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かててー。

仲間に入れてください。


海老やウニの載った海鮮丼に舌鼓を打った後、ぼんやりと海を見た。

強風に髪を嬲られるのにも、慣れてきた。

オジサンは缶コーヒー、俺はココアを飲みながら暖をとった。春といえども、まだ風が湿って冷たい。


「少年、君には大切なひとはいるかい?」


何の前触れもなく、オジサンはそう聞いてきた。

暫くは首を傾げていたものの、彼の瞳に一抹の悲しみが溶かし込まれているのが見えると、何故か、答えなければ という気持ちになった。


「いるよ」

「それは、女の子かい?」


俺は不思議と言葉に詰まった。

いや、本当は何も不思議じゃない。

頭の中には、良川五月とストガさんが浮かんでいるのだから。


「分かりません。

どっちを、俺は大事に思ってんのか」

「選ばないといけないのか?」

「……はい」

「難儀だね」



そう言って、オジサンは缶コーヒーに口を付けた。

鋭い鷲鼻の先が、ほんのり赤く染まっていた。


「海で親と恋人が溺れているとします。

俺の乗っているボートはあと一人しか乗れません。

……オジサンだったら、どっちを助けます?」

「そりゃあ、親だろう。

恋人はまたできるけど、親は一度きりなんだから」

「でも、彼女は世界に一人しかいないんです」

「ぞっこん なんだね」


俺は頬が熱を帯びるのを感じた。

そんな時代錯誤な言い方をされると、何故か恥ずかしい。

今の言葉みたいな気取ったところがないせいだ。直球過ぎて、恥ずかしい。


「若いって良いなぁ。

順応性も高いし、勢いがある。

てっきり今の子たちには情熱がないのかと思っていたが、君は違うらしいな。

ドライな様で、随分アツイものを持っているじゃないか」

「そったこと……」

「流石、小山内美玲くんだ」



口から、間抜けな音が出た。

オジサンはそんな俺を馬鹿にする様に見ながら、ポケットから赤いサングラスを取り出し、俺の視線を遮断した。



「……あっ」

「漸く気が付いたかね?

意外と気が付かれないものだな」

「ソフィスト……!」

「いや、楽しかったよ美玲少年。

騙す様な真似をして、すまなかったね」



ソフィストのオジサンは薄い唇を横に引き、気味の悪い笑い声を零した。



「なに、今日は小山内美玲がどんな人物なのかを知りたかっただけだ。良川五月の捕縛が目的じゃないよ」

「俺を騙して、どんな利益があんだよ」

「君はどっち側につくのかと思ってね。

さっきの質問、君が恋人を助けると言ったら私は君を殺すつもりだったのさ」


ソフィストオジサンは缶コーヒーを飲み干し、ゴミ箱に缶を投げ入れた。俺も手の中で冷たくなったココアの存在を思い出して、急いで飲み下した。


オジサンは白いライダースーツの襟を正して、「さぁ、帰ろう」と笑い掛けた。



「オジサン」

「なんだい」

「オジサンは対国家なんだよな?」

「そうだよ」

「じゃあ」



俺はオジサンと向き合った。



「俺はオジサン側だよ」




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