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1 異世界にもギャルはいる



4月26日追記:

1話と2話の一部内容を修正いたしました。

交通事故の描写において、不適切な表現があると思われたためです。

不快な思いをされた方々に、深くお詫び申し上げます。


今回の修正により他の話への影響する部分は、今のところ、ございません。

他に何かあれば、随時ご報告いたします。(多分、もうないと思います!)





◇   ◇   ◇





 十六歳。

 キラキラであるべき響き。


 金髪の少女、ソルダネラは窓の外を見る。

 そこには美しい街の風景がある。


 今日は春の祝祭日だ。

 彼女は他の乙女たちと一緒に、王宮でダンスを踊ることになっている。

 だから、ひらひらする美しい衣装を着ているのだ。

 そして、普段よりも精を入れて自分を飾った。


 少女は鏡の前に立つ。

 そして、回って、変なところはないか確認する。

 腰まで届く長い金髪と衣装の裾が、さらさらと互いを擦り合う音が聞こえた。


「やば、うち、かわいすぎ」


 彼女は驚きの誇張された動作で、自分の口を隠す。


 でも実際、鏡の中の彼女は、完璧だった。

 乙女という美しい瞬きを、具現化したようだ。


「これならクルクスくんも、絶対落ちるっしょ!!」


 期待に満ちた顔で、彼女は言い切った。





 宮殿にて、春の祝祭。


 溌溂な祭りの華は、伝統的に行われる、乙女たちの踊りだ。


 美しく、輝かしい彼女たちは、熱心に踊る。

 誰もかもが、この一瞬を楽しんでいる。


「────」


 しかし、それは不穏な曇によって遮られた。


 音楽が止まり、ダンスも止まった。


 宮殿に集まった人々は、空気上に現れた黒い煙のようなものを凝視した。

 不安が広がり、どうしたら良いのかと、うろたえる。

 その中には、ソルダネラもいた。


 その煙は、微かに動いているようだ。

 まるで、ソルダネラの方へ近づいているような。


 それに気づいた時だった。


「──わああああっっ!!!」


 煙から、いきなりそんな情けない声が聞こえた。


 次の瞬間、そこから何ものかが落ちてきた。


「きゃっ」


 それはソルダネラの真正面に飛びかかり、彼女を押し倒す。


 皆が周りに集まり、心配そうな顔で何が起きたかを把握した。


「────」


 人々が見たのは、ある少年だった。


 ちょっと長い黒髪に、青いメッシュが混じっている。

 見たこともない格好をしているが、何かの制服には間違いなさそうだ。

 肌のトーンは若干黒めだが、日焼けしたわけではないようだ。

 背丈はやや高めだが、体型は細い。

 顔の線がかなり明確だが、少年らしいおさなさはちゃんと保っている。

 特徴として、左目の目尻に泣きぼくろがある。


 しかし、このはなめく春祭りとは場違いの、そんな少年だ。


 彼は瞑っていた目を開けた。

 ソルダネラを押し倒す姿勢だった。

 だから、一番先にその褐色の瞳に映るのは、金髪の少女の顔となる。


「────」


 驚いているのか、少年は目を更に大きく開いた。


 一方、倒された少女は、混乱している。

 しかし、それよりも、さっきの墜落で少年が大丈夫なのかを心配しているようだ。


「ちょっと、何?! キミ、誰? 大丈夫なの?!」


 しかし、すぐには返事しない。

 何か答えを考えているのか、少年は沈黙している。


 そして、やがて口を開けると、


「──世知せちがらいご時世に一目惚れとか、マジねぇわ……」


「えっ」


 呆気に取られて、ソルダネラは声を出した。


 だが、少年の方は、もう一度目をつむる。


 そして、眠りに落ちてしまった。





◇   ◇   ◇





 はい、皆さん、はじめまして。晴野(はれの)(ろごす)です。一般高校生やってます。


