16.追跡の終了
トルストローグが足音を殺して、こちらに来た。
ずんぐりとして鈍重そうな体型に見合わぬ、しなやかな身のこなしだ。一体、どんな訓練を積んだのか。
三人は中腰で先程の場所へ引き返す。
パキッ。
ナイヴィスの足下で、小枝が乾いた音を立てた。
心臓が跳ね上がり、体が硬直する。
〈いいから、早く行きなさい〉
ポリリーザ・リンデニーの言葉で、今度は弾かれたように駆けだした。
残された二人が息を飲み、後を追う。
ナイヴィスは倒木の前で立ち止まり、膝に手をついて乱れた呼吸を整える。
トルストローグが、ナイヴィスの肩に右手を置いた。
「じゃ、急いで村に戻ろう。【跳躍】は俺が唱える」
ワレンティナが頷き、トルストローグと左手を繋ぐ。
ナイヴィスが何か言う暇もなく、【跳躍】の詠唱が終わると同時に、村の入口に立っていた。
濃紺の空に一番星が瞬いている。
村の家々の窓には灯が点り、夕飯の匂いが漂っていた。
ナイヴィスは膝から力が抜け、その場にへたりこんだ。
「おい、大丈夫か?」
「……」
返事の代わりに涙が零れ落ちた。
「ちょっ……お兄ちゃん、大丈夫?」
ワレンティナが心配して、従兄の俯いた顔を覗きこむ。
ナイヴィスはそんな自分が情けなく、涙が止まらなくなった。
〈あぁもう……サフィール・ジュバル・カランテ・ディスコロール、しゃんとしなさい〉
単に気合いを入れさせる為に真名を呼んだらしい。
魔力を籠めない命令で、ナイヴィスの様子に変化はない。
ワレンティナが井戸で水を汲んで来た。術で支配された水が宙を漂い、少女騎士の後について来る。
「顔洗って、それからご飯」
「腹減ってると、ロクなこと考えんからな」




