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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第四章 次の任務へ

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89.お祭り騒ぎ

 「なんと! たった一晩で三頭もの魔獣を……!」

 隊長が村長に戦果を伝えると、村はお祭り騒ぎになった。


 赤い盾小隊は、東の湿地に巣食う三界の魔物を倒し、前日の夕方に帰還していた。

 そちらは魔剣ポリリーザ・リンデニーの予想通り、(けが)れか死者の怨念を苗床(なえどこ)に生じた、まだ肉体を持たない三界の魔物だった。


 「帰還できたことは幸いですが、命を大切にするのですよ」

 「あんまり無理しないようにね」

 三つ首山羊の王女(トリ・ガローフ・カザー)とトリアラームルス副隊長に見舞われ、ムグラーとワレンティナが恐縮する。


 烈霜(れっそう)騎士団のソール隊長と、近衛騎士のトリアラームルス副隊長が相談し、今後の予定を決めた。


 翌日の昼、宴の席が設けられた。

 広場の中央に火を(おこ)し、(そば)に出した食卓で、料理の腕自慢たちが仕度に精を出している。


 木陰に広げた敷物の上には、クッションが並べられている。

 主賓席の王女の周囲を近衛騎士が固め、緑の手袋小隊は、その隣の敷物に腰を降ろした。

 ムグラーもナイヴィスに支えられて座り、木にもたれる。


 村長の長い挨拶を見越して、先に冷たい料理を出し、温かい料理を作りながら、話の終わりを待つ。

 「……この村もまた、以前の活気を取り戻す事が出来ます。ありがとうございました」

 深いお辞儀で締めくくられると、広場に拍手が起こった。


 「この善き日と皆の無事を祝い、この幸せが幾久しく続きますよう、願って止みません。さぁ、折角のご馳走、冷めないうちにいただきましょう」

 三つ首山羊の王女(トリ・ガローフ・カザー)の手短な挨拶に、笑顔が弾け、より盛大な拍手が沸く。


 子供たちがご馳走に飛び付いた。

 大人たちは、村の脅威が取り除かれたことを祝い、口々に騎士たちを(ねぎら)う。

 一通りの挨拶を終え村人たちが、皿を手に思い思いの場所へ腰を降ろす。


 ワレンティナが、トルストローグと競い合うように渡された料理を頬張る。

 二人の豪快な食べっぷりに、おかみさん達が、豪気な笑顔で料理を追加した。村の男たちも、負けじと食べる。


 ムグラーの許へ、いっぱい食べて早く元気になってね、と子供たちがどんどん料理を持ってくる。笑顔で受け取り、次々と皿を空ける。


 七つそこそこの女の子が、両手でそっと陶器の茶器を差し出す。

 ナイヴィスが礼を言って受け取ると、女の子ははにかんで、母の許へ駆け戻った。


 くれたのは、花弁(はなびら)を煮出して作った冷たいお茶だ。

 魔法文明圏での宴には、様々なお茶が供される。

 爽やかな酸味が、心地よく喉を通った。


 母の背に隠れ、こちらを窺っていた女の子が、母と喜びの咲き(こぼ)れる顔を見合わせる。


 〈ね、この笑顔の為に、頑張ってよかったって思うでしょ〉

 ……えぇ、まぁ……そうですけど……


 ナイヴィスの思考は、何とも歯切れが悪い。

 村人の喜ぶ顔は嬉しい。だが、自分は大して役に立てなかった。罪悪感が心を占め、胸を絞めつける。何も知らない村人からの英雄扱いが、ひたすら居心地悪い。


 〈英雄「扱い」が嫌なら、ホントに英雄になればいいのよ〉

 ……いえ、それはちょっと……


 「あんた、やっぱり騎士様じゃ。人は見た目によらんもんだ。見直したわい」

 老人が満面の笑みで、切り分けた肉を山盛りにした皿を差し出す。ナイヴィスは両手で受け取り、ぎこちない笑顔を返した。


 正直な気持ち、今でも辞めたい。

 辞表は既に書いてある。兼務の間、懐に忍ばせて城に通ったが、提出できないまま帰宅し、溜め息と共に引出しに仕舞った。


 烈霜騎士団の詰所へ、それを持って行く勇気はなかった。

 なんの取り柄もないナイヴィスに、あんなに大勢の他人が、喜ぶ顔を見せてくれたのは初めてだった。

 彼らの笑顔を曇らせることが忍びなく、また、ナイヴィス自身も、彼らを失望させることが怖かった。


 ナイヴィスには到底、無理なことを期待されているとわかっていても、言い出せなかった。

 さりとて、馘首(クビ)になる為に魔剣を使って悪事を働くような度胸も、周囲を顧みない我の強さも持ち合わせていない。


 全て見越した上でなら、退魔の魂となった女騎士ポリリーザ・リンデニーの、人を見る目は、かなりのものだ。


 相変わらず、ナイヴィスには女騎士が何を考えているのか読めない。


 〈私と一緒なら、貧弱な坊やでも英雄になれるのよ〉

 ……いえ、それはちょっと……


 折角の厚意を無碍(むげ)にする訳にもゆかず、少しずつ肉を口へ運ぶ。

 食べながらでも、魔剣との意思疎通に支障はない。


 老人に渡されたのは、七面鳥の肉に塩を利かせ、香草をまぶして焼き上げた料理だった。

 ナイヴィスが初めて口にする味だ。


 弾力のある肉を噛み切ると、肉汁がじゅわりと口に溢れた。皮についた焦げ目の香ばしさと、香草の爽やかな風味が、脂っこさを緩和して食べやすい。


 三人の食べっぷりには納得したが、ナイヴィスには、あの量を平らげられる気がしなかった。

 長く武官をしていると、食事の量や内容も変わるのだろうか。

 ナイヴィスは、そんなことをぼんやり考えながら、人々の笑顔を眺めた。


 ムグラーの大事を取り、村へ戻った当日も含めて、三日休んだ。

 日程の残りは、雑妖と小さな魔獣の退治に明けくれ、誰もそれ以上、負傷することなく終えられた。


 盛大な見送りを受け、一行は村を後にした。

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用語は、大体ここで説明しています。

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