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44.平凡なる超えし者、予想を立てる……





 最初は「あれ?」と引っかかった程度だったが、次第に確信に変わっていった。


「カイランくん」


「なんだ」


「当たってるんじゃない? 勘」


「俺の勘は当たると言っただろう」


 うん。

 なんだろう。

 もはや勘というより、金狼・銀狼・人狼のどれかの特異能力って言った方が相応しいんじゃなかろうか。


 いつか現れる正体不明人物の登場を根拠なく当てるって、きっとそれくらいのレベルだ。

 言い変えれば未来予知でしょ?

 いやあ、さすがボスキャラだ。持ってるスキルもスペックも半端ないわ。


 まあ、こうなってしまえばアレだな。


「時間の短縮はできたね」


「そうだな」


 幾つかの病院を回ってきたが、どうやらここが「当たり」のようだ。


 どこにも隠れるスペースがなかったので、私たちは自然と足を重くし「ただの二人連れで道を歩いているだけ」という擬態を取っている。

 一応繊維は巻いたが、たぶんいらないと思う。まあ一応ね。


「どこに泊まってるの?」


「貧民層が住んでいる廃墟の屋根裏だ。雨風がしのげる程度だが充分だな」


「近い?」


「そこそこな」


 そうか。ならばそこで待つのが良さそうだな。


「ちなみに聞くけど、心当たりはある?」


「ない。が、可能性は相当限られる」


 同感である。


 ――城下町を走っている時に気づいたが、今日はやけに隠密が多いのだ。隠れて何かしている人ね。あからさまに怪しい奴ね。


 最初の内は、なんかの事件の調査とか誰かの粗探しでもしているのかと思ってスルーしていたが。

 この病院に近づくに連れ、隠密の数が激増していた。


 というか、病院周りにはうじゃうじゃしている。

 把握しているだけで二十人はいる。

 二重構造で、病院の周りとその周辺にびっちり張り込んでいる。それこそネズミ一匹見逃さないほどの厳重包囲網が敷かれている。いや冗談でも言葉のあやでもなく。マジで。


 おかげで私とカイランが隠れるスペースがまったくない。

 そこかしこに隠密が潜んでいるので、物陰が満員なのだ。


 だから逆に、堂々と歩いている。

 変な動きを見せれば注意を引く。隠れられない以上は通行人を装う以外なかったから。


 それにしても凄腕揃いだな。

 今思いっきり十人くらいに注視されているが、そこに感情を感じない。警戒心も敵意も何もない。本当にさりげなく見張っているだけだ。

 これだけいれば、一人くらいは未熟な奴が混ざっててもいいものだが、それがない。全員優秀だ。


 即ち、可能性は更に限られるわけだ。


「二択だよね」


「ああ。国の連中か、裏社会の連中か。間違いなくどちらかだ」


 だよね。


 ――ちなみに「見られているのに気づいていない通行人」である私とカイランなだけに、会話自体はNGではない。


 むしろ連れ立って歩いているのに無言でいる方が怪しいだろう。

 もちろん会話の内容は絶対に聞かれないよう、相当声は落としているが。


 会話の内容が内容なので、さすがに聞こえてはいないだろう。

 聞こえていたら、すでに隠密たちが私たちの対処に動いているだろうから。


「私たちと同じ目的じゃないよね?」


「天使を捕まえる方向か。可能性は薄いな」


 うん。ピンポイントでこの病院にだけ張り込んでいるのは、「天使がこの病院に来る」ってことがわかっているからだ。


 私たち同様に天使を確保するのが目的ではなく、むしろ逆だろうな。


 天使を守るために隠密が張り込んでいるのだ。


 となれば、自ずと答えは見えてくるな。


「国の人たちだね」


「間違いないだろう。そもそも裏社会の連中は個々の能力は高くとも、協調性がないからな。大多数が参加する仕事は好まん」


 ほう、なるほど。


「ついでに言うと、各自の練度が高すぎる?」


「ああ。裏の連中なら寄せ集めになるからな。どうしても実力がばらつく」


 しかしこいつらは全員が同じくらいできる、と。

 カイランも私と同じ読みをしていたようだ。


 そう、だからカイランの勘が当たったと確信できるのだ。


 今日、この暗い夜に、天使2号はきっと現れる。


「……ただ、疑問が残るというか、やってしまっていいものか。まさかこの段階で迷うことになるとはな」


 それも同感だわー。





 どうやら「ただの通行人」を貫けたようだ。

 何事もなく病院を離れ、貧民層……まあスラム的な場所に差し掛かったところで、尾行していた隠密二人が引き返していった。


「こっちだ」


 カイランは奥の方へと私を誘う。


 ふうん……平和な国でも、こういう場所もあるんだなぁ。やせ細った人たちが焚き火を囲んだり雑魚寝したりしている。

 でも、死の臭いがしないだけ、やっぱり平和なんだな。その辺に死体が転がってたりはしていない。ここの人たちは死なない程度には国の支援があるのだろう。


 あと、子供がいないのは、いいね。

 大人たちはある程度納得してここにいる輩も多いはず。人生に失敗したとか立ち直れないほどショックなことがあったとか。自分で望んでここにいる人はきっといる。


