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遥か道のりの先

勇者アラニスの魂を抜き去った人物

それを探し出すことがナコラを見つけ出す道だと、貴也達は一路ボードレイドを目指していた

そこで真実を知り、長い旅の終着で貴也の運命は……

最終章 夢の終わり編 開幕

 パーズィー港を船で出発して早五日。

 一行は海路でボードレイドを目指していた。

 貴也にとっては始まりの地。そして勇者アラニスの身体が転移された地でもある。


 西に霞む大陸を望みながら、船はゆっくりと北上を続けていた。

 今はちょうどラングドル周辺。海岸線が切り立った海食崖になっているのが目に映る。

 すでに懐かしく思える景色を見ながら、海風に吹かれる貴也に、後ろからルーインが問いかけた。


「ラングドル経由じゃなくて良かったんですか?」


 パーズィーを出る時に選べた航路は二つ。

 一つは今乗っている船で、直接ボードレイドの東にある小さな港町へ向かう航路。

 そしてもう一つが、ラングドルで降りてから陸路でボードレイドを目指すというものだった。


「コーゼオ元帥は貴也さんに会いたがっていると思いますよ?」


 貴也の隣に立ち、共に海風に吹かれる。

 時折吹く強い風に目を細めながら、髪をかきあげてルーインは貴也を覗き見た。


「いやいいよ。

 あっちも忙しいだろうし」


 コーゼオの怪我の心配はしていない。

 貴也達がラングドルを出発した直後には、フォルスボアの治癒魔法師達が到着した筈なのだから。

 今は忙しく事後処理と、今後の対応などを考えていることだろうと貴也は思う。

 決して会いたくないとまでは思わないが、進んで会いに行くほどでもない。


「そうですか」


 そんな貴也の気持ちを知ってか、ふふっとルーインが微笑む。

 肩が触れそうなほどの距離に、今はもう緊張を感じなくなった。


「私達、勇傑の7人の方々全ての消息を知ることが出来たんですね」


 主目的ではなかったが、旅に出る前にルーインは知りたいと思っていた。

 魔王を倒した英雄達。本来なら城へと凱旋して数多の賞賛を得るべき人間達。

 それがなぜ消息不明などということになってしまったのかを。


 つられて貴也も思い出す。

 その一人一人の結末を。


 紫石の杖・ポラ・シーオ・マハオ。

 魔王討伐直後の危機から、勇者アラニスを転移させて救い出した英雄。

 今はボードレイドの宮廷魔術師としてクシュナ王を支えている。

 魂を扱う術は使えないという話だが、魂降しの術をルーインが行う際には尽力したらしい。


 竜殺の拳・レスタシア・クォルツ。

 魔王城から生き延びたが、直後に奴隷商に捕まり監禁されていたエンカの姉。

 その時の後遺症を、今はルディヒアの街で癒している。


 無限の盾・メイルス・ボーマン。

 魔王城でレスタシアを助けるために命を落とした男。


 大天使の加護・シャーニー。

 主に回復魔法と転移魔法の使い手として同行していたが、魔王城にて死亡。

 サハテオとは将来を誓い合うほどの仲だったらしい。


 疾風の剣・サハテオ・ロジェ・スルージャ。

 絶望し世捨て人となっていた神速の剣士。

 今は貴也とともにナコラを追っている。


 絶氷の魔女・ナコラ・ララ・ラクティ。

 アラニスの魂を戻させるため、闇の加護を魔物に与え続けていた黒い少女。

 現在は、この少女を追うことが貴也達の一番の目的となっている。


「なんか浮かばれないな」


 貴也の口からため息が漏れた。

 命を賭して世界を守った英雄達なのに、それに相応しい結末を迎えているものが誰もいない。

 かろうじてポラがそうだと言えなくもないが、今にして思えば、やはりポラの心は後悔や悲しみで満たされていたのではないか。


『誰か忘れてるんじゃない?』


 貴也の頭の中で声が聞こえた。

 そういやコイツもそうだったなと、面倒臭そうに貴也は最後の勇傑の7人の結末を思い描く。


(道案内・リュシアナ。

 チョコケーキが好きな五月蝿い女)


 直後、貴也の胸からニョキッと伸びた手が貴也の頬を抓った。


「痛ってぇ!

