2 Newダンジョン
今日は夜も遅く、明日から”1.2倍授業”が始まることになった。
「アリコスお嬢様」
ドアに何度も衝突する音が聞こえたのでアリコスがドアを開けてやると、セサリーは顔の上まで積み上がった本を抱えていた。
「ありがとうございます」
「いいえ」
アリコスがドアをささえたまま、セサリーの横顔を見ると、セサリーはまた驚いたような顔をしている。
「ここに置いておいて」
机に手を当ててセサリーを見やると、セサリーはドスンっという音を立てて積み上がった本を置き、高さがアリコスの目線の下になるよう、均一に分けて言った。
「第二倉庫の本です。棚ごとに内容が全く違うので、お気に召された本があればお教えください」
「?わかったわ」
腰を下ろしてほんの少し。そしてアリコスはふと思いついた疑問を投げかける。
「もしかして本の位置を覚えていたり?」
「はい。もちろんです。旦那様の管理なされている本なので読んだことはありませんが、先日行った際に題名はいくらか覚えました」
詳しいところは知らないが、蔵書はおそらく1万点以上。そのいくらか、というのはどのくらいなのだろう。
(セサリーも、超人なのね…。さすがゲームだわ。ううん違う、うちの家が特に特別なんだ)
それを考えると、マクスがさらに恐ろしい人物に思えてならない。
「じゃあ、おやすみなさい。セサリー」
「はい。おやすみなさいませ」
キーーーッ
という音と共にドアがしまる。
「さてさてさてさて?」
アリコスは本を読み始めた。
ある時まぶたが重くなって、けれど外の様子が暗いまま相変わらずなのに苦笑する。
「子供はもう寝なきゃなのかな?」
そうして大学の図書館で本を読み耽って完徹したことを思い出し、苦笑した。
「あーあ。眠いけど寝たくない!」
アリコスは一喝すると「んーーーーっと!」と伸びをする。
「あ!そういえば初めて人と打ち合ったけど、人との戦闘ってレベル上がるのかしら」
《通知一覧より通知の内容を確認できます》
(はいはいあとで)
《フォアミーが施行されているため、ステータスは本人にしか閲覧できません。ステータスを開きますか?
YES/NO》
YESを押して、そして淡い期待を寄せ、久々にステータスを開いてみる。
《名前:アリコス・カルレシア
年齢:12歳(子供)
レベル:1
職業:未定
称号:〈ステータス持ち〉〈ユーザー〉〈転生者〉〈錬金術師見習い〉〈フェンリルの恩人〉▶︎追加
髪:白薄紫 瞳:紫 肌:白
魔法属性:青緑
魔力量:推定160以上。Bクラス(解放前)
スキル:〈貧乏性Lv.19〉〈高飛車Lv.5〉〈知識欲Lv.6〉〈舞踊Lv.3〉〈魔法学Lv.6〉〈護身用剣術Lv.6〉▶︎レベルアップ〈魔法Lv.7〉▶︎レベルアップ〈剣術Lv.3〉▶︎レベルアップ〈錬金術Lv.2〉〈鑑定Lv.1〉》
前まで魔力量140以上だった気がするのだが、160以上に書き換わっている。20刻み、もしくは10刻みで増えるのだろうか。
するとまじまじと三周したあたりで称号の欄に《フェンリルの恩人》の文字が増えているのが目についた。
だが…身に覚えがない。
(フェンリルってあれだよね。おっきくって、ふさふさ…いやもさもさしてて、狼みたいな。かっこいいやつ。……いたっけ?)
ゲームにいたかどうか、という決定的なことにアリコスは戸惑った。
どうにも思い当たらないので、とりあえず長押ししてみる。
《フェンリルの恩人…
フェンリルの加護下である“Sランクダンジョン犬神の宝物”への入場が可能になります》
なんだかすごい、ということだけはわかるが、何事だろう。
「今は別にいいことにしよう。えっと…レベルは…」
相当上がっているように見える。
そういえばここ数日間の護身術の練習をしている間、一回もステータスを開くことなく眠っていたのを思い出した。
「どおりで」
これでは人との戦闘がどうだという立証にならない事を感じ、アリコスは苦笑いを浮かべる。
「フェンリルの恩人。…フェンリルの、ねぇ」
どうにもふに落ちないまま、アリコスはステータスを閉じて眠りについた。
【作者より】
ここのシーンはこれまでのどの時よりも描き直しが多くて、妥協をしようとしたりもしていました。
でもここがこんなにちゃんとした気分で描き終われたのは不思議です。
正直、信じられないくらいですが、納得がいかなくて何度もやめたくなってもここに嵌めようと思わないだけで先へ先へと進めてしまったのは、やはり私がアリコスを好きだからだと思います。
みなさんにも面白い話になればと思います。




