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飛翔する燕  作者: 髙津 央
第三章 討伐の任務

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51.幼いあの日

 薄青い空に蝶が舞っている。

 石畳の道に沿って、ひらひら、ひらひら。

 黄色い蝶は、丁度ナイヴィスの目の高さを飛んでいた。

 ナイヴィスは蝶を追いかけた。


 どこかの庭で花が咲いているのだろう。

 王都の家々には前庭がない。

 中庭を囲んで□型に建っているので、外からでは何の花があるのかわからない。


 黄色い蝶は、誘うようにゆっくり、ひらひら、ひらひら。

 石畳の大通りから、家と家の間を通る細い道に入った。


 ナイヴィスは夢中で追いかける。

 人通りのない道をしばらく飛んで、蝶は高く舞いあがった。家の屋根を越え、中庭へ舞い降りる。


 知らない道だ。蝶を追って、随分、遠くへ来ていた。

 急に日が(かげ)り、心細くなる。

 誰も居ない細道を戻る。


 人にぶつかって転ぶ。

 「坊や、大丈夫かい?」


 大人は、大きい。

 顔はずっと上。声が高い所から降って来る。

 立ち上がっても、届かない。

 小さい自分が可笑しくて、ナイヴィスは笑いだした。


 くすくす笑いながら、大通りへ向かう。

 歩いても歩いても広い道に出られない。

 家と家の隙間には、落ち葉や埃が溜まっている。雑妖が漂い、何か話し掛けて来る。


 こわい。


 気が付くと、ナイヴィスは一人だった。ぶつかった大人も居ない。

 日の射さない隙間は、猫の子一匹通らない。鼠が居るような居ないような、よくわからない気配。怖くて振り向けない。


 「坊や、かわいいねぇ」

 知らない大人の声で顔を上げる。


 そのおじさんは、胸から上は、普通のおじさんだった。その下は薄っぺらで、ひらひら風にそよいでいる。

 狭い道いっぱいに、肉色のひらひらが広がって、通れない。


 「坊や、迷子なんだ。かわいいねぇ」

 おじさんはニヤニヤ笑いながら、ナイヴィスに手を伸ばす。指が大きくなり、捻じれながら迫る。巨大な爪には、垢が真っ黒に詰まっている。


 「いやぁああぁあぁあッ!」

 叫びと同時に目の前が真っ白になる。

 目を開けているのか閉じているのか。

 何もわからない。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
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野茨の血族」 その後の護衛任務の話。
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