 お前マジふざけんなッ!」


 横目で見ていたルーインが可笑しそうに笑う。

 胸から生えた手を叩き返すようにバンバンと胸を払い、そして貴也はしんみりと言った。


「あとはアラニスだけど……。

 いったい誰がアラニスの魂を抜き取るなんて馬鹿な真似したんだろうな」


 今ボードレイドを目指しているのは、その手がかりをポラに聞くためである。

 もっとも貴也は、恐らく空振りに終わるだろうと考えていた。

 魂を抜いた人物に心当たりがあったのならば、真っ先にポラが動いたのではないかと推測出来たから。


「そういえば、ナコラさんはアラニスさんの魂を戻させると言っていましたよね」


 ルーインはナコラの事を振り返る。

 今でも震えがくるほどの殺意と敵意を剥き出しにしたあの黒い少女は、しかし悲しみの底に沈んでいたのではないかと。


「仮にそれが叶ったとしたら、どうなるんでしょう……」


 貴也もそれは考えたことがあった。

 アラニスの魂が解放された時、自分の魂はどうなるのだろうと。

 普通に考えれば元の鞘に戻るだけ。それは当初の自分が望んでいた結末である。

 しかし今は……。


 下から貴也を覗きこんでいたルーインと、至近距離で目が合った。

 その瞳に悲しみの色を見る。

 そしてそれは貴也も同じなのだろう。


「いきなりいなくなったり……しないで下さいね?」


 答えに窮する。

 もちろん即座に『当たり前だろ』と答えたい。答えてあげたいと貴也は思うのだが、安易なその場凌ぎは、後で更に傷つけてしまうのではないか?

 泣き虫で、一生懸命なこの少女を傷つけるようなことはしたくない。

 そう思うと貴也は言葉を口にすることが出来ず、誤魔化すようにルーインの頭を撫でる。

 それを黙って受け入れつつも、ルーインにいつもの安心した表情はなかった。


「こんなところにいたのね?」


 ちょうどそこにエンカがやってきた。

 少し沈んだ場の空気を変えようと、貴也はあえて明るく答える。


「ようエンカ。

 特訓の続きでもするか?」


 貴也の特訓は毎日続いていた。

 今はエンカだけではなく、剣術の師匠としてサハテオにも教えを乞うている。


「その心意気は買うけど、あまり無理はよくないわよ?」


 いつもボロボロになるまで続く貴也の特訓。

 怪我はルーインが治してくれるが、見ていて辛そうだとエンカは言うのだ。

 心配してくれるエンカに礼を言いつつも、だが貴也は手を緩める気はなかった。

 本当に辛いのは、傷つく仲間を前に何も出来ない自分だと、経験から知っていたのだから。


「そろそろ中に入りなさいよ?

 海の夜風は体に良くないのだから」


 そう言ってエンカは船内へと戻っていく。

 心配して様子を見に来てくれただけだったようだが、そういった心遣いが嬉しい。


 風が吹きぬける。

 確かに寒くなってきたなと思い、貴也はルーインの肩を叩く。

 振り返らずに遠くを眺め続けていたルーインは、それにコクリと頷き、しかし振り返りはしなかった。



 **************************************************



 目覚めた貴也はひとつ大きく伸びをした。

 今日は日曜日。

 午後から部活動があるので学校にいかなければならないが、それ以外の予定はなく、久しぶりにのんびりとした時間を過ごせそうだ。


 やおら立ち上がり、姿見の前に立つとルーインの言葉がフラッシュバックした。


『いきなりいなくなったり……しないで下さいね?』


 ギュッと胸を掴む。

 棘となって刺さったその言葉が頭の中で反響し、思わず目を瞑る。


「どうしろって言うんだよ……」


 一人ごちて、そうして貴也は自分の姿を改めて見る。

 いつもと変わらない姿。

 ただの高校二年生、三久川貴也がそこにいた。



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