56.鼻つまみ者
そいつはね、この村に古くから住んでる一族の長男なんですよ。
去年の春から行方知れずになってたんです。
そいつが居なくなった時、もうよぼよぼの母親が哀れっぽく、みんなに探すように頼んで回ったんですけどね、誰も首を縦に振らなかったんです。
勿論、ウチも断りましたよ。
行方知れずになった理由が理由ですからね。
どこから言ったもんか……そうさねぇ……そいつの子供時代から……いや、もうちょい後からでいいやね。
そいつは十代半ばくらいから、聞かれもしないのに、女の好みを言うようになったんですよ。
「女は若い方がいい。常命人種はすぐ劣化するから論外。長命人種こそ至高」
そんなことを憚りもなく言うもんだから、みんなに白い目で見られてたんですよ。
なんせ、この村には長命人種は居なくて、そいつも含めてみんな、毎年、年取る常命人種なんですから。
そりゃ、何百年も若いままで過ごせて、人によっちゃ千年近く生きるなんて、羨ましく思うこともなくはないんですけど、長命人種には長命人種の悩みがあるって言いますからね。いいことばっかりでもないんでしょう。
そいつには姉と妹も居ましたけど、勿論、常命人種ですよ。
姉妹からしょっちゅう窘められてましたけどね、聞く耳持っちゃいませんでしたよ。
「ババアの僻みだ」
「女の醜い嫉妬だ」
「若い女が羨ましくて言うんだろう」
……なんて憎まれ口ばっかり叩くもんだから、仕舞いに姉妹からも愛想尽かされてましたね。
当時健在だった祖父も父親も、何も言わなかったんですよ。あいつと同じ考えだったんでしょうかね?
姉妹はずっと遠くの村に嫁いで、村に全く寄りつかなくなったんで、今、元気でいるかどうかも……
親戚連中は姉妹の婚礼の後、その一家との付き合いを減らしましたよ。とばっちりが嫌で。
そんなことになっても、そいつの家族は、何も言わなかったんですよ。
「ふむ……一家を上げて、倫理観が希薄だったのだろうか」
「この親にしてこの子あり……って奴ですか?」
「そうなんでしょうねぇ……姉妹は真っ当に育ったのにねぇ……」
おかみさんは、隊長とトルストローグに頷いて話を続けた。
それから、成人の儀をする年頃も過ぎて、そいつと同年代の若いコたちは、恋仲になって次々婚礼が挙げられたんですよ。
そいつは、村の若いコたちを祝福するどころか、嘲り笑ってましたね。
「あんな、すぐ劣化するのとくっついて」
そいつと同年代の若夫婦に子供が産まれても、そいつは幼馴染たちを祝福するなんてことは、とうとう、一回もなかったんですよ。
母親になったコたちに、酷い侮辱の言葉を投げつけて、卑猥なことばっかり言うもんだから、一人、また一人、一応付き合ってくれてた友達も失くしてましたね。




