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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第四章 次の任務へ

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75.部屋飼い猫

 夏の日は長いとは言え、流石に傾いてきた。

 (からす)(ねぐら)へ帰り、泉の上を通過する。鳴く虫の種類も変わった。


 日が沈んでから二人を起こすように言われたが、ナイヴィスは、このまま日が沈まなければいいのに、と赤く染まりつつある空を見上げた。


 「日がある内は、魔物も弱っている。肩の力を抜いて待て」

 「は、はいッ」

 緊張でガチガチになったまま答える。


 〈あなたって、ずっと部屋の中で飼われてた猫みたいね〉

 ……どう言う意味ですか?


 〈そう言う猫を外に放すとね、あなたみたいにガチガチに固まって、一歩も動けなくなったり、飼い主の服の中に逃げ込んで、爪立ててしがみついたりするの〉


 女騎士の声は、やけに楽しそうで、笑いを含んでいる。

 ナイヴィスは面白くなかった。


 〈耳を伏せてガタガタ震えて、何をそんなに怖がるんだと思う?〉

 ……知りませんよ。私は猫じゃありませんから。


 〈屋根がないことが、怖いのよ〉


 思わず、天を仰いだ。

 泉の周辺は草地で、頭上には枝葉がない。茜色に染まる空から、明るさが失われつつある。


 〈でもね、肉球に脂汗をかいていた猫でも、怖がりながら周囲を探検して、その内に慣れて、遊び始めるのよ〉


 ナイヴィスは、どう反応していいかわからず、視線を下げた。王女の【空の守り(うた)】の効果で、薄暗い森の中にも雑妖の姿はない。


 〈あなただって、さっきこんな所でグースカ寝てたじゃない〉

 ……疲れてたんですよ。

 〈そうかしら? あなたって、結構、順応性高いみたいよ?〉


 ソール隊長が、今夜と明日の天気を聞いた。

 ナイヴィスは泉の水を使って天気を読んだ。両日晴れ。夕立もない。


 「うむ。ありがとう。ならば、ここはそのまま野営地として使えるな」

 「上手い具合にここへ来てくれると、戦いやすくていいんですけどね」

 ムグラーが森の奥を見詰めて言った。【索敵】の眼でも、まだ、魔獣の姿を捉えられないらしい。


 隊長が、来なくていいと念じているナイヴィスに、穏やかな声で言う。

 「ナイヴィスは無理せず、落ち着いて【盾】を展開し、まずは生き残ることを優先しろ」

 「は、はい。勿論です」


 ……でも、リーザ様が攻撃を強行しちゃうのは、如何(いかん)ともし難く……

 〈何よ、私が悪いって言うの?〉


 ……いえ、決してそのような……

 〈あなたはまだ、攻撃すべき時と、防禦に徹すべき時の見極めができないから、私が判断してあげてるの。逆らったら死ぬわよ?〉


 女騎士の命令に逆らえないことは、カボチャ畑でも先日の林でも、よくわかった。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
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野茨の血族」 その後の護衛任務の話。
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