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あんぶね橋。

危ない橋。

この世界の2036年、アオモリの風景は、いつか読んだ小説のそれだった。

津軽フジヤマは遮られる物がなく、どっしりとした威厳を持ってそこに鎮座していた。

確か、俺の記憶ではこの山は乱立する高層ビルに埋れて、ひっそり息をしている様で、殆ど風格もクソも無かった筈だ。


そして延々続く、この青々した田園風景も、俺の知るアオモリではすっかりコンクリートに駆逐されて何処に行っても見れないものになっている筈だ。

筈だ、というのは、俺がそういう風光明媚に興味関心の矛先が向かない為だ。

他人に綺麗な風景だ、と言われればそうなんだと思うが、自分から何が綺麗だとか、ゆかしいとかいう感情は湧かない。


科学技術急速発展の弊害が、こんなちっぽけな人間にまで表れているあたり、きっとあの嘘のアオモリは並々でない社会になりつつあるのだろう。



「トマト君、隠れて! 」

「うおう⁉︎ 」


何故か草むらに隠れるストガさんに、手を引かれ俺も屈んだ。

草陰から周囲の気配を探ると、微かに足音らしき音が近づいてきていた。


「ストガさん、何? 」

「今、この世界のあなたをよく知る人が来ます」

「え? 」


よく凝らした目に飛び込んできたのは、茶髪の小柄な女子だった。


「めしあさん…?」


トイプードルを彷彿とさせるような、柔らかな茶髪。

ちょこん、という擬音がどうしようもなく似合う、小柄な体躯。

夢見がちな桃色の瞳には、紛れもない悲しみが溶かしこまれていた。


「ちょっと、ストガさん……どういうこと? 」

「世界の交換が起こってしまった後のこの世界では、トマト君は行方不明のまま帰ってないことになっています」


俺が、行方不明?


「あなたは、この場所で世界の交換に巻き込まれてしまったんです」

「世界の交換って……」


聞きたいことが喉の辺りで渋滞を起こしていたが、俺は最後まで言葉を紡げなかった。


「美玲くん、私、帰って来るの待ってるから」


茂みの向こうのめしあさんが、泣きながら桜の木の下に花を手向けたからだ。


美玲って、本当に俺のことを言っているのか?

はらはらと涙を流すめしあさんを見て、胸が押される様な気持ちではあったのに、自分のことだとは思えなかった。

だって、まるで、スクリーンの向こうの悲劇のようで。



めしあさんからストガさんに目線を移すと、何故か彼女は物憂げな目で、俺を見つめていた。

俺はその眼差しに、好奇心が風前の灯の様に揺らぎ出すのを感じた。

が、しかし。

そこは流石俺氏。役に立たない好奇心が優勢!



「この世界のこと、もっと知りたい」




俺は不安と期待がない交ぜになった胸を抱えて、踵を返して歩き始めたストガさんがつけた足跡を、息を潜め潜め辿った。


めしあさんの涙で湿った春風が、陰鬱に俺の頬を撫でた………







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