 うん、分かっている。

 多分、あなたは今、あのふざけた名前のことでツッコミを入れたいと思っているのだろう。

 こっちだって名付けた奴の親の顔が見てみてぇとは思う。

 思うけど、今は適当にスルーして欲しい。


 だって、今の俺は、超大型の不幸と直面しているんだから。

 それこそ、名前が招いた不幸の数々とは比較にもならないぐらいの、特大の奴が。


 ──俺は、交通事項にあって、死んだ。


 そして、生前の体と精神のまま、異世界へ転生したんだ。





 発端は、部活のOBたちに呼ばれて、その一人のマンションへ訪れたことだった。


 俺みたいな陰キャとはかなり違う人たちで、付き合うのはキツかった。

 けど、それだけならまだ良かった。


 しかし、彼らは酒を飲み始めて、俺にもそれを勧めたのである。


 いや、俺だって、飲むつもりなど全くなかったんだよ。

 でも、あいつらのしつこさは尋常じゃなかったんだ。

 彼らは、俺が生真面目に断る姿がとても面白かったらしい。

 断れば断るほど、彼らの誘いはもっとしつこいものになっていった。


 それで……結局、飲んだ。

 しかも、ビール一本とかでもなく、結構強いやつを混ぜたものを。

 何杯も。


 その後の記憶はぼんやりになっている。

 たぶん、初めてのお酒にすぐ酔った俺は、これはまずいと思ったのだろう。

 自分は帰ると言い残して、その場をむりやり出ようとしたんだと思う。


 俺はどうにか駐車場まで降りて、俺の愛馬に乗った。

 ほら、あるだろ?

 主婦が良く乗る、荷台が前に付けられている、そういうタイプの自転車だ。


 そんな状態で自電車に乗るだなんて、な。

 冷静に考えたら、良くない選択だと分かったはずだ。

 でも、そんな思考が出来るわけもなく。

 俺は急いで家への帰り道に出たのである。


 多分、道を迷ったりはしてなかったと思う。

 でも、周囲を良く見渡す能力がゼロになっていた。


 途中、俺はある曲がり角に近づいた。

 右へ曲がった途端、轟音と眩しい光が俺を迎えた。


 まぁ、その後は……言うまでもないだろうな。


 その次は……色々あった。

 けど、ここは一応省いておく。

 まあ、その内、話す機会はあるだろうから。





 で、なんたらかんたらで、導入部の『あれ』になったんだ。


 ……俺って正気じゃなかったよな。


 酔いは死亡直後からずっと覚めていた。

 しかし、テンションとアドレナリンだけはそのまんまだったかも知れない。

 だから、勢い任せで恥ずかしいセリフを吐いてしまったのである。

 しかも、初めて見る異世界人のギャルに、何百人の人だかりの前で。


 ……。


 ああ、死にてぇぇぇぇ。


 何が『世知辛いご時世に一目惚れとか、マジねぇわ』、だ? アホだろ。

 そもそも意味不明だよな。いっそ黙ってりゃ良かった。


 そう言えば、異世界って魔法とかありそうだよな。

 もしかして、記憶消すとかそういうのもあるのかな?

 魔法って、難しいのかな。

 数学と似てるとか、そういう感じなら割といけるかも知れないと思うのだが……。


 ……まぁ、こんな風に、思考回路は意味もなくこだまを続けていた。

 でも、もう現実と向き合わなければならない時間である。


 その現実とは、俺みたいな奴としては相当キツいものである。

 それは──





「──って、なんでこうなるのよ!!」


 俺の隣で、導入部のあのギャルが絶望の悲鳴を上げている。


 俺は今、彼女の暮らすアパートみたいな空間の中にいる。


「……」


 やべ、何かすげぇいい匂いするな。

 しかもキラキラに飾られていて、俺のオタク空間とは違いすぎる。

 あ、でも割とニホンのアパートと似ている。

 電気製品がないのは当然だけど、それ以外はそんなに大した違いはない。


 でもこの子、かなりの金持ちなのかな?

