皮びろびろってらはんでろー。
皮がびろびろってなってるので。
俺と良川の出会いは、それはそれは最悪のものだったらしい。
いや、最悪って言葉も、本当は不謹慎だと思う。
父さんが死んだのは良川のせいらしいからだ。
詳しくは知らない。
根も葉もない噂だと思う。
確かめることは、できなかったけれど。
まだ道のりは長いし、良川が良川たる所以を話そう。ちょっとだけな。
良川が良川家の養子になったのは、何かの事件で家族を亡くしたのが契機らしい。
元々は、平凡だけど優しい両親と双子の弟と、四人で暮らしていたそうだ。
詳しくは知らない。
いや、良川は俺に言ったのかもしれないが、そうだとしても10歳のあの日以前の話。
今更問いただそうとは、思わない。
俺たちは無意味に干渉し合わずに、今まで一緒に居た。
何が地雷になるか、分からない。
俺だっておっかなびっくりだけども、良川だっておっかなびっくりだろうと思う。
ともかく、何かの事件(俺の父親がそれに巻き込まれて死んだ?)がキッカケで、遠縁だった良川家に引き取られた良川だったが、父親とソリが合わず、意外とすぐ放り出されたとか。
良川曰く、放り出された訳では無くて自分から家を出たんだと。どっちが本当かなんてどうでもいい。いや、本当はどうでも良くなんかねえけど。
聞けないだろ、そんな話。
受け止めるだけの器がないんだから。
「トマト君は、良川五月をどう思ってますか」
ストガさんはくるりと振り向いて、そう言った。
その表情がまた何とも言えず悲しそうで、俺はしばらく言葉を忘れた。
「もしトマト君が良川五月を慕っているなら、聞かない方が良いかもしれない話があります」
「慕ってる⁈ 」
ちょっと冗談キツイって。
そう笑い飛ばそうとしたのに、ストガさんは真面目な顔のまま、俺を見ていた。
「……来てください」
ストガさんの、あの非の打ち所がない手が俺の腕をとり、彼女は走り出した。
「うおおおおぉ……」
時速何キロだよ。
顔の皮がびろびろってなってら。
「トマト君、ここです」
「ひょっ……ひょっとまっへ、皮が……もほるはな……」
「何語ですか? ていうか、顔、ブルドッグみたいになってますよ」
「誰のせいだよ⁈ 」
戻った戻った。
頬の肉を揉み、内側に押し込むように押し込んだら、某サンマ傷のモグリ医者の妻みたいな顔になってることをストガさんに指摘された。
だから、誰のせいだよって。
言おうとして顔を上げると、ストガさんは明後日の方角を向いて、神妙な面持ちをしていた。
「どこ見でんの? 」
彼女の瞳が目指す先に自分の目線を添えると、卒塔婆が見えた。
よくよく目を凝らすと、卒塔婆の近くに灰色の石が乱立しているのが分かった。
もしかして……。
「墓? 」
「あそこに、この世界の良川五月が眠っています」
「……は」
ストガさんの唇が、衝撃的な言葉を紡ぎだした。
「あなたが、この世界の良川五月を殺したんです」