52.しらない人
真っ白だ。
誰かが、遠くで、何かを言っている。
まりょくのぼうはつ
ちからがつよすぎる
さんかいのまものが
このこはきけんなこ
いちぞくでいちばん
まりょくがつよいこ
さふぁいあのひかり
「サフィール・ジュバル」
女性の声が真名を呼ぶ。母ではない。
「サフィール・ジュバル」
姉ではない声が、真名を呼ぶ。
「サフィール・ジュバル・カランテ・ディスコロール。しっかりなさい」
知っている声だ。でも、顔はわからない。会ったことのない女の人。
しらないひとだ。
しらないひとに、おへんじしちゃいけないって、とうさんが……
「バカね、何言ってんの。よく知ってるでしょ? 私を忘れたの?」
呆れた声で言われ、恥ずかしくなって、俯く。
小さな足、子供の足。細くて白くて頼りない。
こんなに弱いのに、誰かを守るなんてできっこない。
自分を支えるだけで精一杯。魔剣使いなんて、無理に決まってる。
だって、怖くて、心細くて、自分の魔力も制御できないのに。
あのおじさんも雑妖も、みんな居なくなって、真っ白なのに。
だれかたすけて。
「あのおじさんはね、人間じゃなかったの。あなたは何も悪くないのよ」
女の人の声が優しく言って、ナイヴィスの頭を撫でた。
左隣に女騎士がしゃがんでいる。
生成りの厚い生地に青色の糸で、防禦の呪文がびっしり刺繍された服……騎士の鎧。
目の高さをナイヴィスに合わせる。女騎士の目は、強い意志の光が輝いていた。
つよいけど、こわくない。
「あれは、三界の魔物。過度の欲望に呑まれて、歪んだ心。歪んだ心が穢れを生んで、その膿んだ魂が、三界の魔物の瘴気に触れた……成れの果」
ムルティフローラ城の地下深くから、滲み出す瘴気。三界の眼でなければ視えない。三界の魔物の出す魂の毒。
毎年、大晦日に国を挙げて穢れを祓う。瘴気のかけらから、新たな三界の魔物を生まないように……
しってる。
何もない真っ白な空間に、ナイヴィスと女騎士が居る。
その前に細切れに千切れ飛んだ肉片が散らばっていた。
肉片は、それぞれが別個の意志を持つように、好き勝手に蠢いている。
「思い出してご覧なさい。今のあなたなら、大丈夫よ」