 高校生くらいの歳で、一人暮らしの空間がこんな広々な所だなんて。


 ……はっ、思わず色んな所をチラチラしてた。

 やばい、不審者だと思われてしまう。


「……じっくり観察は終わった? へんたいくん」


 彼女はうずくまった状態で、顔だけ上げてこっちを睨んでいる。

 瞳に、嫌悪と殺意が込めて。


 あ、これ、終わったな。

 既にキモがられてるし、めっちゃくちゃ嫌われてる。


 ……でも、さすがに諦めるのは早すぎると思う。


「べつに、観察なんか、してないですよ……ア、ハハッ」


 そんな作り物の笑顔を浮かべる。

 どうにか自分が危険じゃないことをアピールした。


「顔、キモ」


「……」


 なんと、効果はマイナスだった。





 なぜ俺が初対面の異世界ギャルのお家にお邪魔しているのか。


 断じて犯罪の類ではないので、勘違いはしないで欲しい。

 俺だって好きできたわけじゃないんだよ。


 あの派手な登場の直後、俺はこの世界の王さまのところへ呼び寄せられた。

 彼が直々、命じたのだ。


「お前、これからあのギャルと四六時中つきっきりにしてろ」


 まぁ、実際はとんでもない硬い口調だったけど、内容はあってる。


 そのわけは、『預言』と言っていた。

 何か、この世界には預言というのがあるらしい。

 その内容は、詳しく説明すると長くなるけど、適当に要すると、これだ。


『瞬きの乙女に、別世界からの少年が付き従うべきだよ。そうじゃないとこの街はなんやかんやあれやこれやで大変なことになるね。それを防げるのは少年だけ。

 はい、じゃあそんな感じで、ヨロシクゥ!』


 ……ちなみに、その『瞬きの乙女』がこっちのギャル。

 その名も、ソルダネラ・フォリアモメンタネア。

 長ぇよな。俺とは違う方向でツッコミを入れたい名前だ。

 そして、言うまでもないが、その『別世界からの少年』が俺だ。


 ……まぁ、ふざけるのも大概にしろ、って感じだよな。

 でもこの世界では預言が持つ重みはとんでもないもののようだった。

 あの王さまがこっちを見る視線なんか、すごかったよな。

 今まで向けられたこともない期待感が、たっぷり込められていた。

 まるで、この街を救える英雄でも見ているような。


 ──残念だけど、俺には荷が重すぎるんだよ!

 俺TUEEEEEの展開なんかいらねぇってんだよ!


 今、願うことは、ただ一つだけ。

 元の世界に、戻りたい。





「いきなりへんたい根暗くんと一つ屋根の下とか、無理なんですけどー」


 金髪ギャルさんは呆れた顔で、そう言った。


 そんなこと言われましても、俺だって好きでやってるんじゃねーですし。

 とか、言い返したい気持ちは一杯だったが、口までは至らない。


「あーあ、世知辛いご時世に未成年男女同棲とか、マジないわ」


 彼女の言葉に、ビクッ、となってしまう。


 ……このギャル、さてはそういう人なのか。

 人のこと根暗とか言ってるくせに、自分だってずいぶん陰気じゃないか。


 今、このギャルは言っていた。『世知辛いご時世』とか、『マジないわ』とか。

 最初に俺の口から滑った語彙そのまんまである。

 つまりは、遠回しの嘲弄なのだな?

 くっそ、どうせ笑われると分かったのなら。

 こっちは、開き直るしかない。


「あ、あの」


 俺は目を瞑っている彼女へ言い出した。


「最初のあの発言は、ただ混乱状態で呟いたうわ言なんです。深い意味はないので、忘れてくださると助かります」


「……は? 何いってんの? 最初の発言? 意味不なんだけど」


 彼女は目を見開いて、青い瞳でこっちを凝視してくる。

 ……どうやら、本気で俺の言ってることが分からないらしい。


「あ……ナンデモナイデス。スミマセン」


 ……くそ! 口が滑って変なこと言ったの気にしてたのは俺だけだったのかよ! 陽キャの忘れっぽさに泡食うわ!


 そう言えば、元の世界でも何回かあったよな。

 俺の発言を、相手は全部忘れたのに、こっちだけ思い込んで鬱になっていた経験。

 もしかして、今回もあれなのか?

 あのこと、覚えてるの俺だけ?

 他の人は全部忘れたり、そもそも最初から気にしていない?


 そう考えると、安心する同時に、なんか自分がとても、


「……馬鹿馬鹿しい……」


「なに一人でブツブツ言ってんの?」


 壁に向かって自嘲している俺に、彼女がそう言いかける。





 ギャルは、溜息をついた。


「まぁ、陛下のご命令だし、しかたないっしょ」


 少しは、心を決めた顔になっている。


「どうせなら、はりきってやんないとダメ、だし」


 俺ではなく、自分に言い聞かせているらしい。

 それまで言うと、彼女は何か電気を入れた灯りのように、一気に明るくなっていく。

 切り替えが早いというか、一度落ち込むと結構ながびく俺みたいな奴とは、格が違う。


 彼女は元気な顔で、こっちを見た。


「とにかく、一つ屋根の下で暮らすからって、へんな期待とかしちゃダメだかんね?」


「しねぇよ──いや、しません」


 からかうつもりで言ったらしい。

 しかし、ムカついたので一瞬敬語を忘れてしまった。


「……それじゃ、これからよろしくお願いします。えーと、確か──フォリアモメンタネアさん、でしたよね」


 俺は握手をしようと思って、右手を前へだした。


 しかし、相手は眉を寄せて、ジト目でこっちを見つめているだけだ。


 ……えっ、なに。

 まさか『テメェみてーな陰キャ童貞の手なんか触れたくねー』ってこと?


