表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飛翔する燕  作者: 髙津 央
第三章 討伐の任務

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/91

53.おもいだす

 おもいだす?


 「小さい頃、一人で遊びに行って、人気(ひとけ)のない道で、三界の魔物に出遭った。人から化したばかりの個体。あなたを襲った魔物は、あなたの魔力で、肉体と幽体を吹き飛ばされたの」


 ちがうよ。それ、ぼくじゃないよ。


 「あなたは何も悪くない。人殺しなんかじゃないのよ。ご覧なさい」

 女騎士が、ナイヴィスの肩に手を置き、もう一方の手で、前を指差す。

 ナイヴィスは首を横に振り、ぎゅっと目をつぶった。


 ちがう。ぼくじゃない。やってないもん。


 「思い出してご覧なさい。あなたは王都のみんなを助けたのよ」

  ぼく、おおきくなっても、きしになんて、ならないもん。


 「今のあなたは、もう大人で【飛翔する燕】の術者よ」

 やっぱり、ぼく、きしじゃないんだよね。


 喜んで顔を上げる。

 女騎士の目は厳しかった。

 「あなたは、その強い魔力を()かして、天候を操る学派を修めたの。自然の息吹を感じて、心を静かに落ち着けて、ちゃんと魔力を制御できるようになったの」


 ほんと?


 「ホントよ。ほら、ちゃんと【飛翔する燕】の(しるし)を持ってるでしょ?」

 ナイヴィスの胸元で、銀の首飾りが、確かな重みで存在を示している。手を触れると、ひんやりとして固い。

 「ねっ? ホントだったでしょ?」


 うん。


 小さく頷く。女騎士が頷き返す。

 「そして同時に、退魔の魂を振るう魔剣使いでもあるの」


 やだ。ぼく、けんなんてつかわないもん。


 「怖いの?」

 こわいよ。


 断言して女騎士を見る。何を当たり前のことを聞くのかと首を傾げた。


 「どうして怖いの?」

 女騎士が優しい声音で聞く。他に誰も居ない。


 だって、ちがいっぱいでたもん……


 「あれはもう人間じゃないから、流れてるのは血じゃないのよ。見てご覧なさい」


 やだ。


 横を向き、目を閉じる。

 「怖いと思うのは、結果をちゃんと見届けないからよ」


 だって、こわいもん。やだもん……


 小さな拳が震える。

 問いと答えが堂々巡りする。

 女騎士は辛抱強く、幼いナイヴィスに言い聞かせる。

 「でも、騎士の私が居るから、今は怖くないでしょ?」


 暫しの沈黙。


 小さなナイヴィスは、目を()らしたまま、(かす)かに頷いた。その目から、涙が(こぼ)れ落ちる。

 「あぁ、よしよし、そんなに怖かったの」

 女騎士が、ふわりと抱きしめる。


 幼いナイヴィスは、声を上げて泣いた。

 「怖かったのね。もう大丈夫、大丈夫よ、もう怖くないのよ」

 よしよし、と女騎士がナイヴィスの小さな背を軽く叩いてあやす。


 ナイヴィスはその腕の中で、恥も外聞もなく、感情のまま泣いた。

 涙を(こら)えることを思いつきもしない。


 どのくらい泣いたのか。

 ふと、涙の理由がわからないことに気付いた。


 女騎士にしがみつき、しゃくりあげながら、考える。


 どうしてこんなに泣いたのか。


 どこか痛かったろうか。……違う。

 何か悲しかったろうか。……違う。


 誰かに叱られたろうか。……それも、違う気がする。

 ここには、自分と女騎士しか居ない。誰も怒っていない。


 幼子の頭をやさしく撫でながら、女騎士が言う。

 「もう大丈夫よ。私がついてるから」


 ほんと? ほんとに?


 「本当よ。私は、退魔の魂。生きた人間や、真っ当な生き物は斬れないのよ」

 女騎士は、ナイヴィスの両肩に手を置き、そっとその身を離す。


 「きちんと向き合ってご覧なさい。あなたの破壊の結末を」

 ナイヴィスの右手を握り、立ち上がった。そのまま前を見る。


 ナイヴィスの前、何もない筈の空間が、王都のあの細道に変わる。

 両脇の家は、【巣懸(すか)ける懸巣(カケス)】学派の【防護】の術で守られ、無事だった。

 細い石畳の道に、肉片が散らばっている。よく見ると、壁にも貼りついているが、血は一滴も流れていない。

 飛び散った肉片は、それぞれが意志を持つ生物のように動いている。


 「あれを放っておくとどうなるか、わかる?」


 えーっと……けがれやしょうきをたべて、ひともたべて、いぬもねこも、すずめもちょうちょも、おはなも、みんなたべられて……


 「そうよ。ちゃんと知ってるのね。偉いわ。あれは、何?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
【関連が強い話】
野茨の血族」 その後の護衛任務の話。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