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貧乏性の公爵令嬢  作者: あまみや瑛理
おいしいお料理いただきます
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3 ケーキ作り

本当は危ないので怒られそうだが、アリコスもケーキを焼く。

金属の金網で生地の入った型を支えて、周りを火で囲む。


「オーブン《ヒ・ヨ・コレヲ・カコイ・ネッセ》」


口々に呪文を唱える。

御察しの通り、完全にオリジナルの呪文だ。

だがこの厨房の各地で、いろんな呪文が唱えられている。それと同じリズムにかき消されていく。


「30分だからね?」


呪文は一度唱えれば、それを無効にしようと思うまで効果を持ち続けることがわかった。


「はーい」


メイトが懐中時計で時間をはかる。

赤、赤、黄色がかったオレンジ、赤。

ようやく火力の調整も効いてきたところだ。


「セサリー、火が弱いわ」

「え?はいっ!」


4つの赤い火になった。

こうして出来上がるのが楽しみに、おしゃべりするのが最近のアリコス達の日課だ。

といってもこれまでの20回中、3回だけだが。

そのうち最初は火力が強すぎて真っ黒になり、2回目は中が生焼け。3回目は生地がゆるすぎでひたすら水分が蒸発していった。

だからこそ、こうやって粉まで自分でやりはじめたわけだ。

そうして30分経過。


「やり過ぎた?」

「ううん。きつね色になってるだけよ。だれか、竹ぐしを持ってきて」

「わかりました」


セサリーの持ってきた竹ぐしを、容赦なく、各ケーキに突き刺していく。

若干生地が付いてきた。


「あと十分くらいはかってて」


10分経過。


「もういいんじゃないですか?」

「まだよ」


竹ぐしを刺して生地は付いていないが、出してみたらダメだったなんて怖い。

上部もまだきつね色だし、いいだろう。


「あと5分ね」


5分後。


「もう止めて」


皆、セサリーの指導により魔法の扱いに慣れ、消火の手間を必要としなくなって結構経つが、それでも焼きたてのケーキが濡れないのは画期的だと思う。

さて、ケーキは濃いきつね色になった。


「エティ、大皿持ってきて」

「はーい」


これまでになく上手くいったケーキを目の前に、全員が興奮している。

甘い匂いに誘われたのか、忙しく動き回っている何人かの量に人も、感動の瞬間を見にきた。


「それじゃあ、出します」


このあたりの作業はメイトが一番上手だ。エティの分を除く、3つをメイトが取り出す。

一瞬にしていい匂いと温かい空気が漂った。


「はやく切りましょう!」


メイトがナイフで切る。

中は…固まっていない!


「成功だわ!」


アリコスは自分の分のはじを頬張った。

懐かしい、素朴な味。

これだ。求めていたのは。

きめ細かな気泡が入り、ふわふわとした感触で、材料も偏っていない。完璧だ。

この世界で初めてのケーキが、初めて完成した瞬間だった。


「みんなも食べて」


アリコスの分をナイフで少しずつ取り分け、それぞれの口に運ぶ。

みんなから笑みがこぼれる。


「初めて食べました」

「美味しいですね!」

「美味い…。美味いですよ!」


メイトまでこんなに喜んでいる。


「リドレイがね、食べたいって言ってたの」


つい昨日のことだが、夕食の場でこれらの料理について話したのだ。

これならみんなに食べさせられる。


「ハワード様!そうだ、みなさんも食べて」


この世界に、このケーキがどれほど通用するのか見てもらいたい。

その一心で長らく不自由してもらい、ここを貸してくれていた料理人たちにもひとかけずつ取り分けて回していく。

メイトもエティもセサリーもなんだか、悲しそうな顔をしているが、誰か、次の次くらいにうまくできているものを食べてもらおう。


「こんな美味いもんがあるんですね」

「どうやってできてるんだ」

「ビックアントって食べられるんだ」


料理人達からさまざまな声が聞こえるが…。


(よし、最後の言葉は聞かなかったことにしよう)

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