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配達依頼

異世界転移系のリアルタイムバトル✖戦略をイメージした作品です。


1章では戦闘システムを書くために魔獣戦を書きましたが、

徐々に人対人に移っていきます。


週2 水曜日・日曜日 更新 予定です。

「リョウ。起きてるか~?」


トントン、と控えめなノックの音。

ルーダの声で、浅い眠りから引き戻された。

ドラゴン討伐から、もう数日。

それなのに、あのとき流れ込んできた膨大な負の感情が、今も胸の底に澱のように沈んでいる。

眠りが浅く、朝になっても体が鉛のように重かった。

重い体を引きずり、ドアを開けるとルーダが立っていた。


「おはよう。……顔色、悪いぞ」

「おはよう。ちょっと中で待ってて」


あれからみんなで家を探してもらい、今は簡素な借家暮らしをしている。

まだ住み始めたばかりということもあり、ベッドと椅子とテーブルしかない。


「リョウ。大丈夫か?異能の反動か?異能は強力な分、後遺症を伴うことがあるらしい。聞くところによるとホークも目の異常があるそうだ」

「……多分ね。でも前にも似た経験があるし、対処は分かっているから大丈夫だ」


大丈夫とは言ったものの、頻繁に使用して徐々に蝕まれていったら分からない。

とりあえず睡眠をしっかりとって、精神の回復を待つのが対応策といったところだ。

この世界で、そんな悠長なことができるのか、分からないが……


「少しでも何かあったならすぐに言えよ。俺たちは仲間なんだ。全力で助けるからな!」


ルーダのような存在は本当にありがたい。

重荷になることもあるかもしれないが、今はそのやさしさに感謝したい。


「ありがとう。それで……今日は?」

「ああ、詳しくはギルドルームでメンソさんから話があるから、準備できたら行こう。ゆっくりでいいぞ」


そうは言うものの待たせるのも悪いので、こちらで買った服に急いで着替え、ルーダと共にギルドルームへと向かった。


*


「全員揃ったわね。じゃあ話をするわよ」


メンソールが静かに切り出した。

部屋の中には、パンテラ、ルーダ、キャンシル、メンソール、そして俺がそろっていた。 ルーダとキャンシルは大体いつも一緒に行動していてたまに会うが、全員がそろったのは魔獣討伐以来だ。


「それで、今回の依頼は何でしょうか?」

「聞いて驚かないでよ」


もったいぶったように、一瞬止めて静寂が流れる。


「ロンド共和国への親書配達依頼よ!」

「おおおぉぉぉぉぉぉぉ~!」


俺以外の全員が歓喜の声をあげる。

ただの配達で何をそんなに喜んでいるのか、わけもわからず一人ぽかんとしていると。


「リョウ。やったな!運がいいぞ!」

「えっ?何が?」


皆が呆れたようにため息をつく。


「親書を届けるということは、他国へ行けるということですよ」

「そう。滅多にないチャンス。他国へ行く機会なんて、今後ないかも」


パンテラとキャンシルが次々と興奮気味に説明してくるが、他国へ行くことがそんなに嬉しいことなのだろうか。俺にはまだよく分からなかった。


「簡単に説明しますと、各国は魔獣が発生したときから統廃合され、弱い魔獣しか生息しない地域に建設されました。そのため、各国へ行くには強力な魔獣が発生する地域を通る必要があり、そう簡単には行けないんです」


なるほど、だから行き来が難しいのか。

この前の戦闘を思い返せば、強力な魔獣が出たときに一般人がいかに無力かは骨身に染みて分かる。


「私たちは戦争にも駆り出されるから機会もそれほどない」

「でも、ここに来た時にそれなりに行商の馬車があったような……」

「ああ、それは転移拠点を取られているからよ」

「……転移拠点?」

「最初に人との戦闘に巻き込まれたでしょ?あれは転移石がある拠点を奪い合う戦闘。例えば、この前の戦闘で帝国に奪われた転移拠点は、帝国からその拠点までは転移できるようになり、簡単に行き来できるのよ」


つまり、あの戦闘はそれだけ重要な意味を持っていたということか。

見た行商はまた別の拠点から来たもので、現在ノクス皇国はどの拠点でも劣勢を強いられているという話をメンソールが続けた。


それを聞いて、あのとき受けた叱責と降格処分の重さが、ようやく腑に落ちた気がした。


「ということは、皆も他国へ行くのは初めて?」

「当然。しかもロンド共和国。いろんな種族に会える」

「エルフにドワーフに獣人。たまに見るけど、文化も違うし楽しみだわ~」


皆が嬉しそうにしているのを見ると、俺も段々とワクワクしてきた。

憧れていたファンタジー世界の住人に会えるなんて、今から楽しみだ。


「出発は明日の朝。近くまでは拠点で飛ぶから中央の転移石辺りに集合ね」


この世界に来てからというもの、ほとんど旅に出ているなと思いつつ、旅も悪くないと思い始めていた。


*


借家に戻り、一人になると途端に静寂が重くなった。

仲間の声が消えると、現実だけが残る。


明日から旅が始まる。

新しい国、新しい出会い。

それでも、胸の奥にある澱は消えていなかった。

ドラゴン討伐のとき、俺の中を流れ込んできたあの感情たちは——不安、恐怖、絶望——果たして本当に消えるのだろうか。


窓の外、夜の街並みを眺めながら、ふとそんなことを思った。

遠くで何かに見られているような気がして目を凝らしたが、闇に溶けて何も見えなかった。

気のせいか。

そう思いながらも、その夜もなかなか眠れなかった。


ここまで読んでいただきありがとうございました。


ブックマークしていただけると喜びます。


次回は3月4日(水) 20:00更新予定です。

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