 でも、子供は違うからね。

 大人のせいで振り回されるからね。

 腹を空かせてボロをまとって死んだように生きている子供を見ると、かなり胸に来る。腹も立つ。


「ここには子供はいないの?」


「孤児院があるからな。一応見てきたが、貧乏な家庭より裕福そうだったぞ」


 あら。それはそれは。

 そうか。カイランが天使をキルフェコルトに渡してもいいと判断した理由は、この辺にもありそうだね。


「この国は悪くない。余計に俺たちの居場所はないわけだ」


 そうだねぇ。盗賊専門の盗賊なんて必要ないだろうねぇ。


 少々入り組んだ細い道を行き、ドアがない小さな廃屋に踏み込む。

 軋む階段を上ったそこが、カイランの隠れ家だった。


 といっても狭い屋根裏部屋で、ベッド代わりのマットがある程度のものだった。ランプもないので相当暗いが、夜目が利く私とカイランには関係ない。

 埃っぽくないしクモの巣が張っているというわけでもないので、掃除くらいはしているのかな。


「よっこいしょっと。あーやれやれ」


 とりあえず床に座る。


 普段はネズミの姿なので、なんか人型でいると気が張るというか、なんか疲れるなぁ。やっぱりこっちは仮の姿ってことなのかもね。


「年寄り臭いな」


「それでいいよ。寝て過ごせれば言うことないよ」


 座るだけでは飽き足らず、涅槃のポーズに移行する。

 あーこのまま寝たいなー。

 予定のままなら今頃はクローナと寝ていて明日に備えていたはずなのになー。


「おまえはどう思う?」


 マットに腰を下ろしたカイランは、さっき自分で言った通り、迷いが生じたようだ。

 まあ私もなんだけどね。


「国の隠密が動いている。しかもあの数。その辺を考えると、天使の正体が見えてくるというか……ずばり確定?」


「確定かどうかは判断できないが、どう考えても絞り込む的が限られる」


 うん。そうだよね。


「王族じゃない?」


「俺もそう思う」


 うん、そう考えた方がしっくり来るだろう。


 天使2号は、この国の王族。

 あれだけの隠密がボディガードとして動員される以上、そう考えた方がよっぽど自然だろう。


 そして、だからカイランは迷った。


「王族を王族に突き出すって、なんつーか、かなり政治的というか政略的というか、面倒臭いことになりそうだよねー」


 カイランに天使捕獲を依頼したのはキルフェコルト。

 この国の第一王子だ。


 そして捕獲するべき天使は、恐らくこの国の王族。

 長兄に黙ってこんなことをしている奴だ。


 事実だけ並べても、だいぶお家騒動のにおいがするなぁ。


「どう思う? 俺は一度キルフェコルトに確認した方が無難だと思うが」


「天使の正体は王族かもよって? 別にいいんじゃない?」


「なぜだ?」


「カイランは天使を捕まえるように頼まれただけでしょ? 結果的に天使が王族かもってだけの話じゃん。やることは変わらないと思うんだけど」


「つまり政治的な思惑や思想は無視していいと?」


「それこそカイランが考えることじゃないでしょ。この国の王族を信じなさいよ。悪いようにはならないって」


 むしろアレだ。

 私もちょっと迷ったが、こう考えると好都合だと思う。


「それより、あんな厳重体勢であんなことしてたら、それこそ天使の行動を喧伝するようなもんだよ。裏の連中に感付かれる前にやめさせる意味も込めて、一度確保はするべきだと思うよ」


 それにだ。


「私とカイランくんなら、隠密たちを殺さずに天使を確保できる。向こうは殺す気で来るかもしれないけど。でも問題ないでしょ?」


「……なるほどな。考え方次第か」


 そういうことだ。

 きっとカイランは、王族同士の揉め事で内乱とかクーデターとか起こる危険を想像したんだろう。

 天使活動は実績作りと人気取りで、第一王子キルフェコルトから王位継承権を奪い取る足がかりではないか、と。

 私もちょっと考えた。だから迷った。


 でも、大丈夫だ。

 ゲームでも知ってるし、盗み聞きと又聞きオンリーだがキルフェコルトの性格も知っている。


 あいつはカイランくん以上に甘いから、そんなことは起こらないよ。


「それより例の技術を教えてくださいよ」


「天使が来るまであまり猶予がない気がするが、約束だからな」


 おう、よろしくね。






 カイランの危惧した通り、時間がなかった。

 訓練を始めてすぐに、天使が――というか私の罠に引っかかった者がいたので、急いで出動する。


 とりあえず理論と理屈だけは教わったので、あとは一人で訓練することにしよう。


「私は左回りで行くから」


「では俺は右からだな。隠密は目立たないよう寝かせろ。殺すなよ」


「それ私のセリフじゃね?」


 などと真っ当なことを言う私の返答を聞く前に、カイランはさっさと行ってしまっていた。何この放置プレイ。帰るぞ。


 私も行くか。

 なんだかんだ言っても、天使2号の正体も気になるし。







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