した。

そういえば焼かれていない餃子が残っているのだ。


「時間がないわよ?こっちも焼きあげましょう!」


今はなんでもうまくいきそうな気がする。


「着火ヒ・ヨ・ツケ」


大きな火を作り出し、金網に乗ったフライパンの下を覆っていく。

4つの火のうち、青い火はアリコスのものだけだ。

上手にいくに越したことはない。というのは言い訳で、単純な魔法、三語の魔法は、簡単なだけに火力の制御が難しいそうだ。

セサリーが言っていた。

そのため、他より少しだけ早く火を消す。


「こんなもんかな」


いい感じの焦げ具合だ。赤茶の焼き目がついた。中心近くは若干黒い。

そんな餃子をお先に取り分け、フォークでつまむ。


サクッ


かみつくといい音がする。

うん。家庭料理っぽいけど、いい感じにできている。

しかも皮からやった分、もっと美味しい。でもなにか忘れているような…。

アリコスの反応に気に留めることなく、みんなが試食していく。


「美味しい!」

「美味っ!」

「アリコスお嬢様、すごいですね!」

「あーこれが作りたかったのか。夢の中のアリコスお嬢様、おそるべしです」


(夢の中というか、日本の主婦達に感謝したまえ。あ、あと数々の家庭料理を教えてくれた私の母親)


図に乗りつつも、軽く懐かしむような回想に浸っていると、涙が湧いてきた。

上を向いてやり過ごすことにした。

申し訳ない気持ちが今さら断片的に現れたような唐突さに、自分でも理由はよくわからない。

ただ、あたりまえの温かな食卓が鮮明に、目に浮かぶ。そうかと思うと、涙で歪んだシャンデリアが見えるのだ。


(懐かしい、箸…。あれ。なんか、ん?そういえば餃子用のタレ、忘れてた!)


「メ、メイトっ」


ゆっくりと顔を下ろしても溢れてきた涙を慌ててハンカチで拭き取る。


「醤油、とかセイユって聞いたことある?」

「セイユ?油ですか?」

「んーちがう、と思う」


(そういえばなんで醤油って油って書くんだろ)


そしてアリコスは、ひょんな時にはひとつに気がつくと芋づる式に色々思い出されるという事を学んだ。


(そうだ。私、味噌とか醤油とか米、飴、パン…いろんなものの作り方知らない。当たり前に使ってたけど、作った人って天才なんじゃないかしら。あとチョコレートも)


「ねえみんな、この餃子、好き?」

「好きですよ」

「?美味しいですから」


周りにいた大勢が口々に答える。


(美味しい、か。たしかに美味しいし、今から変えるのは大変だからお父様たちにもこの食べ方をしてもらおう)


「そういえばアリコスお嬢様!」

「なぁに、メイト?」

「クレープは作らないんですか?」

「ああ。どうしようかしら」

「絶対ウケますよ」


たしかにそれには自信がある。

とすると博打でもないし、家族に食べてもらえるなんてこんな機会、次はいつあるかわかりもしない。


「そう?じゃあ、せっかくだしクレープとパンケーキも作ろっか」

「はい!」「はい!」

「アリコスお嬢様、もうそろそろお夕食…」

「大丈夫、すぐだから」


考えてしまうと醤油や酢の味が恋しくなる。だが幸いアリコスには時間がなかった。

味見と称していつものように、出来立てのタレを付けない餃子の美味しさを再確認していると、ハワードが部屋にいるのが目に入った。


「あ、ハワード様!メイト、エティ。粉、混ぜといて」

「はーい」

「はーい!」

「真似すんなよ」

「だってメイトにいちゃん、さっき俺の真似したじゃん」

「そんなことない。あれはたまたま」


後ろで色々聞こえる。

そんな中、アリコスはハワードの元へ歩いていく。


「ケーキが上手く焼けたんです!食べてみてください」

「お!ついにですか。いただきますよ」

「それで、今日の夕食でこれをお父様達にも食べてもらいたいのです。出していいですか?」


味が悪かったり、毒が入っていたり等、全ての責任はこの厨房にかかってくる。

それを頼んでいるのだ。


「もちろん、これらの責任は私が…」

「いいですよ…」

「はい?」

「いいですよ!」


ふとハワードは、皿を見ていた顔を上げ、活き活きとした顔でアリコスに言った。


「こんな美味いもん、みんなに食べてもらうべきです」


(じゃあ本当にあの文面で、ノエタール様にも送ろうかしら)


まだたった一回の成功だが、もう一回くらい成功すれば、人を呼べる準備が整うかもしれない。


「ありがとうございます!」


そしてすぐにメイト達の元へ戻る。

もう何十回と同じ作業をしてきたからか、粉を混ぜるのが早く、上手だ。


「そうだ!火を止めて!みんな止めて!」


若干黒くなりつつあるが、まあ丁度いい焦げ具合と言えるだろう。

羽を作るのは後回しと思っていたが、今度はそれもできるかもしれない。

こうして48個の餃子が完成した。

当然これも料理人達に振る舞う。

こちらも絶賛の評価だ。


アリコス達は忙しく、次にフライパンを冷まし、クレープを焼く。

1分かからず、1枚を焼いていく。

アリコスに追いつけるように、3人は急いでひっくり返していく。

焦げ目がついたら裏返し、熱がと思ったら取り分けてを繰り返し、4枚×4人はいい感じにできた。

これも、時間がないのでクレープ単体だが、料理人達に振る舞う。


次はビックアントの粉末を加えて、パンケーキに早変わりだ。

これも焦げ目がついたら裏返し、熱がと思ったら取り分けての要領で、4枚×4人を焼き上げる。

そして料理人達に振る舞う。

これで全員レシピ終了!そして成功!

どれも、ハワード好評価だ。


そして盛り付け終わると、もうすぐに、夕食の時間になってしまった。

生クリームやらフルーツやらは、もういい。クレープはともかく、ケーキは冷めていない。これでは生クリームが溶けてしまう。

だがしまった。

ワンピースが粉だらけだ。


「セサリー、真っ白なワンピースだから目立たないわよね」

「まあ!失礼します」


服全体をセサリーがはたいていく。

粉が舞う。

この状態で火をつけちゃいけない。

みんなに注意をしておこう。


「さてさてさて?もういいかしら」

「はい。多分もう十分です」


シミひとつない、真っ白なワンピース。

この服で料理をしに来たのは、どうせシミがつかない材料しか使わないからとたかをくくっていたからだが、おかげでなんとかなりそうだ。

ワンピースで夕食を食べるのは、初めての試みだ。多分怒られるだろう。

しかも着れない服があるわけでもない。

だが、時間がないので仕方がない。


そういえば餃子のタレを忘れていました。

世界観的に醤油が手に入らないので、そのままで頂いてもらっているつもりです。

なので(2020.4.6)修正しました。

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