 ビビって出した手をぎこちなくしていると、話かけられた。


「アンタ、その呼び方、続けるつもり?」


「えっ」


「さすがに、長すぎじゃね?」


「で、でも、それがあなたのお名前なんですし」


「だよねー。ぶっちゃけ、うちも嫌いだわ。呼ばれるたびに疲れるっしょ」


 フォリアモメンタネアさんは、どうにもならないことで愚痴を言った。


「──だ、だったら、もしかして」

 

 これってまさかの……名前呼ばれてヒロインが照れるイベントなのか?!


 漫画で見たよな、こんな場面。

 テンプレだけど、何か約束された可愛さがあるんだよな~。


 そう言えば、目の前のギャルは、外見だけは元の世界では見たこともないレベルだ。

 あの顔で照れたりすると、破壊力はきっとえぬつー地雷級にも及ぶだろう。


『ば、ばか! ソルダネラって、いきなり呼ばれると……』

『じ、じゃ、うちも、よろしくね、ロゴス♡』


 ……。

 うおおおお。

 勝手な想像から、心の中でテンションがあがった。


 しかし、


「──フォリアさんでいいよ」


 ですよねー。

 まぁ、知ってた。


 高揚した思いは、瞬時に落ち込んで行く。


「はい、分かりました……フォリアさん。これからよろしくお願いします」


 だが、俺とは逆に、彼女は眩しい笑顔だった。


「じゃ、今からはそう呼ぶことね」


 彼女は俺の右手をとって、握手をした。


「よろしくね、ロゴス」


「っ」


 再び、頭の中は甘酸っぱい色で滲む。

 忙しないと言ったらないな。


「ん? どした? ロゴスが家名なんでしょ?」


「……あっ、そういうことでしたか」


 どうやら、文化の違いが生んだ錯覚だったようだ。

 さすがに、インパクトは消えないけど。


「あの、僕の故郷、ニホンのことなんですけど、そっちでは苗字、つまり家名の方が先に来ます。だから(ろごす)というのは僕個人の名前で、家名は晴野(はれの)ですよ」


「ふーん、そうなんだ。へんなのね」


「まあ、そんなことです」


「ん、わかった。教えてくれてありがと、ロゴス」


「っ」


 なんだ、この女は。わざとなのか?

 なんで、こんなに……。


「あの、僕の説明聞いてました?」


「? 聞いてたし?」


「……」


 まさか、これも文化の違いなのか?


 そう言えば、アメリカとかでは下の名前呼びがかなり普通って言ってたよな。

 こっちも地球で言ったら西洋の方なんだし、そうなのかも。

 でも、だったら何で俺には『フォリアさん』って呼べって言ったんだろ。


 ……ていうか、なんでこっちがこんなに照れてんだよ?

 少女漫画の主人公か、俺は?


