55.平和な朝食
目が覚める。
知らない部屋だ。ぼんやりした頭で見回す。
ナイヴィス一人で、知らないベッドに寝かされていた。
身を起こすと、左腰に固い物が触れた。布団をめくる。剣の柄があった。鞘も刃もない。
「リーザ様……」
〈やっと起きた。鞘はあっちの椅子の上〉
言われた場所を見る。粗末な机と椅子があった。
早朝らしい。窓の外は明るい。鶏と雀が鳴いている。
ベッドから立つ。
鎧も、その下の服も所々破れているが、汚れはない。身体にも痛みはなかった。
〈傷は、あなたと従妹ちゃんが癒したの、覚えてる?〉
戦うか、癒すか選択を迫られ、癒すことを選んだ。
トルストローグが戻り、救援に駆け付けたトリアラームルスたちが戦った。
〈他のみんなも無事。従妹ちゃんは朝ごはん。あなた、呼ばれても起きなかったのよ〉
魔剣は、ナイヴィスの知りたいことを先回りして説明する。
意識がはっきりしてきた。ここは、宿舎として割り当てられた村人の家の一室だ。
耳を澄ますと、畑へ出る村人の話声が聞こえる。平和な朝だった。
ナイヴィスはゆっくり歩いた。少しふらつくが、問題なさそうだ。
鞘を付け、背筋を伸ばし、部屋を出た。
手洗いと洗顔を済ませると、さらに意識が鮮明になる。
〈昨日のお昼前から何も食べてないの。おなか空いてる?〉
一日近く眠っていたことになるが、空腹感はなかった。
〈他のみんなは、あの後、村に戻ってお昼も食べてたのよ。あなたは消耗が激しくて、起きられなかったのね〉
……リーザ様が、身体を乗っ取ったからですね?
〈そうよ。他の人は、私を受け容れることもできないけどね〉
あっさり肯定され、ナイヴィスは脱力した。
台所兼食堂へ行くと、緑の手袋小隊と、この家のおかみさんが話をしていた。
「あ、お兄ちゃん」
「もう大丈夫なのか?」
ワレンティナとソール隊長が腰を浮かす。
「あ、はい。お陰様で……ご心配をお掛け致しまして恐れ入ります」
「助かったのは俺たちの方だ。的確な状況判断、流石だよなぁ」
トルストローグが感慨深げに言う。
朝食は済んでおり、食卓はすっかり片付いていた。
おかみさんがナイヴィスの朝食を用意する。
「少し早いが、今日は休みだ。まぁ、ゆっくりしてろ」
隊長が食後のお茶を手に言う。
一仕事終えたおかみさんも、食卓に着いて先程の話を再開した。
「あの、この村の恥になる話なんで、私が喋ったって言うのは内緒にして下さいね」
「うむ。どこにでもあることだ。我々がそれを他所の村で流布することはない」
ソール隊長が頷くと、おかみさんはホッとした顔で喋りだした。
「さっきのお話で、私、ピンと来たんですよ。そいつは、こちらの若い娘さん……あぁ、騎士様にこう言っちゃ失礼ですね、気を悪くしないでね」
「平気です。何がピンと来たんですか?」
ワレンティナが屈託なく聞く。
年配のおかみさんは、声を潜めて答えた。
「その、三界の魔物の正体……苗床になった人間です」
「お知り合いでしたか……」
隊長が目を伏せる。
おかみさんは慌てて両手を振った。
「いえいえ、お知合いなんて、上等なもんじゃありませんよ。この村の鼻つまみ者だったんですから」
おかみさんはそれを口火に、早口でまくしたてた。




