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41.平凡なる超えし者、呼び出される……





 伊達に読書ばかりしてきたわけじゃない。

 この国の地形や街や村などの配置は完璧に憶えた。マップは頭の中にできている。


 その中にある、カナーヴァの森。

 とてつもなく広大な森で、未だ最深部に到達した者はいないと言われている場所である。

 ただ、深部にさえ行かなければ安全性は高いらしく、なりたて冒険者には丁度いい初心者用の冒険フィールドとして有名である。

 この辺はゲームと一緒だね。


 で、今回私は「大地の竜(ガイアドラゴン)」に会うべく、そのカナーヴァの森の最深部を目指すことになる。


 行く場所が森である以上、そこは私のフィールドと言える。

 最深部に行くだけなら、そんなに時間も苦労も掛からないだろう。

 一番最初に冒険に出た時のように、モンスターを吸収しながら奥へ行くって感じでいいと思う。


 問題のドラゴンについては、向こうに着いてから結論を出そう。

 相手の出方もあるし、本当にもしも、万が一にも、私がドラゴンに勝てないって可能性もあるかもしれないからね。まあないとは思うけど。


 さて、そうと決まれば早速行動を……と思うのだが、出発は明後日の朝にしよう。


 明日は例の、アクロディリアのお礼の食事がある。気になる会話も出そうだし、それに出席する。

 その翌朝、また冒険者にまぎれて連れて行ってもらうことにする。

 食事イベントの後に走って行くのも考えたが、残念なことに、走って行くのと一晩寝てから転送するの、到着時間自体がそう変わらないんだよね。

 直接行くにはちょっと遠いから。


 それにしてもドラゴンかー。

 私の知っているドラゴンは、強さをとっても戦いにくさをとってもとんでもなく面倒な相手なんだけど、この世界のドラゴンはどうなのかなー。


 「大地の竜(ガイアドラゴン)」は、地竜種最強のドラゴンだ。

 飛べないドラゴンだね。

 しかし飛べないことを差し引いても余りあるほどの巨体で、大きさだけなら全竜種ナンバーワンである。

 ……ってのが、本で読んだ限りの情報だ。


 ゲーム知識はあんまり当てになんないかな。

 現実となれば、数値でやり取りなんてしてくれないから。


 体格差、体重差、固体別の特殊能力と、ドラゴンにとっては身じろぎ程度でも人間には一撃致死の攻撃になってしまう。

 少しオーバーに言うなら、ゴジ○と剣で戦うくらい無茶だと思うよ。本当にそれくらいの存在だから。

 この世界の人間が使える魔法も、ドラゴンに通用するほど万能じゃないだろうし。


 そんなのとアルカとかフェンリーとかが戦うとか、考えたくないなぁ。

 ゲームではわりと普通に勝てる相手だけど、リアルだと本当に、勝負にさえならないだろうし。……そうでもないのかなぁ?


 まあ、いいか。

 私が知っているドラゴンと、この世界のドラゴンは違うかもしれない、実際会ってみないとなんとも言えないし。


 方針は決まったので、あとは寝て過ごすか。

 もしかしたらあるかもしれないドラゴン戦に備えて、今のうちに英気を養っておこう。


 ――なんて予定を立ててはみたが、予想外の出来事が起こり、この予定はちょっと狂うことになる。





 翌日の晩までだらだら過ごし、楽しみにしていた「アクロディリアのお礼の食事」の準備が整った。

 空の彼方が少しだけ赤い昼と夜の境に、呼ばれた先は調理実習室だった。


 準備してあるものを見て、恐らく、私だけがピンと来ていた。ちなみに今回もクローナのエプロンの刺繍として参加している。


 なるほど。

 お兄ちゃん、そう来たか。そういやそういうのも練習してたもんねぇ。


「――なかなか変わった趣向だな」


「――いくら殿下が王子らしくなくとも、それでも一国の王子。もてなす以上、最低限の工夫はしますわ」


 向かいに座り、興味深そうにテーブルを見るキルフェコルトに対し。

 アクロディリアにしては、さわやかさを感じるサラリとしたイヤミを放つ兄アクロは、立ったままでエプロン姿である。


「――ほう? ならば最低限の工夫で何を出してくれるか、一応楽しみにしておこうか」


 ちなみにキルフェコルト、このイベントをかなり楽しみにしてましたよ。昼過ぎからそわそわしてたし。まだあの女の使いは来ないのか、とかぼやいてたし。


「――まず飲み物をどうぞ。ワインやエール、東洋のお酒も用意してあります。最初は東洋のお酒で、それからエールがお勧めです」


 そんな兄アクロの声を聞き、控えていたレンが飲み物を用意する。

 ちなみに座っている――食事をするのは、キルフェコルトと並んで座っているクローナのみ。

 そして兄アクロとレンがホスト役である。


 これは、アクロディリアがお礼として招いている食事だと、強調するためだろう。


「――では、始めましょうか」


 小さな鍋に満たした黄金色の澄んだ油。

 旬の魚介と野菜を並べたザルとボウル。

 そして、串。


 お兄ちゃんが今夜のもてなし料理として選んだのは、てんぷらだった。

 目の前でお兄ちゃん自らが揚げ、キルフェコルトとクローナに揚げたてを食べてもらうのだ。


「――コースは決まっていますが、いつでもお好みのものを揚げますので、気軽に言ってくださいね。ではまず、ナタリキノコを――」


 穏やかで大人っぽく。

 歌う油と踊る素材だけが静かに主張するという、参加者は全員十代なのに、十代にしては落ち着いた時間が過ぎていく。


 ……あぁ……お兄ちゃん、これはだいぶ来るね。来るよ。日本人の心をくすぐるというか、結構ダイレクトに響くよ。


 どんなものを使ってるのかはわからないけど、きっと上質であろう油の匂いもそうだし、薄くまとった衣のサクッとした食感も聞こえるし。天つゆも作ってるし、シンプルな塩もいいよね。


「――うまいな。シンプルなものだけに似た料理は食べたこともあるが、目の前で調理されてすぐに給されるというのは初めてだ。面白いな」


 一通りてんぷら料理を楽しんだ後、王子様のお褒めの言葉があった。クローナはコースにあった餡かけ湯豆腐 (らしきもの)が非常に気に入ったっぽい。


 よかったね、お兄ちゃん。選んだ料理は成功だね。

 私にも揚げてくれ。……揚げてくれよー。食べたいよー。かぼちゃを揚げてくれー。





 私のなけなしの食欲を騒ぎ立てるメニューが披露されている、その時だった。


 ――あ。呼んでる。


 カイランに渡した空耳草の種が砕かれる感覚が伝わってきた。

 どうやら向こうで何かトラブルがあったらしい。まあそもそも、カイランが今どこで何をしているのかを知らないのだが。


 いや、今どこで、はわかった。


 奴は王都にいる。

 そして、何かあったのか、私を呼んでいる。


 ……うーん。

 このまま指をくわえててんぷらを見ているのもつらいし、大した話もしないし、抜け出して行ってくるか。


 つか、ついでになんか食ってこよう。

 あんまり食欲がなくても、これはさすがにつらい。







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