 とにかく、考えすぎだ、あほ。

 多分、あっちはなんとも思っていないんだよ。

 そういうところが根暗丸出しだから、少しはちゃんとしろ。


「どした?」


 ちらり。

 フォリアの顔を覗き見る。正面だけど。


「……アンタ、急に黙ってうちのことチラチラ見るの、マジでヤメてくんね?」


 ほらやっぱり。


 その可愛い……じゃなかった。

 その無駄に良すぎる顔の上には、一ミリの思考も存在しない。

 たぶん、だけど。


 ちょっと顔を顰めて、こっちを軽蔑する表情で見ている。

 けれど、あんな宝石のような青い瞳で睨まれると、むしろ良……。

 いや、ヤバいだろ、お前俺それは。

 俺は今なんとも思ってなかったわ。

 ぜってー変態みたいなことは思ってなかった。うん。


「どーせへんたいっぽい想像とかしてるんっしょ」


「ぐはっ」


 丸見えだったようだ。

 なんで? もしかして魔法とかで読心術とかしてるのか? 異世界こわっ。


「だって、今のロゴス、顔キモいし」


「……」


 直撃が来た。轟沈した。





「はぁ……今のでマジポイント爆下りだわ」


 フォリアは、最初の呆れた顔に戻っていた。


「アンタみたいなへんたいくんと暮らすとか、マジムリムリムリのムリっなんですけど」


「……あの、済みません、なんか」


 それは、本気で思ったことだ。

 まぁ、へんたい云々はさておき。

 それでも、この子は華々しい少女で、しかもキラキラのギャルだ。

 俺みたいな奴と暮らすとか、最悪に決まってるだろう。

 こっちから申し訳ない気持ちになってしまうのだ。


「たぶん、嫌ですよね。分かりますよ。でも、極力迷惑はかけないように頑張りますから。ほんとに、すみません」


「……謝んないでよ」


「えっ?」


「うちは状況が気に入らないだけだし、べつにアンタは悪くないじゃん。言ってることも嘘じゃないっぽいし」


 フォリアは、妙にも優しい表情をしていた。


「知らない街にいきなり投げられたんっしょ? うちだったらマジしんどくて、ずっと泣いていたかも。やば、想像しただけで怖くなっちゃった」


 言い、彼女は口元を和らげた。


「そう思うと、ロゴスってけっこう強いんだね。えらい、えらい」


 フォリアは手を伸ばして、俺の前髪のあたりを撫でてくれる。

 身長差のせいで、あっちがこっちを間近で見上げる構図になる。


「……」


 なんだよ、それ?

 急に優しくするの、なんなんだ?

 意味分かんねぇ。

 あと、やべ、至近距離で眺めると、やっぱ可愛すぎ。


 俺みたいな奴は、ただそれだけでも……。


「……ぷっ」


 突然、彼女の口からそんな音が出てきた。


「やっばぁ……ははははっ!!! ロゴス、顔真っ赤じゃん!」


 腹を抱えて、異世界ギャルは爆笑した。


「なになに? 今ので好きになっちゃたぁ? ちょっっっっっろ。ははははは!」


 ……こいつ。

 やられたな。


「……ちっ、からかうなよ」


 頭を適当に掻きながら、言う。


「お前は慣れてるだろうけど、こっちは女とまともな会話もめったになかったんだから」


「あっ、やっと敬語やめてくれた。そっちが自然でいいじゃん!」


 そう言えばそうだ。

 何か、流れ的にそうなった。


「ロゴスって、ちょっと力抜いた方がいいよ? マジメなのもたまにはいいけど、ぎこちなさすぎると見てるこっちまで固くなっちゃうから」


「……そう、なのかな」


「絶対そーだよ! ロゴス、顔は……キモい表情だけしないとまあまあ良いし、肌も綺麗だし、髪型もなんか意外とおしゃれだし、暗い性格だけ直せば、少しは人気でるかもだよ?」


「……」


 だから、そんなことを気安く言うんじゃねぇよ。

 勘違いしちゃうから。


 ……てか、なんだ、この胸の鼓動は?!

 こいつは何の意味もなく言ってるだけだ。一々反応すんじゃねぇ!


「ん、きめた」


 フォリアは何か悪巧みするような、芝居がかった表情をする。


「うちがロゴスに、女の子の色々、教えてあげる。ロゴスの『初めて』、もらっちゃうから!」


 言い方!

 わざとだよな? 絶対わざとだろ?


 くそ、どうなってんだ、ここの世界は?

 中世ほどではないけど、地球の過去と似たような感じじゃなかったのかよ?

 あんなことを可憐な少女が何気もなく言えるって、倫理観どうなってんだ?

 世も末を超えて端っこで爪先で立ってるもんだろ!


 ……俺ってすげーつまんねぇこと言ってるよな。

 だから童貞なのかな。


「あっ、また赤くなった。ナニ想像したのかな? ん? んー? んんんーっ?」


 こっちの腹を、綺麗だけど長い爪先でツンツンしてる。

 割と結構痛い。


「はははっ、やば、こんな笑ったのって、めっちゃひさしぶりだったかも! ロゴスと暮らすの、以外とイケる感じ!」


 彼女は大きい一歩で俺から離れる。


 振り向いて、ちょっとだけ前かがみになる。

 そして、こっちを眩しい笑顔と一緒に見つめる。


「じゃ、あらためて──これからよろしくね、ロゴス♡」


 ……ああ、これはマジで終わってる。


 俺は今日から、わけの分からない異邦の地で、ギャルのおもちゃにされるのだ。





 最悪の日々のはずだ。


 なのに、なぜだ?


 なんで、心がこんなにも踊ってるんだ?


 その答えをはっきり言える勇気が、その頃の俺にはなかった。





「──ふふっ、一目惚れ、だって」



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